麻倉氏:技術提案として昨年出てきたのが、現行で横方向のみの偏波方向を縦横にして3次元方向に拡張するというもの。つまり物理的に帯域を増やすという選択肢です。対して今年は、現行と同じ平面波のみでの伝送にチャレンジしていました。縦横どちらかは明示されていませんが、これならば基本的に現行システムと同じなので、昨年のように新アンテナを導入するといった大きな変更はなしに次世代システムへ移行できます。
問題はやはり伝送容量です。昨年は80Mbpsの帯域を確保できていましたが、今年は35Mbpsに低下しています。この減少分はHEVCの次世代コーデックを待つことで補うと同時に、信号そのものも進化させることで解決を狙っています。信号波における多重偏重の単位としてQAM(カム)という単位が用いられており、昨年の信号は64QAMだったものを今年は4096QAMへと大幅に細分化しました。とりあえず数を送って、特性が良いものだけを拾おうという考え方です。昨年の段階では地デジに割り当てられている5.57MHz帯の中におよそ5600の信号がつめ込まれ、その1つ1つが64QAMの情報量を持っていました。今年はそれを5.83MHzに拡張して信号量を倍以上の1万2000に細分化し、さらにそれぞれが4096QAMの情報量を持つという超高密度転送を達成しました。ただそうすると感度の問題が出てきますね。
もう1つ、各チャンネルのセグメント分割も次世代では細分化されます。現行の地デジにおけるフルセグは13ですが、次世代のフルセグは35となります。これにより画質強化のみならず、多角的なサービス強化という方向性も表れ、極端な話では35サービス同時展開も可能となります。BSの8Kは2016年から実験が、2018年からは本放送が始まるということを考えると、やはり地上波もある時期からは8K化という方向性が明確に見えてくるでしょう。
麻倉氏:その次世代放送を実現するのに、次世代コーデックの存在は欠かせないものとなりますが、これに関する展示もありました。現行のデファクトスタンダードはUltra HD Blu-rayなどに用いられるHEVCですが、2020年以降を目標にして、これを超える高効率コーデック開発の是非がJVETで検討されています。
――放送系に関していうと、未だにMPEG-2という旧世代のものを使用していますね。HEVCと比較すると圧縮効率も画質もかなりの差が見られます
麻倉氏:MPEG-2は1992年、MPEG-4は2001年、HEVCは2012年と、映像コーデックはだいたい10年周期くらいで開発されています。これに則るかたちで次世代コーデックも2022年あたりを目処にやっていこうというものでしょう。これまで圧縮率は世代が変わる毎に倍返しで強化されてきましたが、効率化もかなり高度なレベルまで到達しているため、今回はとりあえず“3割増し”程度を目標にするということです。
この新コーデックですが、ネット配信に活用しようという動きがあります。VODのようなネットを通じたサービスの場合は、コンテンツ制作の段階で重い処理を施すというように最初から作りこむことが可能で、それにより伝送の軽量化が実現します。これを使った次世代地上波放送は2020年代に現れて、2030年代にはおそらくこのコーデックで立体放送、というロードマップが見えてきますね。となると私の最後の仕事は次世代フォーマットを見守ることになるでしょうか。
――8Kの表示デバイスに関しては、昨年は300インチ特大スクリーンという大艦巨砲主義的な展示に驚かされましたが、今年も面白いものが多数ありありましたね
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