ITmedia NEWS >

麻倉’s eyeで視る“ブルーレイのアカデミー賞”、第8回ブルーレイ大賞レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/7 ページ)

» 2016年04月04日 09時00分 公開
[天野透ITmedia]

ベスト高画質賞・ライブエンターテイメント部門 「A FLIGHT THROUGH THE ORCHESTRA」

ロングカットの話題作といえば、昨年末のデジタルトップテンで7位にランクインした「A FLIGHT THROUGH THE ORCHESTRA」も見逃せない。コンサートホールの生演奏では絶対に味わえない音楽ライブだ

麻倉氏:“主観に沿ってサラウンドが移動する”というコンセプトのタイトルはまだありますよ。ベスト高画質賞・ライブエンターテイメント部門 を受賞した「A FLIGHT THROUGH THE ORCHESTRA」、こちらも昨年末の「デジタルトップ10」で取り上げた「オーケストラの上を音が飛ぶ」ディスクですね。

――確か、ベルリン郊外の発電所跡で、クレーンカメラ1本を回し続けて収録したタイトルでしたね

麻倉氏:実はこのタイトル、スカパー!が3月と4月に4K総合チャンネルで放映するんですよ。加入している方は是非ご覧になってください。

 内容としては、昨年6月にベルリンドイツ交響楽団をトゥガン・ソキエフが指揮してブラームス2番を演奏したものです。指摘の通り、クレーンを使ったワンカメラで42分を撮り続けた意欲作ですね。従来のクラシック映像というのは、オーケストラをマルチカメラで外から撮り、それを次々と切り替えるという構成が一般的です。それに対してワンカメでオケの中に入り込み、各楽器から音が出てくる“発音のドキュメント”を撮るというのがこの企画なのです。「よく考えたものだ」と感心し、詳しく取材をしてみました。

 収録にあたって3日間の収録期間を設けたらしいのですが、ベルリンドイツ交響楽団が演奏をしたのは最終日のみで、残りの前2日は地元の学生オケに同じ曲を演奏してもらって収録リハをしたそうです。非情に綿密なリハを重ねた上、本番はなんと1発撮りだったそうですよ。

――ノンカット収録なため、途中からやり直す事は物理的に不可能でしょうけれど、長大な交響曲の1楽章分を1発撮りというのは凄いですね

麻倉氏:交響曲なので前奏やトゥッティ、ソロなどといったさまざまな音楽展開がありますが、そういった演奏に対してどんな角度からどのくらいの進入速度で入り、ソロ楽器にはどんなアプローチをするか、といった綿密な作業書をまず作ったそうです。その作業書と曲のスコア(総譜)を照らしあわせてカメラワークを検討し、音楽に合ったカメラの指示書を用意して、それの通りにクレーンを動かす。クレーン係の隣にはディレクターが居て、スコアを見ながら移動を細かく指示を出したとのことです。

 クレーンの先には4Kカメラが付いており、基本的には固定焦点ですが、シーンによってズームをしたり近付いたりしながら、音楽に合った画作り、音楽のテンポに合わせた移動感、接近の仕方や立ち去りの方法といったことを、細かく操作しています。

――スイッチャーが次々と映像を切り替える通常の制作とは趣が異なりますね。監督以下の制作陣も、映像のみならず音楽に対する知識やセンスを高いレベルで要求されています。スコアを読みながらカメラを動かしているわけですから、まるでオーケストラの一員として音を出さない楽器で一緒に演奏をしているみたいな感覚ですね

麻倉氏:実際の映像を見てみると、だいたい2人に1個の割合でマイクをセットしていて、フレームインしたソロ楽器に対してミキシングを与えています。つまりソロ楽器があるレベルの時はその他のレベルを下げ、フレームアウトするとミキシングは通常レベルに戻るといった要領です。

 こういったことをふくめて、この作品は画期的です。「スコアがそのまま画になった」と言って過言ではないくらいの、大胆で新しい発想で音楽映像が創られていますね。映像が4K撮影だったため「ベスト高画質賞」での受賞となりましたが、では「圧倒的な高画質か?」と問われると実のところちょっと違うかなと思います。光量が少し足りないためにノイズが少々あったりしますが、そういったマイナス要素を吹き飛ばす圧倒的に斬新なニューコンセプトと映像美、演奏の素晴らしさというものが「オーケストラの上を音が飛ぶ」という企画にはありました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.