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「バックライトマスタードライブ」に第2世代OLED、ディスプレイの進化は止まらない麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2016年02月12日 17時09分 公開
[天野透ITmedia]
ヨーロッパでは既に発売されているパナソニック製OLEDテレビ。マーケティングの都合でアメリカでは未発売。日本メーカーのOLED展開は非常に気になるところだ

麻倉氏:今の時点で既に第2世代パネルは出ているため、コストや供給量の折衝を鑑みると、早ければこの秋にも出てくる可能性はありますね。そしてパナソニックから出たとなると、東芝やソニーの動きも気になってきます。昔と違って今は基本的に両社ともパネル購入でテレビを作っているため、価格と性能次第でOLEDは充分選択肢になり得ます。

――今年の秋となるとそう遠くない未来ですね。これは非常に楽しみです

麻倉氏:OLEDの問題点として、焼き付きと暗部ノイズは解決したわけですが、実はもう1つ、白色に関する問題が残っています。白は純粋に白色光として出しているのではなく、青色の有機ELに黄色の蛍光体を塗って出しているのです。太陽光が7色に分解されて虹になることから分かる通り、光は“加色法”で色を出すため、本来白色光にはさまざまな色が混ざっているのですが、青と黄色の混色では3原色混合の白と比較して内包する色が絶対的に少ないため、表現範囲が狭くなります。この部分をうまく解決できるかが、パナソニックを含めた日本メーカーが本格的にOLEDに取り組めるかどうかの岐路となるでしょう。

 新規開発という点ではソニーに期待したいですね。というのも、かつてソニーが大画面OLEDをやっていた時は、青色の有機ELに黄色の蛍光体を塗って出しカラーフィルターで分解するという、今のLGと全く同じ方式をずっと積み重ねていました。ソニーの当時のパートナーは台湾AUOで、それにパナソニックが合流して共同開発をしていました。パナソニックは後に印刷方式の自社生産を経由してLGディスプレイと組む訳ですが、ソニーは今のLGと同じ蒸着方式だったため、そういう意味でソニーは白色の使い方に対してかなりノウハウを持っているかと思われます。ソニーがキッチリと白色バックライトOLEDに取り組めば、さらにOLEDの画質が良くなるという期待が持てます。

――日本メーカーの開発力に期待しましょう

麻倉氏:OLEDの話題ではもう1つ、LGが巻取り式の18インチを発表したことも見逃せないニュースです。実は私は、昨年からLGディスプレイには本社へ2回行き、北京やベルリンでもずっと追いかけていたのですが、OLEDに対して画質はもちろんのこと、最近は巻取りや凹凸など、テレビの新しいカタチに対して熱心に取り組んでいる様も見てきました。今回、披露されたのは小さな18インチだったのですが、これが大画面になれば非常にパワフルなデバイスになるでしょう。

クルッと巻き取れるOLEDパネルを持つ麻倉氏。「リビングの壁面に、普段はお気に入りの絵画や写真を、家族やお客さんが来たらOLEDスクリーンを」という使い方が未来の常識となるだろうか

麻倉氏:大画面テレビというのは、使っていない時は単に“黒くて目障りな板”でしかないという問題があります。使わない時には巻取って、使う時にはスクリーンのように出してくる、というのがこれからのあり方ではないかと私は考えています。おそらく近い将来テレビは“壁”になるでしょう、つまり100インチ200インチ単位の大画面です。例えば今回、サムスンが170インチの巨大液晶テレビを出してきましたが、これって使ってない時は170インチのテカテカな黒い壁なんですよね。小さい画面ではそこまで考える必要はないですが、大画面になればなるほど使っていないテレビには悪い存在感が出てしまいます。

 そこで今回の巻取りOLEDが登場するのです。100インチも巻取りになれば面白いですね。今は18インチですが、来年、再来年には50インチ60インチをやろうと思っているらしいですから、こちらにも大変期待しています。

――確かに巻き取り式なら導入のハードルは下げられそうですね。巻取りOLEDが大型化した時には、ホームシアターのスクリーンがOLEDに置き換えられる可能性もありませんか?

麻倉氏:面白そうですが、シアターとテレビの違いについては考慮する必要があるでしょう。映画というのは投射型のスクリーンを眺めますよね。投射型は反射の時点で実体感が一度リデュースされます。映画の場合はこれが独特の雰囲気になりますが、テレビの風景映像ならばこのリデュースはない方が好ましいです。

 例えばソニーの超短焦点プロジェクターでやっているアプリケーションに「ロンドンのキングスロード」「ニューヨーク5番街」の今の様子を映し出すというものがあるのですが、これらは映像の窓があって、その向こう側に実体の景色があるという構造になります。そもそも映像の実体感というのは自発光で光が出てくる時に表れます。自発光のOLEDが巻取りになると、ある時にはロンドンへ、ある時にはニューヨークへ連れて行ってくれ、またある時には映画を見るということもできるようになるでしょう。ソニーの超短焦点プロジェクターも悪くはないですが、残念ながらあれは明るい室内での(画面の)暗さが目立ちますね。暗い中でのスクリーン反射ではメイクセンスしているのですが、明るいところでは急に輝度が落ちるため、そこはやはり自発光で出るのが理想的でしょう。繰り返しますが、将来テレビは間違いなく壁になります。その中でどのようにウィンドウを切って、どのようなアプリをやるかが大事になってきますね。

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