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麻倉’s eyeで視る“ブルーレイのアカデミー賞”、第8回ブルーレイ大賞レビュー(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/5 ページ)

» 2016年03月29日 15時51分 公開
[天野透ITmedia]
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“Blu-ray Disc界のアカデミー賞”こと「ブルーレイ大賞」が今年も行われ、昨年発売された中でも特に上質なBlu-ray Discソフトが選出された。年々Blu-ray Discソフトの完成度は上がっており、審査委員長を務めるAV評論家の麻倉怜士氏は、「今年は特にハイレベルな接戦が繰り広げられた」と指摘する。アワードの意義や裏側を、大いに語り尽くしてもらおう。

本年度のアンバサダーを務める前田敦子さんを囲む、審査委員長の麻倉怜士氏(画像右側)。グランプリのトロフィーを手にしたのは……

麻倉氏:去る2月17日に「第8回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」が発表されました。8回というのは2008年から数えてのことで、2006年にBlu-ray Discソフトが登場し、その2年後から日本でアワードがスタートしています。

――近年は映画好きの著名人がアンバサダーを努めていますね。昨年は自宅にLINNのシアターシステムを構えているという竹中直人さんで、今年は1日に8時間も映画館に居ることがあるという前田敦子さんでした

麻倉氏:DEG(デジタルエンターテイメントグループ)の本国であるアメリカに端を発する本アワードですが、あちらでは「Quality Excellent賞」となっています。新作賞や旧作賞をはじめ、小売やハードなど、最近はBlu-ray Discに限らずOTTなどを含めたデジタルエンターテイメントの幅広い側面を検証しているのですが、実のところ行事としては日本のほうが遙かに大規模ですね。

 日本は本国であるアメリカと異なり「ブルーレイ大賞」で、いかにBlu-ray Discを伸ばすかというところに焦点をあてています。色々な観点でBlu-ray Discの特に優れた作品をピックアップし、さまざまな角度から多面的に評価して表彰することで、市場をより活性化してユーザーを増やすことが最終的な狙いです。こういったメディアのプロモートイベントは私もいくつか参加したことがあり、今では当たり前のBSデジタル放送が始まった2000年代初期頃には「BSデジタル大賞」というものを開きました。これはオリジナル作品をピックアップして表彰することで、優れた番組を生み出す原動力にしたいというものでしたが、そういう意味では本アワードも根底にある狙いは同じで、日本で発売される世界のコンテンツに対して検証をし、優秀なものを世間に知ってもらおうと頑張っています。

 DEG大賞で初回から一貫しているのは「作品賞ではない」ということです。Blu-ray Discが持っているハイビジョンとしての画質、TrueHDやDTSなどの高品位音声フォーマットメディアとしての音質、インタラクティブを中心とした機能性といった、他メディアにはないBlu-ray Discならではの特長を上手く生かした作品に対して「クオリティ賞」を与えようという点が、このアワードの理念です。

――多くの方に勘違いされがちですが、映画ソフトなら演技や物語の良いもの、音楽ソフトなら演奏の素晴らしいものが、必ずしも高評価を受けるわけではないということですね。そういった評価は各映画祭やアカデミー賞、グラミー賞などの役割であって、ブルーレイ大賞はあくまでBlu-ray Discとしての完成度の高さや内容の充実度を評価するもの、と

麻倉氏:そういうことですね。もちろん演技や演奏が素晴らしいのは当然のこととして、評価軸としてはBlu-ray Discというメディアをいかに素晴らしく、また面白く使いこなしたか、というところに置いています。評価を受けたBlu-ray Discの良さを知ってもらうため、最近は業界としてのプロモーションと連動もしていますね。例えば販売店やレンタル店でブルーレイ大賞コーナーを作って受賞作品を並べ、販促に役立ててもらうといった感じで、業界を挙げて優れた作品をプロモートし、市場活性化のきっかけにしようという動きがこのところ特に強くなっています。

――Blu-ray Discで失敗をしたくなかったらこれを買え、といった感じですね。毎年多くのタイトルが出ている中で一般消費者がBlu-ray Discソフトを選ぶ際、非常に良い指標になっていると思います。何せレコメンドを出しているのは、さまざまな意味でBlu-ray Discを知り尽くしたプロ集団ですから

麻倉氏:審査は1年以内に発売されたBlu-ray Discソフトのうち、ソフトメーカーや審査員らによる推薦エントリーで集められた約80タイトルのノミネート作品から第一次審査によって部門賞を選び、その中から2次審査で最終的な各部門の最優秀賞と最終的なグランプリを決めるというものです。審査員は評論家枠として審査委員長の私と、本田雅一先生、藤原陽祐先生の2人が、それに加えて映画やエンタメ、アニメやオーディオビジュアルなどの専門雑誌編集長のほか、各メーカーの画質担当者らが務めています。

 審査のための作品視聴期間は正月前後に集中していて、1月中旬までに各部門のノミネート3作品を1次審査の結果として出すのですが、私は毎年CES取材のために年明け早々に渡米し帰国する頃にはもう月半ばになってしまうので、毎回年末年始に80作品をイッキ見しています。仕事だか遊びだか分からないうちに大量の作品を観るので一苦労ですね(苦笑)。

――本田先生も同じようにCES取材をされているので大変そうですねぇ…… 怒涛の年末年始で正月どころではなさそう(汗

麻倉氏:大賞初期の頃はクオリティーのバラつきが見られ、良いものとそうでもないものの差が結構激しかったのを覚えています。しかし10年ほど経った今は機材やテクノロジーが進歩し、またHD素材の編集技術が熟成してきたことで、なかなかの接戦になってきました。中でも今年は特に画質・音質ともに高水準の作品が集まったという印象が強いです。そのため審査において「あれは惜しいね」となるものも結構多いんですよ。ここ数年は例え正式に受賞には至らなくても審査員として「これは是非推薦したい」というものをピックアップし、審査員特別賞を出しています。こうやってさまざまな角度から評価し、Blu-ray Discの良さを幅広くすくい上げているのです。

 それでは今年のBlu-ray Discを代表する各部門賞を見ていきましょうか。先程も述べた通り、今年はかなりハイレベルな戦いが繰り広げられたので、受賞作はどれも粒ぞろいですよ。

――先生方がどういった観点で作品と向き合い、Blu-ray Discの何を視ているのか、非情に楽しみです。早速お願いします!

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