白井氏:まず、ダニ対策というと多くの意味を含んで使われています。例えば、ダニを殺すことも、取り除くこともダニ対策ですし、アレルギー対策としてダニ対策を考えれば、ダニのふんや死骸といったダニよりも小さなホコリを取り除くこともダニ対策といえると思います。でも、難しく考えることなく、家の中のダニが減るとか、糞などのホコリが少なくなり、それらとの接触の機会が減る、それでいいと思います。
ーーそうなんですね。家電でも対策できそうです
白井氏:現在、家庭で行われるダニ対策としては、掃除機がよく用いられます。これは、掃除機をかけることでふとんのダニが吸い取られ減少すること、そしてそれを続けることによって気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの症状が改善される、といったことが医学会で報告され、それを根拠に医師からも家庭で行うダニ対策として指導されています。
ーー掃除機で吸い取るんですね
白井氏:ふとんへの掃除機がけは、ダニを吸いとる効果とともに、ダニのふんや死骸といったアレルゲンとなるホコリも吸い取るので、布団からそれらを減らしていくことが期待できるんです。そしてこの掃除機がけは、繰り返すことで、より効果が期待できます。しかし、掃除機がけを面倒と思う方もいて、日ごろの管理として取り組んでいる方は、多くないと思います。母親教室などで主婦にお話を伺うと、掃除機がけに取り組む方よりも、空気清浄機を使用している方のほうが多いという印象があります。
ーー空気清浄機は、ダニ、カビ、花粉が気になる方や、ハウスダストの対策に効果的と思えますが……
白井氏:空気清浄機は、空気中に浮遊しているチリなどの粒子をフィルターで濾過(ろか)して、きれいな空気を排出する、そういうものですよね。つまり浮遊しているものは取り除けますが、床に落ちているものや、布団やソファの中に潜むダニを減らすことはできません。よく考えれば当然なのですが……。
ーー要は、効率的なダニ対策には繋がらないということですね
白井氏:ダニは、常時空中を飛んでいることはありません。そしてダニのふんや死骸などの小さなホコリは、例え舞い上がっても、時間が経つと床に落下します。例えば、空中に浮遊するダニのふんに含まれるダニアレルゲンの濃度を測定すると、睡眠中の枕元では、通常居間などに浮遊する量に比べだいたい8倍から10倍にも上昇することが国の研究機関の検討で報告されています。また、布団の上げ下ろしをすると、一時的に約1000倍にも上昇することも報告されています。このように空中に浮遊している場合の対策として、空気清浄機は役立つかもしれません。但し浮遊したダニのホコリは、概ね1時間で床に落下することも別な研究として報告があります。
ーー1時間もすれば、それらは下に落ちてしまうということですね
白井氏:そうなんです。ですのでダニ対策としては、ダニが生息する場所であって、ダニの糞や死骸などのホコリが発生する場所、物に対して、対策をとっていただきたい、っていつも考えています。多くの家庭では、布団ってダニの温床になりやすく、糞や死骸などが多く存在し、そしてそれらがホコリとして空中に舞い上がる大きなアイテムの1つです。寝室、寝具は皆さんが1日の約4分の1から3分の1もの長い時間、滞在し、接触していますよね。ぜひ、布団、寝室に対してダニ対策の重きを置いていただきたいと思います。
ーーとなると、なによりもまずは掃除機をマメにかけることが大切ということですか? 例えば、週に最低でも何回ぐらいかけたほうがいいとかそういう決まりははあるのでしょうか?
白井氏:掃除機がけを行う際には、週に1〜2回、1m2あたり20秒が目安です。ノズルを密着させ、ていねいに表面から吸引します。
ーー1回20秒でいいんですか? かなり短くていいんですね
白井氏:例えばシングルサイズの敷きぶとんの場合、縦200cm×横100cmですので、面積は2m2、つまり片面40秒掃、除機をかけます。表裏合わせて80秒ですね。
この掃除機がけの時間を2倍、3倍と長くしたら、ダニやふんが2倍、3倍取れるかというと、そういうことにはなりにくいんです。どういうことかというと、掃除機の吸引って、表面のダニやホコリを吸引しますが、布団の内側の深いところからは、多く回収されないんですよ。掃除機をかけ始め20秒程度の時間で、表面にあるダニやふんなどのホコリの多くは回収されますから、それ以上に長い時間をかけるのではなく、繰り返すことが大切なんです。
ーーなるほど。1週間に1回、しかも20秒ほどなら誰でもやれそうですね。繰り返すっていうのは、1週間に行う回数を増やすということですか?
白井氏:掃除機で回収されるダニの数が、繁殖して増えてくるダニの数を上回れば、ダニは減少していきます。逆にダニの繁殖以上にダニを除去できなければ、布団内のダニ数は増えていきます。週に1回行っていた掃除機がけでダニの数が減らなかった方でも、掃除機がけの回数を増やすことで、ダニの回収数が減ったというケースもあります。住まい方や季節要因などケースバイケースなんですけど、繰り返すこと、そして継続することが大切です。
ーーこれでふとん表面に関するダニ対策は掃除機が有効だということが分かりましたが、白井さんの書かれたダニ対策に関する論文を読むと、シーツがフィルターとなって、ダニが掃除機で効率良く吸い取れないという結果が出たと書かれていましたが、やはりシーツの上からではなく、布団に直接掃除機を掛けた方がいいのでしょうか?
白井氏:ふとんの側生地表面やシーツの表面にいるダニは、掃除機で高率に回収できますが、生地の下にいるダニは、ダニが生地に引っかかり効率よく吸引できないんです。網戸があるとそこに引っかかって通れない、というイメージです。ですので、布団に掃除機をかける時には、シーツを外して、布団表面に直接掃除機をかけることがよいと思います。
ーーということは、布団の中に潜むダニも、布団の生地がダニを引っ掛けるので吸い出せないのでしょうか?
白井氏:ふとんの生地がフィルターになってダニが通過しにくいことは、シーツを通してダニが吸いだしにくいことと同じです。そしてもう1つ、掃除機の吸引力ってふとんの深いところへいくほど弱くなりますから、掃除機がけでふとんの中綿の深いところに潜っているダニ全てを取り除くことは短期間では難しいと思います。しかし、ふとんへの掃除機がけは、表面のダニを除去し、そしてアレルゲンとなるダニのふんや死骸も減らしていくので、掃除機がけを繰り返し行うことは、ダニの汚染の少ないふとんを作る上で、とても大切です。
ーーアレルギーの原因として重要なふんや死骸を除去するためにも、布団の表面への対策を行うことって大切だ、ということですね
白井氏:ええ、その通りです。そしてもう1つ。布団表面に掃除機をかけることで、フケや垢といったダニのエサとなるものを除去する効果も得られれば、ダニが繁殖しにくくなる。そんな効果も期待できると思います。
ーーところで、天日干しではダニが死なないって聞きますが、ふとんの天日干しはダニ対策に効果があるんでしょうか?
白井氏:ふとんを日に干して表面の温度が上昇すると、中綿(なかわた)内に潜むダニは、温度の低い裏側へ移動します。1年を通して布団の表面温度が、ダニが死滅に至る50°C以上に上昇することは多くありません。もしダニが死ぬ温度へ上昇したとしても、日のあたらない布団の裏側は、表側に比べ温度が低いままです。ですので天日干しでは、布団全体のダニを死滅させることは難しいと思います。
ーーでは、天日干しはしなくてもよい?
白井氏:いいえ、天日干しは、例えダニが死ぬまで温度が上昇しなくても、布団を乾燥させることができれば、ダニが繁殖しにくくなる、そんな効果が期待されます。ですから、天日干しは行ったほうがよいと思います。
ーー今の梅雨の時期は、布団がなかなか干せませんよね。また梅雨時に限らず、最近は布団が干せないマンションがあります。こんな場合、どういう対策があるでしょうか?
白井氏:そんな時には布団乾燥機を用いる、ということも選択肢だと思います。天日干し同様に乾燥によるダニを増えにくくする効果ですね。そして、布団を加熱できれば、殺ダニ効果が期待されます。
ーー布団乾燥機にもいろいろな種類があると思いますが、どんなタイプを選ぶのがいいのでしょうか? ダニ対策に有効な条件などもあったら教えてください
白井氏:先ほどもダニの生態のところで申し上げましたが、ダニはだいたい50°C以上になった場合に20〜30分時間経過すると、ほぼ全てのダニが死滅します。60°Cを超えればさらに短時間で死亡します。ただし、ダニは熱いところを避け、温度の低い方へ移動しますから、ふとん全体が高温に加熱されることが必要です。
ーーつまり、ふとん全体をなるべく高温にすれば、それだけふとんに潜むダニはすべて死ぬということですね
白井氏:極端なことを言えば、100°Cのお湯をかけたらダニは即死します。アイロンやスチームクリーナーなど、人間が触れて火傷をするような条件であればダニはほぼ即死です。
ーーただ、さすがにマットレスや布団にスチームクリーナーを吹き付けることはできませんし、アイロンでふとん全体を60°Cの高温にすることは不可能です
白井氏:そうですよね。そもそもふとんは人が寝るときに使う保温材と考えれば、綿の中の空気は断熱層ですから、なかなか熱が伝わらないですよね。
ーーアイロンなんてそんな長時間かけたら焦げてしまいます
白井氏:スチームクリーナーも蒸気が浸透することはいいのですが、その後に布団をしっかりと乾燥させたいので、やはり、ふとんの加熱にはふとん乾燥機を用いることが、都合が良いのかなと思います。
ふとんの厚みや、中綿の材質によって熱の伝わり方は違いますが、ダニ対策として考えれば、ふとん全体がムラなく50°C以上に加熱できることが望ましいと思います。布団乾燥機には、布団の加熱方法が異なるものがあるようですので、そのあたりを考慮して選択されることも大切かと思います。
ーーノズル式は手軽ではありますけど、吹き出し口の周辺だけが暖かくなるだけで、布団全体が高温にはなりづらいですからね。ちなみに、布団乾燥機の使用頻度は、どれくらいで考えればいいのでしょうか?
白井氏:現在のところ、ダニ対策の具体的な数値はありません。将来的には、具体的な頻度が示せるようになるかもしれません。しかし、例えば布団乾燥機の使用目的を生きているダニを殺すこととして考えれば、1カ月に1回以上は熱処理をしたいと思います。なぜかといえば、ダニは卵から成虫になるまでだいたい4週間程で、その後、1〜2カ月の寿命があるとい言われています。つまり、このライフサイクルのどこかで処理をしたい。でもこれは机上の論で、実際には1回の乾燥機の処理で全てのダニを殺すことはできないかもしれませんし、掛け布団や毛布など、他からの汚染も考えられます。ダニの成長も温度や湿度の条件がよければ、4週を要せず短縮されます。例えば、アメリカのアレルギー学会では、55°Cでの加熱を毎週行うことが言われています。これらのことからも1カ月に最低1回、できれば毎週行えれば、よりよいのかもしれません。乾燥したふとんで寝るのは快適ですから、大いに使用されてはいいのではないでしょうか。
ーー乾燥機を使用したときに、気をつけることはありますか?
白井氏:乾燥機での処理後には、布団表面に掃除機をかけ、表面からダニの死骸を吸い取ることを忘れずにしていただきたいと思います。
ーーちなみにふとん策は基本的に敷き布団に話が集中しがちですが、当然掛け布団もやった方がいいんですよね?
白井氏:その通りです。掛け布団、そして冬であれば毛布やブランケット、タオルケット、シーツ、枕も含め、全体で考えてることが大切です。先ほどの掃除機がけの話題に戻れば、敷き布団だけに掃除機をかけてダニを減らしても、その他でダニが繁殖し、そこにふんや死骸が溜まっていては、ダニ対策の目的が十分に果たせません。
ーーあと、特にこの時期はふとん対策した方がいいという時期みたいなものはあるのでしょうか? 今回梅雨時ということでお話は聞いてますが、それ以外の時期で特に対策をした方がいい時期みたいなことがありましたら教えてください
白井氏:梅雨時は、温度湿度ともにダニの繁殖が活発になる条件がそろう時期ですから、この時期にダニ対策を行うことは大切です。そしてもう1つ、実は秋から冬にかけても注意が必要だと考えています。多くの家庭では、冬場使用していたふとんを夏の間、押入れで保管します。この押入れで保管しているふとんでダニが繁殖していく、ということがあるんです。秋から冬に寒くなり、押入れからふとんや毛布を出して使用する時に、そのふとんではダニが大繁殖していた、ということがあるわけです。ダニが繁殖していることは、目で見て分かりません。ダニが繁殖したふとんや毛布は、ダニのふんや死骸などのアレルゲンとなるホコリを部屋の中に飛散させることも心配されます。そのため秋冬に押入れから寝具を出して使用する際には、ふとん乾燥機や掃除機を用いてしっかりとダニ対策を講じていただきたいですね。
ーーつまり、梅雨時の繁殖への対策と同じように、秋のダニ対策も大切なんですね
白井氏:以前にある研究で、お部屋と寝具のダニアレルゲンを測定し、1年間の汚染量の推移を観察した家庭がありました。秋のある時に、寝室のフローリング上のダニアレルゲン量が上昇したことがあったんです。何か生活に変化がありました? ってお話を伺うと、寒くなったので押入れから毛布を出して使用してる、というお話で。すぐにその毛布を調べたら、ダニアレルゲンの汚染が高く、その毛布の使用を中止したら、床のダニアレルゲン汚染は、少ない状態で維持できた、ということがありました。
ーーあとは個人的に気になるのがペットを飼っている家庭ですが、ダニが多く棲息していそうですけど、そのあたりはどうなんでしょうか?
白井氏:以前に犬や猫を飼っている複数の世帯について、ダニのアレルゲン汚染を調べたことがあります。ペットを飼っている家ではダニが多いっていうイメージをもたれる方は多いようですが、ペットを飼っているからダニアレルゲンの汚染が多い、ということはありませんでした。むしろ、ペットを飼っていない世帯よりも少ない印象でした。それらの世帯では、掃除回数を日誌につけてもらい、それを集計しましたが、皆さん、ペットの毛が抜けることへの対処として、週に2回以上の掃除をされていました。恐らく、このお掃除の頻度が多かったことがダニの汚染を少なくしたのかもしれません。
ーー意外ですね
白井氏:家庭内ではダニの繁殖場所の有無、それらへの掃除も含めた管理などのダニ対策によって、ダニの数やダニの糞や死骸といったアレルゲン汚染量に違いが現れます。ダニの住処になるインテリアがあっても、適切な管理が行われていれば少なく維持することも可能です。住まいのインテリアは変えられなくても管理方法は工夫できる、あるいはインテリアの工夫を行うことで管理に負荷をかけない、こういう考えがあります。どちらを選ぶのかに決まりはありません。そして、掃除道具や家電製品などを上手に用いることも、ダニ対策を行う上での工夫での1つです。
今回専門家である白井秀治さんにその生態について教えてもらうことで、ダニというものがどういうものであるか、あらためて理解いただけたと思う。最後にまとめとして、ダニの生態やその対策にとって分かったことを以下に箇条書きで記しておこう。
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