麻倉氏:まずは3Dのクオリティーに対して評価をするベストBlu-ray 3D賞から。受賞作は長編ファンタジー「ホビット」3部作の最終章です。
――原作は児童文学者の世界的大家であるトールキンによる「ホビットの冒険」ですね。傑作「指輪物語」は現代のゲームなどにおけるファンタジー観に多大な影響を与えましたが、ホビットの冒険はその前日譚にあたる物語です。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作とつなげると、長大なトールキン・ファンタジーの折り返し地点と取ることもできますね。監督も一貫してピーター・ジャクソンが務めています
麻倉氏:君は文学も詳しいんだね。
――いやいや先生、僕は文学部の大学院に在籍しているんですよ?
麻倉氏:ああ、そうだったそうだった。すっかり忘れてたよ(苦笑)。今回、この賞を選定するにあたっては、実は後ほど取り上げるベストインタラクティビティ賞の「エクソダス」が大活躍を見せて大いに悩みました。モーゼの「出エジプト記」をテーマにしたエクソダスも3Dが非常に素晴らしいんですよ。メーカーが指定したチャプター36は、エジプト軍に追われたヘブライ人が海岸まで追いつめられるが、そこを大津波が襲い、エジプト軍を一網打尽にするというシーンです。ここでは有名な海割れとは異なる視点が描かれており、手前と遠景との差や個々の人物の奥行き感など、立体感の水準が高く素晴らしかったですね。
しかし最終的な受賞作はホビットでした。こちらの指定チャプターはドラゴンが正面から襲ってくるシーンです。非常に接近したところまでドラゴンが寄ってきて、顔の立体感がドラマチックに描かれ、なおかつ黒の沈み感と、そこにオドロオドロしい色が迫り来る。アクションシーンのスペクタクル感という点において、3Dならではの感覚である俯瞰とのメリハリ感やそれによる恐怖感、3Dならではの物語の紡ぎ方、語り方が良くできています。3Dのトータルの使いこなし方、映像や音声のダイナミックさといったものが評価の決め手となりました。
――3Dならではの表現でより一層作品に没入できるということですね。ですが3Dは「映像に酔ってしまって長時間見続けられない」とか「メガネがじゃまで映像に集中できない」といった声も聞かれ、大々的に宣伝されていた数年前程の勢いが感じられませんよね。市販されているテレビのほどんどが3Dに対応しているのに、もったいないなとも思いますが……
麻倉氏:確かに3D自体、家庭において以前のような勢いで見られているという訳ではないですね。家庭における3Dの問題点は、テレビだけが3Dという特別なフィールドになってしまい、後は日常の風景の中に非日常な3Dが紛れ込んでしまっているからだと私は思います。映画的な3Dというのは、暗い劇場の中でスクリーンだけが3Dとして浮かび上がるという集中効果がありますが、テレビだと明るい住空間の日常性に埋没してしまい、非日常のイベント性というものが消えてしまいます。しかし家庭においても必ず明かりを落として視聴するプロジェクターはテレビのようにならず、暗黒の中にスクリーンだけのコンテンツの世界が浮き立ちます。3Dはプロジェクターでこそ生きるメディアであるといえるでしょう。
――非日常性やイベント性という観点を挙げるならば、大きな画面で観るというのも重要ですね。暗い環境だけならば夜に部屋の電気を消せば誰でも作ることができますが、3Dが持つ迫力と没入感を最大限引き出すにはやはり大画面というのが大きなファクターになると思います。50インチ位のテレビであっても1m以内くらいまで視聴距離を詰めれば相対的に大画面にはなるでしょうが、絶対的な圧迫感が強いので映画を見終わる頃には疲れてしまうでしょう。その上液晶テレビは輝度を最小まで落としても結構明るいですから、物理的に大画面を得やすく暗室に浮かび上がるという効果はやはりプロジェクターが有利ですね
麻倉氏:映画の世界で言うと、劇場では3Dが最早当たり前になっています。IMAXなどの高品質な3Dシアターもかなり認知されていますから、市民権は充分に得ているといえますね。そういう意味でホビットやエクソダスは、3Dで観て大変感動するソフトではないかと思います。
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