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麻倉’s eyeで視る“ブルーレイのアカデミー賞”、第8回ブルーレイ大賞レビュー(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/5 ページ)

» 2016年03月29日 15時51分 公開
[天野透ITmedia]
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ベスト高音質賞・ポップス部門 「ザ・ビートルズ 1」

米英ヒットチャートのナンバーワンタイトルを集めたベスト盤「ザ・ビートルズ 1」。2009年に48kHz/24bit版リマスターが発売されたが、今回はまた異なるリマスターが施され、同時にミュージッククリップがかなりの時間を掛けて修復された

麻倉氏:ここからはベスト高画質賞を見ていきましょうか。ポップス部門は「ザ・ビートルズ 1」です。これは昨年末の「デジタルトップ10」で取り上げましたが、今回は「ブルーレイ大賞」ということで、パッケージのBlu-ray Discディスク側が評価されました。

 まずCDは従来音源のリミックスです。ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーディンが、父ジョージと一緒にラスベガスのビートルズミュージカル「LOVE」を作った時に素材を発見し、これを使ったコンピレーションを作りました。今回はそのコンピレーションにミュージックビデオを付けて再発売したというものです。収録楽曲は米英でヒットチャート1位を獲得した25曲を収めたベスト盤です。

――これをはじめポール・マッカートニーの「NEW」など、活躍していた時期から50年経ってなおビートルズは根強い人気がありますね。時代を超えてなお色あせない魅力をビートルズの楽曲からは感じます

麻倉氏:再発売する時にまずは音声をリミックスしました。全曲に映像を付け、全て4Kでレストアした。CDとBlu-ray Discは同じ音源なのですが、これが実に見事ですね。

 2009年のリマスター盤と比較すると、マスターは同じものを使用しています。2009年のリマスタリング効果は絶大で、更に48kHz/24bit化によって情報量がグンと増えました。対して今回は野性的なサウンドになりましたね。音が持っている塊感、時代性、勢いというか、そういったものがほとばしる形で、荒削りなロックンロールになったというのが特長です。

――時代が持つエネルギーというか、そういうものを感じますね。1960年代のリアルタイムを僕は知らないですが、今と違ってまだ明日は明るいことが疑われなかった時代です。同時に東西の大きなイデオロギー対立に戦々恐々とする難しさがあって、ビートルズの音楽は西側の最先端を代表する音楽でした。それだけに時代を切り拓く強力なモノをビートルズは持っていた、そんな時代の香りを音楽から感じます

麻倉氏:音も凄いのですが、今回は映像が非情に印象的です。発売元のユニバーサルミュージックが事前試写会を開き、私はそこで初めてこの映像を観たのですが、今回の修復前後の比較にとんでもない衝撃を受けました。これがもうぜんぜん違うんです。

修復前は映像が揺れていてスクラッチや雨降りなどノイズだらけだったものが、修復によって揺れは見事になくなり、ノイズは驚くほど激減していました。一番の違いはコントラストが出てきたことです。従来は黒浮きして白のノビがいまひとつ、ダイナミックレンジが狭く色も薄かったのですが、今回は黒がちゃんと締まって白のノビも良く、なおかつしっかりと色が付いてきました。これぞリマスタリングですね。

「She loves you」など初期の映像はモノクロなので修復の効果はそこそこですが、ビートルズのミュージッククリップは1966年頃から35mmのカラーフィルムになります。モノクロからカラーへ、16mmから35mmフィルムへといった、10年間くらいの映像のリソースの増え方が見られ、とても面白いですね。例えば35mm撮影の「Strawberry Fields Forever」「Hello, Goodbye」などは本当にキレイ。若いビートルズの肌のハリや顔の立体感、個人の個性の違いや目の輝きなど、映像から読み取れるビートルズのスター性やビビットな部分、人間性といったものが、修復前後でこれほどまで違うかと驚かされます。音の修復にも驚かされるのですが、今回の新盤は映像と音がどちらも見事に修復されています。

――流石は世界のビートルズ。ちょっと調べてみたんですけれど、今では当たり前のミュージッククリップ映像を世界で初めて作成したのはビートルズだそうですね。現代の音楽史や文化史の資料的観点から見ても、リマスタリングは大きな意義を持つと感じます

麻倉氏:ビートルズはエバーグリーン、なぜかと言うとビートルズには世代間伝承があるんです。私が教鞭を執る津田塾の学生達にビートルズの話をすると「好きよ」という反応が返ってくるんですよ。1999年生まれの女の子が何処にビートルズ音楽と接点を持っているのか聞いてみると、例えば中学校や高校の先生が教えてくれたり、お父さんが好きでカーオーディオから流れていたりしているらしいです。

 これはディズニーに似ていますね。ディズニーは子どもの頃にまず接し、その子が親になったタイミングで「白雪姫」などをリバイバルして親子でこれを観ます。ビートルズも同じで世代間継承があり、なおかつそこにリマスターやリミックスや最新技術などが入ってくることで、新旧のファンが同時に驚喜します。20世紀の大スターですが、おそらく21世紀も22世紀も、時代を超越して聴き継がれるでしょう。

 ビートルズのあり方はベートーヴェンに通じるものがあります。ベートーヴェンは18世紀の大スターですが、世を去ってからも現代に至るまでそのカリスマ性は失われず、フルトヴェングラーやカラヤン、ラトルらといったマエストロ達が未だに演奏を続けています。その都度ベートーヴェンの音楽は蘇り、新たな解釈を加えて今なおリニューアルされ続けています。

 クラシック音楽の世界ではバッハ・ベートーヴェン・ブラームスを指して「3大”B”」という言葉がありますが、現代の音楽シーンではブラームスにビートルズが加わって「4大”B”」でしょう(笑)。

――クラシック音楽の話が出たということで、次は高音質賞のクラシック部門のお話から始めましょう。次回は各高画質部門や、昨年の映画シーンにおいて話題をかっさらっていった「あの」グランプリ作品についてです。V8を称える準備をしてお待ち下さい(前フリ)

麻倉怜士氏プロフィール

1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。



天野透氏(聞き手、筆者)プロフィール

神戸出身の若手ライター。「デジタル閻魔帳」を連載開始以来愛読し続けた結果、遂には麻倉怜士氏の弟子になった。得意ジャンルはオーディオ・ビジュアルにかかる技術と文化の融合。「高度な社会に物語は不可欠である」という信念のもと、技術面と文化面の双方から考察を試みる。何事も徹底的に味わい尽くしたい、凝り性な人間。



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