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» 2016年04月04日 09時00分 公開

麻倉’s eyeで視る“ブルーレイのアカデミー賞”、第8回ブルーレイ大賞レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(7/7 ページ)

[天野透,ITmedia]
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グランプリ・ベスト高画質賞・映画部門(洋画) 「【初回限定生産】マッドマックス 怒りのデス・ロード ブルーレイ&DVD セット(2 枚組/デジタルコピー付)」

映画の当たり年だった2015年でも、最も話題を呼んだのは「マッドマックス」で間違いないだろう。御年71歳のジョージ・ミラー監督が、数々の困難を乗り越えて完成させたシリーズ第4弾だ
映画大好きアンバサダーの前田敦子さんも大興奮の本作

――さて、そろそろグランプリを見てみましょうか。2015年度における映画シーンの話題を総なめしたアノ作品の登場ですよ

麻倉氏:グランプリに関しては、「エクソダス」がかなり良く、映像・作品性・歴史性、加えて3Dという点も含めて非常にパワーがありました。ですが、それを差し置いての受賞作は「マッドマックス」です。これはつまり、この作品が持つあらゆる要素がもう圧倒的に凄かったということの現れです。

――本作は27年ぶりに新作が公開された「マッドマックス」シリーズの第4弾です。正直に言うと僕は前作までを知らなかったのですが、この作品はそういう細かいことを全てすっ飛ばして作品世界へ引きずり込みますね。前評判を聞きつけて、最初は“あえて”英語音声の字幕なしで観てみましたが、それでも充分に楽しめました。話の筋を追わず、映像と音の世界に身を委ねることで凄まじい興奮に振り回された、そんな感覚です。マッドマックスやばい

麻倉氏:正に“マッドがマックス”な本作ですね。まずは画質から見ていきましょう。全編が砂漠で繰り広げられる逃避と追跡のアクションですが、極端に言うと砂嵐の砂1粒まで見える程の解像度の高さで、それと同時に質感再現性が素晴らしいく良いですね。マッドマックスは“質感で魅せている映画”といって過言ではありません。140台もの異形のクルマたちは全て形が異なっており、あるものはサビ付いていて、またあるものは二段重ね。火を噴くギターを載せたものもあれば、半分破壊されたものもあります。核戦争によって文明が滅びた後のサバイバル合戦の物語ということで、強烈な世紀末感が漂う汚れや荒れた質感の再現が世界観の構築において重用になるわけですが、この点がとても素晴らしいですね。

――映画公開時からその強烈なインパクトをして「マッドマックスやばい」という評判が広がりましたが、その「やばさ」の土台を支えているのは緻密な質感ですね。それも単にリアルなだけではなく、印象に強く訴える色や解像感というのがポイントです

麻倉氏:色に関してはHDRが極めて効果的に作用しますね。実際にマッドマックスのUltra-HD BDを見ると、ここでのHDRの意義はエクストリーム(極端さ)であることがよく分かります。炎の色の不気味な鮮やかさがHDRで強調され、それはまるで3Dのように浮き立ちます。砂漠の赤がかった黄色の色のグラテーションがより豊穣に、異形のクルマの金属の質感がより鋭く、火を噴くギターのメタリック感がより尖鋭に、炎が熱く、クロームメッキの反射光もより官能的に……と、もともと常識外れにエクストリームだった映像が、HDRによるDレンジ強調さらに作品性を帯び、よりエクストリームになるのです。作品の世界観がより深いレベルまで堪能できるのが、映画のHDRの凄さであることが、まずもって分かりますね。「HDRはビデオ撮影には良いけど、映画はどうなの?」という意見もありますが、「作品性がさらに深掘りされる、映画こそHDR」と私は明言したいです。

 残念ながら今回の受賞にUltra-HD BDは間に合いませんでしたが、本作はワールドワイドにおけるUltra-HD BDのローンチタイトルでもあります。 2K SDRでも十分に評価は高いですが、HDRの4Kならば、作品の過激性をさらに助長すること請け合いです。視聴の際には是非とも4K+HDRの圧倒的表現で味わってもらいたいですね。

――これは記録色と記憶色という問題ですね。色に関する人間の記憶や印象は、往々にして実際の色よりも強調されています。特にデジタルのイメージセンサーでは、事実通りの“正確な”色をはじき出します(色域やセンサーの性能といった問題で、限界値付近は実際よりも薄かったり濃かったりすることもある)が、それでは人間のイメージ的には薄味に感じてしまいます。ですからこういったインパクトが重用なフィクション作品では、あえて濃いめの色を乗せた方が効果的ですね。確かにHDRはマッドマックスにもってこいでしょう

麻倉氏:画だけではなく音も凄い。単に音質が良いというだけではなく、Dolby Atmosのサラウンド効果が素晴らしいんです。Atmosがスタートしてしばらくになりますが、この作品を観ていると「どういう時にAtmosを使えば効果的か」というノウハウが蓄積されてきているなと感じました。常に天上から音が出てくるのではなく、一番良いタイミングで一番いい形でAtmosが鳴り響くというのが上手いところです。こういったAtmosの特長は「チャプター6」で端的に表れています。シャーリーズ・セロン演じるフュリオサ隊長が持ってきたガソリンの不足を咎められて新たな逃避が始まるという岩場のシーンです。崖の上で爆発が起きた時に岩が降ってくる一幕がありますが、ここの音響的な垂直方向の描き方は素晴らしいですね。映画の大部分がラウドな作品の中で、このシーンは完全な無音から始まり、ブレーキ音、人の声と展開して、上部から音が鳴ります。音の配置の巧みさやDレンジの広さが、このシーンを観ればよく分かります。

 ここに限らず全編に渡るラウドな環境下でも、中に入っている爆発音やギターのロックなサウンドが混濁しないでちゃんと聞こえてくるのはさすがですね。「音質は良いけれどサラウンド感はイマイチ」とかその逆とか、音質とサラウンド感が両立しないことはままありますが、本作はその両方を満足しています。このようにキッチリと作り込まれた音の良さを味わうのに、BDはとても相応しいメディアでしょう。特に音に関していうと「あっちの劇場は良いけれどこっちのはパッとしないね」なんていうこともままあります。このような劇場ごとの品質のバラつきを鑑みた時に、家庭でしっかりと構築されたシアター環境というのは、安定したパフォーマンスを得ることができるため、非常に魅力的なのです。家庭の5.1chサラウンドで楽しめば、これだけ作り込まれた音の魅力がリアルに体験できます。そういった意味では、BDならではのパッケージ性が音の再現性にも効いているといえますね。

――劇場の音の問題は確かにあります。大空間でラウドな音響空間が要求されるため、繊細な表現はある程度目をつぶっているという劇場が多くあります。迫力と質という音の天秤に載せた時に、かなりの確率で迫力に大きく傾いてしまうんですよね。僕はJBLのシステムで組まれた、音にこだわったシアターを行きつけにしていますが、そうなると当然そのシアターに割り当てられない作品は良い音で楽しむことができなくなります。ホームシアターはそういった悩みを解決する非常に有力な手段だと思います

麻倉氏:今回は3Dで受賞したわけではないですが、3D品質も素晴らしいのでこちらもオススメです。なるべく大きな画面、音量、そしてDolby Atmosで体験すれば、この素晴らしい躍動感やスピード感、そして退廃した世界に引きずり込む、リアリティーあふれる映像美を堪能できることはこと請負です。昨年度最高の作品を、是非ともご自身が組み上げた最高のシアターシステムで鑑賞してみてください。最高にマッドなV8のキーはBlu-ray Discです!

麻倉怜士氏プロフィール

1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。



天野透氏(聞き手、筆者)プロフィール

神戸出身の若手ライター。「デジタル閻魔帳」を連載開始以来愛読し続けた結果、遂には麻倉怜士氏の弟子になった。得意ジャンルはオーディオ・ビジュアルにかかる技術と文化の融合。「高度な社会に物語は不可欠である」という信念のもと、技術面と文化面の双方から考察を試みる。何事も徹底的に味わい尽くしたい、凝り性な人間。



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