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ノイキャン体験を革新する“ソニーの勝負ヘッドフォン” ――「MDR-1000X」開発者インタビューワイヤレスで行こう!(2/4 ページ)

» 2016年10月07日 09時00分 公開
[山本敦ITmedia]

「業界最高クラス」のノイキャン性能はどうして実現できたのか

 MDR-1000Xは“業界最高クラス”のアクティブ・ノイズキャンセリング性能をうたっている。今回の取材でもエンジニア各氏が、いかにして“業界最高クラス”を実現したのか、各々が惜しみなく腕を振るったポイントについて教えてくれた。

イヤーカップ左側の側面にNC機能のON/OFF、Ambient Sound、電源ボタンを搭載する。NCボタンを長押しすると「パーソナルNCオプティマイザー」が起動する
機能がアクティブになっている際はLEDランプが点灯。指で触ったときにボタンの違いが分かるよう、トップには長さを変えた突起を配置している
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 従来、アクティブ・ノイズキャンセリングヘッドフォンの消音性能は「ノイズを99%消去」といったように、数値を指標にして表されることも多かった。ソニーでは、あえてこのようなアピールの手段を採っていない。なぜだろうか。

 「ある特定の周波数だけでノイズが消えて、消音性能が高ければ良いという考え方には意味がなく、賛同できないからです。ソニーではより人の自然な聴感に寄り添いながら、心地よい静けさを提供することをテーマに掲げています」(井出氏)

イヤーカップ表側の素材も滑らかに仕上げている。だ円形のトップに配置している小さい穴がノイズキャンセリングとハンズフリー通話に活躍するマイク。集音効率を最大貸して、風切り音によるノイズを低減するために配置するポジションについても議論に議論を重ねたと井出氏が感性までの長い道のりを振り返る

 だからといって、ソニーではエンジニアの耳だけを頼りに感性評価でノイズキャンセリング性能を確かめているわけではない。そこに確固たる指標を設けながらMDR-1000Xの性能を追い込んできた。メジャーとなったのは、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)が出版する「ノイズキャンセリング型ヘッドフォン及びイヤフォン/RC-8142」に関する特性の測定方法である。この基準に従って消音性能を測った結果、いま販売されている主なアクティブ・ノイズキャンセリングヘッドフォンの中で紛れもなく業界ナンバーワンの性能をたたき出したのだと、井出氏は胸を張る。

イヤーカップの側面トップにはドライバーの背圧を逃がしてサウンドを最適にチューニングするためのスリットが設けられている

 ひと昔前は、航空機のノイズをピンポイントで消せれば良しとされていたノイズキャンセリングヘッドフォンの性能も、今は周囲の環境ノイズを均等に抑えながら、より上質な静寂を実現することに各社は開発の力点を傾けている。MDR-1000Xでは、航空機ノイズのような低域に分布するノイズを消すことにももちろん注力しつつ、消音できる帯域をなるべく広く取ることに開発者一同、腐心してきたという。

 実機で体験してみると、確かに本機のノイズキャンセリング効果はいままでのヘッドフォンとひと味違う。ただ消音効果が高いというだけでなく、人の会話の音声や、甲高い金属音なども均等なバランスで消音してくれるのだ。引いてはこれが、音楽を聴いている時にも自然なリスニング感を生み出す原動力になっている。ヘッドフォンのアクティブ・ノイズキャンセリング機能が、次世代のステージに上り詰めたようだ。では一体、どのようにして高いノイズキャンセリング性能が実現できたのだろうか。

機構設計のアプローチからもノイキャン・装着性能が高められた

 MDR-1000Xは、イヤーカップの内側と外側に備える超小型マイクによりノイズを集めて、独自のフルデジタル構成の信号処理エンジンにより高精度にノイズだけを打ち消す「デュアルノイズセンサーテクノロジー」を採用している。ユーザーがヘッドフォンを使っている環境のノイズを自動で解析しながら、消音処理の強弱を最適化する「フルオートAI NC」もソニーならではのヘッドフォン向けテクノロジーだ。これら従来モデルから実現している技術をブラッシュアップしたものが最新モデルに搭載されている。それだけでなく、機構設計のアプローチからもノイキャン精度の向上を測った。

 「筐体(きょうたい)の機構設計と、これまでに培ってきたノイズキャンセリング技術のノウハウを全体的に見直して、改善できる場所を1つずつ洗い出すことから始めました。最初に本体のフレームを試作した後、続いてドライバーやマイクなどデバイスの配置をゼロベースから探っていきました。消音性能の高いイヤーパッドも長い時間をかけて新規に開発しています。とくに本体の装着方法により左右される音質、装着感への影響については音響設計と機構設計のチームが一体となって練り上げています」(井出氏)

 新開発のイヤーパッドもノイズキャンセリング性能の向上に大きく寄与しているという。横山氏が次のように説明している。

 「新製品に採用されたイヤーパッドは、材料をイチから起こして新規に開発したものです。従来のイヤーパッドは耳の後ろ側にあたる部分を肉厚に仕上げるなど、形状を工夫することで音漏れの原因になるギャップを埋めるという考え方の元で作っていました。新しいMDR-1000Xのイヤーパッドはストレッチ性の良い材料を採用しています。厚みは均等で形もフラットですが、身に着けると素材が顔の凹凸形状に追従するので、顔とイヤーパッドとの間にギャップができません。これがノイズキャンセリング性能の向上につながっています。顔に当たる部分は縫い目を少なくして、不快感を抑えるだけでなく顔の曲線的なラインにフィットするように作っています」(横山氏)

新開発のイヤーパッドはフラットな形状ながら、内部の素材、外皮の仕上げなどを練り上げて、装着時にユーザーの顔に密着してパッシブなノイズキャンセリング効果を高めた。吸保湿性能が高く、汗蒸れを効果的に逃がせるのも特徴

 イヤーパッドは長く使い込むほどダメージを受けやすいパーツだ。ソニーでは独自に厳しい品質評価基準を設けているが、MDR-1000Xに採用されている新しいイヤーパッドもこれをクリアした耐久性の高いものだという。ヘッドバンドを含めて本体を「軽く作る」ことについても、部品単位での軽量化や組み立て方に検討を重ねた成果が表れている。横山氏によれば、手に持った時よりも、頭に身に着けた時の方が軽く感じるよう重心のバランスも調整されているそうだ。筆者もワイヤレス+ノイズキャンセリング機能を搭載する全部入りのアクティブヘッドフォンは、普通のパッシブなヘッドフォンに比べて“重い”という印象を持っていたが、本機は身に着けた時に重さによるストレスがあまり感じられないヘッドフォンだ。

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