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映像は誰のもの?――麻倉怜士の「デジタルトップ10」(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/4 ページ)

» 2016年12月31日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

 2016年のデジタル業界を総括する「デジタルトップ10」。後編はトップ3と番外編2の発表だ。驚くべきことに、今回のトピックは全てビジュアルで占められた。世界のビジュアルシーンの最先端を常に走ってきた麻倉怜士氏は2016年をどのようにみたのか……え、番外編はガッカリ賞ですか?

ガッカリ賞:ソニー「PlayStation 4 Pro」

麻倉氏:今回は新機軸として、2つ目の番外編に「ガッカリ賞」を入れました。鈍色に輝くザンネンな評価を得てしまったのはソニーの「PlayStation 4 Pro」(以下、PS4 Pro)です。今までプレステは同一世代では、サイクルの半ばに小型化や廉価版といったディフュージョン的なマイナーチェンジを行ってきました。ですが互換性に関わる大規模な“アップグレード”は、ソフト製作にも問題が出るということで避けてきました。今回はその禁を破り、PS4 Proをデビューさせたのです。

,“今年のガッカリ”に選出されてしまった次世代ゲーム機「PS4 Pro」。「そこまでやって、なぜUHD BDに対応しないのか」と問い詰めたくなるハード構成。余談だがPS4 Proの発表会はIFAが開催されていた9月上旬だったが、会場がニューヨークだったため、麻倉氏はIFA取材のベルリンからニューヨークへ飛んで帰国するという“世界一周取材”を敢行したらしい

 初代プレイステーションは光学ディスク化してメディアのコストを劇的に下げました。PS2はDVD化し、汎用プレーヤー機能を付けることで単なるゲーム機からAV機器としての役割も持たせました。PS3はHDとなり、Blu-ray DiscとHD-DVDとの「第4次ビデオ戦争」に対して強力に援護射撃し、ゲーム+BD再生としてホームシアター環境での一角を担いました。そしてPS4は、メディアは変わらず内部をブラッシュアップしてゲームの処理速度を向上させたのです。

――PlayStationシリーズは4になってから大きく方針転換をしましたが、正直何だかなあという感じですね……それで“がっかりポイント”はどこでしょう?

麻倉氏:PS4 ProはPS4が2013年末に出て3年弱というタイミングで、フォーマット的なモデルチェンジまでは至りません。では、なぜ今回あえてアップグレードしたかというと、これは間違いなくメディア情況が4K化したからに他ならず、それに加えてHDRという新機軸も出てきたからです。

常に最先端メディアを採用してきたという今までの流れからいっても、今回のアップグレードは本来であれば当然Blu-rayも4Kになるだろうということで、当たり前のようにUltra HD Blu-rayが採用されると見られていました。が、ふたを開けてみるとゲームはしっかり4K+HDR化を果たしたにも関わらず、Blu-ray Discは従来の2K規格のもので、期待値が高まっていたAVコミュニティーでは盛大にズッコケたというのが顛末です。

 2K世代で標準的なディスクメディアとなっているBDは、専用プレーヤーだけでなくPS3で楽しんでいるという人がとても多いです。BDプレーヤーとしてのPS3を見てみると、コントローラーの操作性は良好、クロスメディアバーというユーザーインタフェースは直感的で、機材自体も“スーパーコンピューター・オン・チップ”といわれたCELLの強力な処理能力を用いるため、非常にハイパワーで快適に動作します。よって“ホームシアターにプレステ”という選択は定番となっていた。

 そのホームシアターが4K化するとなると、当然メディアも4K化するわけですが、プレステも当然この流れに乗ると思ったらそうはいかなかったのです。何故かという疑問に対しては“世界的にディスクからOTTへ”という流れが言い訳としてはあります。つまり、OTT(Over The Top)であるNetflixやAmazonプライムなら自由に4K +HDRを観ることができる、と。確かにその通りではありますが、でもその機能はテレビも当たり前のように内蔵するという時代になってきました。そうなると専用端末であるセットトップボックスはもはや不要で、わざわざ導入してもらう差別化にならないのです。

――4K化の流れにおけるプレステ側の言い訳自体が、自身の存在理由を否定しているということになりますね。工夫次第で広がるさまざまな可能性をコストカットを理由に否定し、ゲームのみに特化させるという。この流れはPS4から提唱されていますが、PS4 Proになってそれが先鋭化したといえるでしょう

麻倉氏:ハード的に見てPS4 ProはHEVCのデコーダーなど必要なものはだいたい積んでいるので、UHD BDに対応するにはBlu-rayの3層対応ドライブさえあれば対応できてしまいます。ソニーはそれをしなかったわけですが、逆の選択を取ったのがパナソニックです。

 パナソニックがいち早くUHD BDプレーヤー(レコーダー)を出せたのは、光学ドライブを自製していたからなんです。一般的に新ドライブと既存のシステムの互換性を取るのはなかなか難しく、検証に時間がかかるのですが、実はパナソニックは前々から3層対応のドライブを搭載しており、規格が固まってチップができればすぐにでもUHD BDに対応できるという強みがありました。

 先にも述べた通り、今回のPS4 Proはマイナーチェンジです。この状況に対する私の答えはズバリ「PS4 Pro IIを出そう」(笑)

――なんだかノリが「ファイナルファンタジー X-2(テン・ツー)」みたいになってますねぇ(笑)

麻倉氏:「OTTなんてことをいうならゲームだってクラウド化でダウンロードができる時代だし、そもそも面倒な検証をしてまでコストのかかるディスクはいらない」となるところですが、実際のところ大メーカーが何年もかけて作るゲームはとてもダウンロードに耐えられず、Blu-rayの容量がなければやってられません。デリバリーメディアとしてはやはりディスク、そうであるならばそこは是非メディアの片輪である最新ディスクフォーマットに対応を、となるのです。それも本当に4K/HDR信号を入れるとなると、まさにUHD BDが必要になります。よって“PS4 Pro II”か、あるいはいっそ“PS5”を望みたいところです。

――確かに現在の回線環境で100GBのゲームをダウンロードなんてのは、PCゲーマーが顔をしかめる“ギガパッチ”と呼ばれる大容量バグ修正ファイルのダウンロードが、裸足で逃げ出す悪夢ですよ……

麻倉氏:初代PSが1994年、PS2が2000年、PS3が2006年、PS4が2013年と、今まではだいたい6年周期できました、となれば次は2019年になるかといいたいところですが、技術革新の速度が速まっており、2019年には8Kをやらないといけないためそうはならないでしょう。そんな時に8Kのデリバリーメディアとして133GB止まりのUHD BDなんていっているようでは、とてもお話にならないのです。

 次世代機に4Kメディアというのは当然のように読めることですが、そんな当たり前の事はもうちょっと前からやってほしかったというのが私の意見です。今までがそうであったようにプレステには新メディアの牽引役であってもらいたいし、それを実行し続けていた久夛良木健氏が居ればこんなことにはならなかったでしょう。

――「Xbox One」やPC版とマルチリリースをする大型タイトルも増えている今、ソニーがゲームをやる意味というのをもう一度考え直すべきなんでしょう。プレステの出発点自体が元々スーパーファミコンの光学メディア拡張システムで、遊びの領域をゲームからマルチメディアへ拡げるというものでした。個人的には今一度プレステの原点に立ち返り、ホームメディアの中枢という久夛良木さんの構想を評価し直してもらいたいと願ってやみません。

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