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» 2016年07月21日 06時00分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:実用化に向かう8K技術群――技研公開で見えた8K放送の実現性 (4/4)

[天野透,ITmedia]
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麻倉氏:1階展示場に今回の目玉として置かれていた、シート型8Kディスプレイがなかなか興味深かったです。NHK、アストロデザイン、LGディスプレイの3社によるもので、駆動系はNHKとアストロデザインが請け負いました。OLEDは液晶よりフレキシブルで、単純に薄いだけでなく将来的には巻き上げもできます。

1階エントランスに展示された、巨大なシート型ディスプレイ。4K OLEDを4枚並べて8K表示をしており、製作はNHK、アストロデザイン、LGディスプレイの3社による。薄さをアピールするため、脇には鏡が置かれていた

麻倉氏:地下はもっと面白いですよ。完全にフィルム化したOLEDを巻き上げ式にして展示していました。これの注目ポイントは、ガラス基板ではなく巻き上げフィルム上に基盤を作るという点です。IGZO構造の酸化物TFTは高音真空という環境で溶剤を蒸着させるのですが、新技術では常温の空気中でもパネルやフィルムに溶剤を塗布することが可能で、スピン回転で滑らかにならしてホットプレートで蒸発させるという簡易な方法を取ることができます。

フィルム上に作られたIGZO回路基板。原理的にはインクジェットプリンターのようなもので製造が可能としており、CADデータを紙に印刷するように電子回路を製作することができるという
新技術による溶剤塗布の様子。クレープでも作るかのようにホットプレート上に溶剤を敷き、軽くスピンさせて滑らかにする。従来式のように大掛かりな蒸着釜は必要ない

麻倉氏:問題は、不純物をいかに追放するかということです。製品化のボーダーラインとして、電子移動度が10[cm2/Vs]という数字がありますが、IGZOは不純物未処理で1.8程度と、基準の2割にも満たなかったものを、展示された新技術は不純物未処理でも5程度まで引き上げてきました。また、OLEDは酸素や水に対する劣化問題もあります。従来はガラス板を貼りあわせて酸素の封入を防いでいましたが、新技術はOLED層の上に空気を遮断する材料を置くことで、デバイスの寿命を格段に伸ばしました。これにより大画面8K OLEDのスクリーン化が見えてきましたね。再三指摘している通り、巨大ディスプレイというものは使わない時には目障りなノイズオブジェでしかありません。インテリア性と大画面性とメディア性を上手く両立させるためには、やはり大画面は巻き上げスクリーンであることが必要で、そのためにはOLEDやIGZO TFTなどの基礎技術が必要なのです。

巻き上げ式OLEDスクリーンはガラス保護層を使えない。そのため従来よりも劣化しにくいOLEDが研究されており、今回はOLED層構造の反転と素材の見直しという提案がされていた
通常構造OLEDと逆構造OLEDの耐久性比較で、いずれも不純物処理はされていない。通常のものは21日目の状態で完全に劣化しきっているが、逆構造ならば57日経ってもまだ良い状態を保っている
不純物未処理の新構造・新素材によるフィルム型OLEDディスプレイの耐久試験。ドット抜けやライン抜けが少々見られるが、その程度は従来のものよりもずっと良い

――暗室環境も、プロジェクターのインストールも必要ないとなると、OLEDスクリーンは手軽に設置できる大画面としてかなり普及の可能性がありますね

麻倉氏:8Kは従来の延長ではなく特別なメディアです。OLEDスクリーンが実現すれば、ニュースは通常サイズのテレビで情報を取り入れ、映画や旅番組などでは大画面シートディスプレイで特別な体験をという、メリハリの効いたメディアライフが可能になります。そういった事もあって、シートディスプレイは注目度大です。

 ただ、日本人的に気になるのは、開発がLGの手によるというところでしょうか。フレキシブルは韓国に負けず、是非ジャパンパワーに頑張ってもらいたいと願わざるをえません。

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