麻倉氏:次はベスト高音質賞・音響効果部門で、受賞タイトルは「バードマン」です。部門賞の名前の通り、この作品は音響が非常に効果的に設計されています。
――音響が効果的な映画とは、具体的にどういったものですか?
麻倉氏:この作品はワンカメラで追いかけていくという手法で撮られた特徴的な映画、サラウンドの効果と映像が完全に一致・同一視しているんです。
――つまり映像と音響がずっと1人称で展開するという訳ですね。それはなかなか興味深い
麻倉氏:ワンカメで追いかける、つまり映像と音にスイッチングがないため、この作品は画も音もその場のものが出てきます。「映像が途切れることなく流れる時にサラウンドを含めて音がどう展開するのか」というのは、映画作品にとって音のチャレンジでしょう。あるシチュエーションの中でサラウンドの音場を作るのは、単にその場の状況を分析すれば構成ができるでしょうが、時間とともにシチュエーションが変わった時にどのような音の配置を持ってくるか、サラウンドに何を置くか、どこからどんな音を出すかという移動的な展開を構築するのは結構大変なんです。バードマンはこのような難題に挑んだ意欲作ですね。
“1作品ワンカット風”(実際にはカットが用いられているが、映像の流れが途切れないように編集されている)で映像の動きに合わせて音が同期する一体感は実に見事です。主人公が劇場を出た瞬間に街の喧騒が全身を包み、再び劇場に入ると前方からドラムソロが現れ、舞台に上がればドラムが全体を包んでくる。この映画は動きとサラウンドの見事なシンクロによって、主人公の主観を視覚と聴覚の両面でもって演出しているのです。
――映像表現による1人称視点というのは、あまり記憶にないですね。ドラマでは常に3人称視点ですから。強いていうならTVゲームでサバイバルゲーム系などによく見られるFPS(First Person Shouting)くらいでしょうか
麻倉氏:このような作りをした5.1chの音は、実は広い劇場よりも、濃密なスペースのホームシアターできっちり構築されたサラウンドの方が、より製作者の意図が見えるんですよ。広い空間に多くの観客が入る劇場では場所によって音が一方に寄ることもあり、すべての座席を完全なスイートスポットにするというのは物理的に不可能です。劇場の端では反対側からの音が多いため、精密に造られた音の移動感、サラウンド感、映像との一体感という面を考えると、なかなか制作者の意図通りとはいきません。ですが限られたスペースで限られた人だけが入るホームシアターならば、よりディレクターズインテンションに沿った精密な演出を楽しむことができますね。
――劇場ではなく、家庭のホームシアターでこそ映える映画というのも、なかなか面白いですね。基本的に個人使用を想定しているBlu-ray Discにマッチしたコンテンツだと思います
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