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「走った分だけ」を実現した従量制の自動車保険「Metromile」とは

» 2016年11月16日 06時00分 公開
[中井千尋ITmedia]

 「自動車保険の保険料が高い」と感じたことはないだろうか。クルマに乗らないかぎり事故は発生しないのだから、いっそのこと走った分だけ保険料を払いたい……。そう考える人もいるだろう。

 走った距離の分だけ保険料を支払う「従量制自動車保険」は、残念ながら今のところ日本には存在しない。しかし自動車大国の米国では、近年注目されるIoT(モノのインターネット)を駆使し、それを実現しているスタートアップ企業がある。

 そのスタートアップ企業が実現した従量制自動車保険とはどういったものか、保険料はいくらなのか。新しい保険の形を実現したIoTのカラクリは一体何なのか、紹介していこう。

65%のドライバーは保険料を払いすぎている

 米国発のスタートアップ企業Metromileは、クルマのダッシュボード下に差し込んで走行距離を測定する、携帯回線とGPSを搭載したデバイス「Metromile Pulse」を開発した。同社はこれを使って従量制を実現した自動車保険「Metromile」を販売している。

「Metromile」

 同社によると米国の一般的な自動車保険は、少ない距離を走るドライバーには不利な価格設定となっており、約65%のドライバーは保険料を払いすぎているという。

 Metromileでは、そんな短距離ドライバーの悩みを解決すべく従量制自動車保険を実現し、走行距離が1万マイル(約1万6000km)以下であれば、従来より平均年間500ドル(約5万円)ほど保険料を節約できるとしている。

走行距離ごとの節約額イメージ(MetromileのWebサイトより引用)

 Metromileが提供する保険料の料金体系は、定額の月額基本料金と、走った距離に応じた従量制保険料の二段階で料金が設定される形だ。

 いずれの金額もドライバーの年齢、車種、事故歴などを加味して設定される。加入者は、毎月月末に翌月分の基本料金とその月の走行距離を元に割り出された保険料を支払う。以下は保険料の一例だ。

  • 月額基本料金:30ドル
  • 走行距離に応じた保険料:16ドル(走行距離500マイル、3.2セント/マイル)
  • 合計:46ドル

 価格もそうだが、気になるのは補償プランだ。保険料が安いだけでは、万が一事故を起こしたり、事故に遭ったりした際には補償を十分に受けられない可能性がある。

 この点、Metromileの補償内容は従来の一般的な自動車保険と同じだ。対人・対物への賠償、車両・人身傷害補償、緊急時のロードサービスなどを用意、事故の報告も24時間受け付けている。

Metromile Pulseは無料で配布

 Metromileに加入すると、Metromile Pulseは無料で配布される。これを自動車のダッシュボード下に差し込み、赤いライトが点灯すれば準備完了。あとは通常通り運転するだけだ。

 走行距離は自動で測定され、データは同社のシステムに送信される。ドライバーは自分の走行距離をWebサイト上のアカウント、もしくは専用アプリで確認できる。

走行距離を測定する携帯無線GPS付きのデバイス「Metromile Pulse」

 アプリとデバイスを同期すれば、走行距離に加え、走行時間や位置情報の確認、一部の地域では道路清掃のアラートを受け取れることもできる。毎月の保険料もアプリでチェックでき、どれだけ節約できているか随時把握できる。

 Metromileの現在の営業地域は、カリフォルニア州、ニュージャージー州、ワシントン州など全部で7州。今後、他の州にも展開していく予定で、同社のWebサイトにある「Waitlist」機能を使ってユーザー登録をしておくと、新しい地域が追加された際に通知を受け取れる。

サイト上の「Waitlist」機能

日本の保険業界も導入に意欲的

 日本の現在の自動車保険は、見込みの走行距離をいくつかの区分に分け、それぞれの保険料を設定しているものが主流だ。

 しかしこれでは、区分をギリギリ超えるドライバーが損だと感じてしまったり、実際の走行距離が見込みを大きく下回ってもしまっても規定の保険料を払わなければならなかったりする。

 日本の保険業界では三井住友海上など、従量制自動車保険の導入を目指している企業はある。これまではテクノロジーの限界によって実現は難しかったが、IoTの発達、普及でそれが可能な段階まで来ている。

 もちろん、デバイスの脆弱性によって運転の安全性が損なわれることはあってはならないが、「Pay as you drive.(走った分だけ支払う)」な自動車保険がスタンダードになる日もそう遠くないだろう。

ライター

執筆:中井千尋

編集:岡徳之


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