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知っているようで知らないダニの生態――本当に効果的な対策とは?滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)

» 2016年07月01日 00時05分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

ーーところで、チリダニについて繁殖しやすい条件について教えてください

白井氏:ダニの繁殖に必要な条件として、温度、湿度、エサ、そして住処という条件が整う必要があります。ダニは温度25°C、湿度65〜75%前後で活動が活発になりますが、1年の中では春から夏、とくに梅雨時は、繁殖が活発な時期です。

ーー気温が25℃で、湿度が65〜75%ですか

白井氏:人が快適と感じる環境はダニにとっても快適です。それよりも温度や湿度が高くなる、あるいは低くなると少々元気がなくなります。例えば、8月の気温湿度ともに高く不快指数が高い時期には、人も元気がなくなりますが、ダニも少々元気がなくなります。

ーーそうなんですか

白井氏:梅雨時に繁殖が活発になり増加したダニは、エサがあればエサを食べ、ふんをして、私たちの生活環境を汚染していきます。家の中で、とくにダニが多いのは布団などの寝具です。ベッドのマットレスや布製のソファー、敷物などからも多く見つかります。これらは、人が接することでダニの餌が豊富になりやすいということと、もう1つ、ダニの住処になるために、その中に“潜ることができる”、という共通した条件があるんです。

ーーなるほど。でも、なぜ潜るんですか? 例えばフローリングの床や机の上とかでも条件がそろえば同じような気がするのですが

白井氏:ダニが増える場所には、温度、エサという以外にも住処として活動できるということが必要なんです。例えばフローリングや机の上には、ダニが潜る場所がありません。仮にテーブルの上にダニを歩かせその横に名刺を置きますと、多くのダニは名刺の下に潜っていきます。明るいところより暗いところへ移動するという習性ですね。

ーーそういう生き物なんですね

白井氏:ふとんや毛布でも同じです。布団の表面にダニを置けば、生地のすき間や縫い目から内側へ潜りますし、毛布では毛足の先から奥の深いところへ潜っていきます。また畳の上に敷物を重ねていると、その重ねた下からはダニが多く見つかります。ダニが潜る場所というのは周囲の湿度変化の影響を受けにくい場所、ということが言えるかも知れません。

ーー湿度の高いところで活発になるということにも関係しているのですか?

白井氏:チリダニは、乾燥した環境では、体内の水分を失います。そしてそれが続くと干からびて死んでしまいます。外部環境の影響をすごく受けやすいんです。

ーー人間の体の中は90%が水だとかっていうのと同じで、チリダニも体の中も水分を取り込んでいるということなんですね

白井氏:はい。ダニの水分補給は人のように口から取り込むのではなく、例えるなら、紙のようなもので、乾燥したとこに置けば乾きますし、湿気の多い所に行くと水を吸いますよね。それと同じで、チリダニの体の表面そのものが湿度の高いところでは水分を吸収します。逆に乾燥した場所に行きますと、自分の体から水気が奪われてしまい、最後には、干からびて死んでしまうんですね。

ーーそう考えると、生き物としては非常に弱いんですね、チリダニは

白井氏:例えば、人間であれば湿度50%って、快適に感じる人が多いですよね。でも、チリダニにとっては、そこはもう厳しい環境の境界線です。湿度50%を下回れば徐々に体の水分がなくなっていき、最後は乾いてセミの抜け殻のような状態で死んでしまうんですね。

ーーダニってどれくらいの大きさなんですか?

白井氏:例えば身近なもので表すと、多くの人が使うシャープペンシルの芯の直径は0.5mmですが、ダニの大きさはメスの成ダニ(大人のダニ)で、体長が0.3〜0.4mmほどです。

ーー肉眼では確認するのが難しいサイズですね

白井氏:肉眼ではなかなか確認できない大きさです。そんな小さなダニですから周りの環境の影響をすぐに受けます。例えば周囲が暑くても寒くても、乾燥していてもダニの活動や生死に影響がでます。

ーーなるほど、そうなんですね

白井氏:以前、実験をしたことがあるんですが、チリダニにスチームクリーナーで蒸気をあてると即死します。アイロンを当ててもやはり即死します。高温には弱いですね。ですので、例えばふとん乾燥機で50°C以上の温度で加熱すれば、20〜30分経つと死亡しますし、さらに高温になればその時間は短縮されます。

50°Cの環境でダニが死亡率100%に達するのに要する時間 吉川肇(発表時:東京都立衛生研究所医動物在席) 家庭内生息性ダニ類の生態および防除に関する研究より

ーーマット式の布団乾燥機などであれば、全体的な加熱できればかなりの確率でチリダニは殺せそうです。ということは、最初のテーマに戻りますけど、チリダニは対策さえちゃんと実行すれば、そんなに難しいことではなく、誰でできるものなんですか?

白井氏:はい。ダニ対策って、生きているダニへのアプローチと、死骸やふんといったホコリを取り除くことを組み合わせただけで、実は難しいことなんてないんです。環境整備とか言ってしまうと、掃除方法やインテリアの工夫とか、確かにノウハウはあります。でも、母親教室などで、考え方と家庭内でできる対策をお伝えすると、みなさん、「できるじゃん!」っていって帰るんですよね(笑)。

ーーちなみに、チリダニのエサというのは主にどういったものなのでしょうか? よく人のフケを食べるとかって聞きますけど

白井氏:病院でアレルギーの血液検査や皮膚検査をされる時には、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニって検査シートに記載されているのをご覧になったことがある方も多いと思います。チリダニというのは、生物学的には“チリダニ科のヒョウヒダニ属のヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ”となるんです。

ーーチリダニ科のヒョウヒダニ属のヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ

白井氏:話を戻すと、室内塵中に含まれる有機物がダニのエサになるのですが、主には人のフケや垢などです。このヒョウヒダニの“ヒョウヒ”って、人の皮膚の“表皮”(ひょうひ)なんです。

ーーありとあらゆる物を食べる

白井氏:余談ですけど、一応、ヒョウヒダニの増やし方もJIS規格でちゃんと決まってまして(笑)

ーーなんのためにですか?

白井氏:ふとん綿などの繊維製品の試験方法として、ダニの忌避(きひ)や増殖抑制といった試験がJISで規定されています。試験を行う際には、当然、ダニが必要です。ですので、試験に用いるダニについても培養方法が規定され、いくつかの施設では、それに従い培養されています。

ーーへぇ。でもそうなると、エサが人間のフケや垢ということは、人間がいなくならない限り、ヒョウヒダニを絶滅させることは難しいですね

白井氏:そうですね。人が生活を始めるとその家ではダニが増えていきます。しかし人の生活がなくなり空き家になるとエサがなくなるので、ダニはほとんどみつからなくなります。

ーー空き家にはいない。それは意外ですね

白井氏:人が住んでいないとフケや垢といったエサとなるものが多くないので、ヒョウヒダニが繁殖する環境ではなくなっていきます。

ーー空き家や新築にいないのは分かりましたが、いつからかダニが増えてきますよね

白井氏:新築の建物も、最初はダニはいません。でも、施主の方や内装工事の職人さんなど、人の出入りがあると、その方々の服や靴下などからたまたま落ちてみつかることもあります。でもそれらは極少数で、エサがなければ死んでしまいます。多くの場合、引越しの際に以前の住まいで使用していた寝具や家具を持ってくる時に、ダニも一緒に連れてきてしまうんですよ。

ーー実際、人が暮らしている家のなかで、ここに一番いるという場所はどこなんでしょうか?

白井氏:家庭の中ではやっぱり寝室の寝具ですね。布団、毛布、ベッドならマットレス。居間に滞在時間が長い場合、布製ソファーやそこで使われているクッションからダニが多く見つかります。子ども部屋では、ヌイグルミからも多く見つかります。そして敷物がある場合、とくに畳にゴザやカーペットを重ねているとか、こういう場所も多いですね。寝具の場合、毎日人が触れるものでダニの餌が豊富になりやすい、そして寝ることによって汗からくる湿気があってと、ダニの繁殖に必要な条件が整うんです。またベッドの場合では、マットレスの上にパッドが重ねられ、シーツが掛かり、その上に掛け布団が重なります。多くの家庭では、日中それらが重なったままで、布団やマットレスには湿気がこもります。そうするとダニにとっては、快適な環境になってしまう可能性が高くなります。

ーーでは、そういったヒョウヒダニの棲息状況などは分かったところで、結局われあれは今後どのようにダニ対策を行っていったらよろしいでしょうか?

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