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麻倉’s eyeで視る“ブルーレイのアカデミー賞”、第8回ブルーレイ大賞レビュー(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2016年03月29日 15時51分 公開
[天野透ITmedia]
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ベストインタラクティブ賞 「エクソダス:神と王 4枚組コレクターズ・エディション」

麻倉氏が「他の賞に推したいくらい、画も音も素晴らしい」と舌を巻く「エクソダス」。映像のみならず、モチーフとなったモーゼにまつわる歴史的背景を、映像を見ながら知ることができる

麻倉氏:どんどんいきましょう。次はベストインタラクティブ賞、受賞作は「エクソダス:神と王」です。先程も話題に上がりましたが、本作は別部門の受賞が相応しいくらい、画も音も非情に素晴らしかったですね。他所は他所で優秀作があるためなかなか難しかったということで、最も対抗馬のすくなかったインタラクティブ賞での受賞となりました。

――モーゼの「出エジプト記」をテーマにした物語でしたね。今年の本命に対する強力な対抗馬という立ち位置でしょうか

麻倉氏:インタラクティブは残念ながら現在低迷中の部門なんです。Blu-ray Discが出た時の目玉機能の1つにJAVAとネットを使ったインタラクティビティといったものなどもありましたが、実際のところあまり取り組むところがないです。

――ネットは最新の情報を常に更新し続けるという性質のメディアなので、時間が経つと陳腐化したり、サービスが終了したりしますからね。固定化された情報を蓄積するパッケージメディアとは本質的に合わない部分もあると思います

麻倉氏:エクソダスでは何をしているかというと、再生中に登場人物の解説を閲覧できるんです。例えば再生中にモーゼを選択すると、歴史的なモーゼの人物像やこれまでの描かれ方などといった情報を、必要に応じて引き出すことができます。まるで映画の百科事典ですね。

――歴史系のシミュレーションゲームなどによくある機能ですね。今年TVアニメ部門の高画質賞を受賞した「Fate/staynight」の、原作にあたるPCゲームでも同じような機能がありました。あちらの原作はノベルゲームに大インパクトを与えた作品ですが、アーサー王やヘラクレスやメデューサとかいった古今東西の英雄がキャラクターとして登場するため、英雄の偉業に対する神話の解説がゲーム中のオプション機能にありました

麻倉氏:エクソダスも神話をテーマとする作品なため、ヘブライ人や当時のエジプトの情勢、ユダヤの時代背景といった、幅広い基礎知識が必然的に要求され、これを知っていると知らないとでは、作品理解の深みが全く異なってきます。こういった基礎知識は本を読んで手に入れても良いのですが、やはり映像を見ながら同時に引き出すというのが、作品に没入する非常にパワフルな機能として評価された訳です。

 ですが、この賞は応募も少なく、低迷していることが否めません。思うに、映画を楽しむのにそこまで能動的に動く人は少ないのではないでしょうか。ストレートに映像を見て楽しむのは良いですが、そこにネットから検索情報を引っ張るというインタラクティブ性を持ち出すというのは、ちょっと違う感じがします。

――Fateの原作にしても、いくら電子紙芝居付きの小説という形式を取るとは言え、あれはあくまで「ゲーム」ですからね。言うなれば自分がリーンフォワード(前傾姿勢)を取り、積極的にメディアに働きかけるエンターテイメントです。物語の進行速度も自分のペースで勧めることができます。だから「セイバー(アーサー王)の物語をもう少し知りたい」とか「クー・フーリンって誰よ? 北欧神話の槍兵とか聞いたこともないし」という要求に対して、物語を一時中断して知識情報を引っ張りだしたとしても、プレイヤーにはあまり違和感を与えないんだと思います。

 ですが映画は違いますよね。クリエイターによって進行速度やフレーミングなどが綿密に組み立てられた映像世界を、リーンバック(後傾姿勢)でゆったりと楽しむエンターテイメントです。リビングにPCが進出し始めた2000年代前半からこういった指摘は何度もされてきましたが、リーンバックの空間でリーンフォワードを強いると、かえって疲れてしまい、エンターテイメントに対する没入度合いが減少してしまうと思うんですよ。気付かぬうちにリーンフォワードになってしまうため、姿勢的にも不自然で疲労の原因になります

麻倉氏:確かにそうですよね。研究ならば良いかもしれないですが、ハイパーメディアの様に色々な情報をマルチスクリーンで並べたり検索したりというのではなく、1つのストーリーを大きな画面の中でシンプルにコンテンツを楽しむというのがあくまで映像エンターテイメントの王道です。今回の取り組みは、そういった愉しみ方を補助するためのツールとして扱うと分かりやすいですね。

――という事は、映画以外ならばもしかすると活用の道が開けるかもしれないですか?

麻倉氏:それこそインタラクティブを活用した百科事典など、教育や学習といったソフトでは必要な考え方となるでしょう。常にリファレンスを引いてきて意味を確かめるというのは確かにあります。しかし映画というのは先程の話にもあった通り、1つのストーリーテリングのストリームに乗っかり、受け身で楽しむというメディアですから、やはりこういう考え方とはなかなか相容れないものです。

――では教育や学習の映像ソフトをBlu-ray Disc大賞の評価に入れてみると、もしかしたら流れが変わってくる可能性がありますか?

麻倉氏:否定はできませんが、残念ながらそういったジャンルのソフトははそもそもメーカーからのエントリーがありません。BDはエンターテイメントのためにDVDの機能を強化したメディアですから、教育の映像パッケージとなるとわざわざ制作費がかかるBDでなくともDVDで充分じゃないか、となるんです。むしろ教育分野はBDパッケージよりもクラウドの方が有利でしょう。クラウドは初めからインタラクティブで、なおかつ新しい物もどんどん入ってきます。パッケージとしてのインタラクションというのはなかなか難しいですね。

――せっかく部門を設けているので何とか活性化したいと思って考えてみたんですけれど、今回と同じようなパターンを使うならば、例えば旅メディアに情報を仕込むという使い方はできそうに思います。全国の鉄ちゃん達に高い評価を受けているビコムの鉄道映像で、それこそラストランの記念映像ソフトにダイヤや駅情報、車掌のインタビューなんかを仕込んでみたりすると面白いかもしれません。その他だと、スポーツ記録ソフトでデータ放送のような情報を仕込んでみるというのはどうでしょう。いずれにしても低迷に歯止めをかける打開策を何とか見つけたいところです

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