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実用化に向かう8K技術群――技研公開で見えた8K放送の実現性麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2016年07月21日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:新CMOSのポイントはセンサーサイズが小さいことです。大きさは3分の2インチ、画素ピッチは1.1μmという微細なもので、フレーム周波数は実用に充分な240Hzに対応しました。映像は解像度が高まるに従ってブレに敏感になります。とくに8Kの場合、わずかなブレによってせっかくの解像度がかなりスポイルされてしまうため、フレーム周波数は非常に重要です。しかし解像度もフレームレートもデータ量の増加に直結するため、高速読み出し・高速書き出しがどんどん困難になってきており、8Kでの240fpsはなかなか実用化には至らなかったのですが、新センサーは画期的なことに小型化とフレームレートの高速化を同時に実現したのです。

 このCMOSは静岡大学との共同研究で、これがまた歴史の妙を感じさせますね。静岡大学工学部は旧浜松高等工業学校を前身に持つ、世界のテレビ発祥の地です。日本のテレビの父、高柳健次郎氏が1926年にイロハの「イ」を伝送して世界初の電子操作式テレビジョン(Tele-Vision:遠隔視)システムを開発、世界のテレビの扉を開きました。新時代のテレビを創るNHKが、テレビの歴史発祥の地である伝統の静大工学部と共同研究を行い、この度最新のセンサーを作った訳です。

共同開発を行った静岡大学工学部はテレビ発祥の地だが、NHK技術研究所はIEEE(米国電気電子学会)からマイルストーン認定を受ける、世界のテレビ技術を革新し続ける機関。単なる技術に留まらず、歴史的ロマンも垣間見える

麻倉氏:こうして速く解像度の高い次世代映像が撮影できると、次は保存、つまりアーカイブ技術と目が向くのは当然のことでしょう。それに応える新デバイスはホログラムメモリです。

――ホログラムメモリは昨年の技研公開でも展示をしていましたね。昨年は3cm四方の透明な角材に75GBもの大容量を記録できるという事で注目を浴びました。たしか麻倉先生は「“新しい酒は新しい革袋に”を体現する新時代のメディア」と評していました

麻倉氏:それなりに注目を浴びた初登場の昨年と比較をしてみると、今年のものはいくつかの変更点が見られます。まず開発において、昨年は技研内の単独開発だったのが今年は日立製作所と日立LGデータストレージが加わりました。展示のドライブはこの2社が開発したものを使用しています。外見は円盤形に変更され、レーザー波長も昨年の532nmの緑色から、今年は405nmの青色へ変更しました。DVDがBlu-ray Discに進化したのと同じく、波長を短くして容量アップに貢献しています。

 放送用コンテンツは法律で映像の永久保存が義務付けられているため、何かしらのメディアに入れておかないといけないですが、一般的に大容量ストレージの最右翼と考えられるHDDは長期間通電しないとそのうち消える、レガシー技術のエンタープライズ向けテープメディアは頭出しの問題がある、Blu-ray Discは多層化しても容量が少ない(現行規格では4層128GBが最大)と、決定打となるものはなかなか出てきません。

 そういったことを鑑みて、次世代メディアの本命はやはりホログラムディスクでしょう。今回の展示では直径13cmのディスクで2TBの容量を誇っており、これは3層Blu-ray Disc(100GB)の20倍になります。HDDの弱点である寿命は50年で、現行の各ディスクと同じです。今後の開発で特性を上げるとともにドライブを小型化してゆけば、8Kアーカイブメモリの決定版となるでしょう。

見慣れた円盤型になった、新しいホログラムディスク。直径は13cmで、ブルーレイディスクをはじめとした従来の円盤型メディアよりわずかに大きいが、研究段階の試作品のため、外見にはあまり意味はないとのこと
矢印の先を拡大すると、CDでいうところのピットにあたる部分が確認できる。ホログラムのため、光の当たり方によって見えたり見えなかったりする

――その8K放送ですが、個人的にかなり気になる動きがありました。なんでも、地デジに8K化という動きがあるらしく、しかもNHKは結構本気で開発している様子です

麻倉氏:では次は「次世代地上放送システム」についてお話しましょうか。地上波での次世代放送はどうするかという動きは、公式にはまだ論議も始まっていません。ですが、BSがUHD(4K、8K)化するという今後の展開を考えると、縦走査線が1440本の“フルHDですらない”地デジはあまりに差が付いてしまって見劣りすることは間違いありませんね。

 地デジの進化という点では、まず大まかに4Kか8Kかという話題がありますが、そこはやはり(長年8Kに取り組んできた)NHKなので、4Kではなく8Kを目指すとなります。問題は地上波の伝送容量には制限があるという点です。BSやCSといった衛星放送と比べて容量問題は遙かに厳しく、ここをどう解決するかというのは見ものです。

――地デジが未だにフルHD化できないのは、現状ですでに電波帯域を目一杯使っているからですしね。これ以上の高品質化を狙うならば、物理的に帯域を増やすか、あるいはデータを効率化するかとなります

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