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映像は誰のもの?――麻倉怜士の「デジタルトップ10」(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2016年12月31日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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第1位:JVC DLA-Z1

――さて、カウントダウンもいよいよ大詰めです。麻倉怜士的、2016年最大のニュースは何でしょう?

麻倉氏:ズバリ、JVCケンウッドの新世代4K HDRプロジェクター「DLA-Z1」です!

――おっと、2位に続いてまたまたプロジェクターですね?

JVCケンウッドのリファレンス4Kプロジェクター「DLA-Z1」。光源にレーザーを用いるなどソニー「VPL-VW5000」とよく似た構造を持ちながらも、出てくる映像が全く違うことに麻倉氏は驚いたという

麻倉氏:ソニーも大変素晴らしいですが、こちらは別の意味で素晴らしいのです。ちなみにブランド名はJVCですが、ワタシ的には“ビクター”という響きのほうがずっとしっくり来るので、以降はビクターで通させてもらいます。

 ランプユニットは明るさ3000ルーメン、光源には48個のレーザーを用いており、それを蛍光体に当てて色を作るというもので、システムとしては先程のソニー「VPL-VW5000」とよく似ています。ところが、出て来る絵が全く違うというのが凄いです。ビクターの絵の魅力というのは、ソースに対してまさにビクター的としか言い様のないヒューマンなフレーバーを与えることで、さらにビビットになって感動が高まるという部分にあります。HDR以前からDレンジは広く、黒にキチッとしたベースがあり、その上に階調が細かく乗って中間調の色が大変リッチで白も良くノビていました。そこへ今回はさらにHDRがきた訳です。

 ビクターの画作りをしている人は徹底的にこだわる映像哲学の担い手で、ここ10年間のビクターのホームシアター用プロジェクターの歴史は紛うことなく彼が作りました。テクノロジー的に見ると、従来の2Kデバイスを半画素分だけ斜めにずらして疑似的に4Kを表現するという「e-shiftテクノロジー」から、この度ついにリアル4Kに進化しました。今までのe-shiftでは見た目の解像感を上げようとするとどうしても強調型となってしまい、弊害としてノイズも出ていました。特にごちゃごちゃしたところがパンをしながら動くと、画質的にもごちゃごちゃしてしまいました。そういった問題点をいかに抑え込みながら絵作りするかという、手かせ足かせをはめられた状態で頑張ってきたのですが、今回はそういった拘束から開放されて、全く自由に広大な画質環境の中で自分の絵を作れるとなりました。そんな中で出てきたのがZ1の絵なのです。いってみれば手かせ足かせとなっていた”大リーグボール養成ギブス”が遂に外れたのです。

フル4K化を達成した反射型ディスプレイ「D-ILA」。e-shift方式の弱点だった動きのある映像の細部に対して、絶大な効果を発揮する

――なるほど、ほんとうの意味で「ビクターの4K」がようやく顕現した訳ですね。これは確かに大きく注目すべきです

麻倉氏:同じコンテンツを見ても「これだけの情報が入っていたのか」「こんな描き込みがされていたのか」ということがよく分かります。完全に“オーディオビジュアルあるある”ですが、同じコンテンツから得られる違った感動を求めて、我々AVファンはさまよい歩く訳です。古いものからも新鮮な感動を得られるという意味で、今回のZ1は正しくビシュアル趣味です。

 私が思うに、ビクターの凄さはグロッシー、つやっぽい、濡れているというところです。逆に位置するドライな絵というのは、くっきりシャッキリでキリリとしているけど、何だか情緒感がないというもの。ビクターは凄くシャキッとしてしっかりした安定感や粒子感を保ちつつも、そこに得も言われぬツヤ感やグロッシーなものがあり、絵が実にすべらかです。ソニーは論理的にすべらかなのに対して、ビクターは感情的にすべらかというべきでしょか。

 このZ1、4Kが良いのはもちろんのこと、2Kのアップコンバートがたいへん素晴らしいです。ビクターのプロジェクターには従来からマルチプルピクセルコントロール(MPC)という優秀なアプコン用超解像技術がありましたが、今回のMPCはどちらかというと4K入力のためのものになりました。とは言えやはりこのアプコンは素晴らしいですね。

 ホームシアター専門店のアバックが毎年開催している恒例の大商談会イベントで、定番のサウンド・オブ・ミュージックを最初に上映したのですが、目の肥えた参加者から「おおっ」というどよめきがあがりました。マリア先生の肌の細かい立体感や自然な奥行き感が機械的に出るのではなく、情緒的・人間的で暖かな情感があり、なおかつ峻厳な解像度もあります。

――アバックの商談会イベントでどよめきがあがるというのはなかなかすごいことですよ。何せ既にシアター環境があって、次の獲物を虎視眈々と狙う猛者達が集う場所ですから。“明らかに凄い”というレベルでないと参加者をうならせることはできません

麻倉氏:色の階調感と色の出方にも驚きですよ。お気に入りソースである「音楽・夢くらぶ」の松田聖子さん(NHK、2004年放送)は基本的にオーバードライブして白トビが多々あるのですが、今回はそこに中間調があって色の違いが何とも滑らかです。表現が良くない場合、肌に色の段差であるバンディングが出てしまって暗部と明部に分かれてしまいますが、コレで見るとスコットランドの丘陵地帯を思わせる実になだらかな地平が続き、徐々に変化する中で色の階調感がすごく出ます。同じピンクであってもちょっと赤っぽかったり薄かったりと、これまで見たことのない階調感です。

 ここだけの小話、実は以前のモデルに「聖子ちゃんモード」を作ったことがあるんです。

――えっ、「聖子ちゃんモード」……?

麻倉氏:というのも、量販店ではなく専門店で購入した人への特別サービスで。これと「きみに読む物語」チャプター11の赤が一番リアルに見られる画調設定というのをやったんです。

――すごい、他に全く使い道のない超絶限定モードですね

麻倉氏:若干ピンクに行くような魅力が出るように私が絵を作ったんですが、これはナチュラルというモードに入っていて、最初は特別モードだったんですが今でも半分くらいは入っています。そんなこともあって、以前やったアバックのシュートアウトイベントで聖子ちゃんをかけると、ビクターだけが異様に光輝いていたりしました(笑)

 とにかく、リアル4Kの上に階調が乗っているということのすごさ、違いがまざまざと分かります。

 4Kもさることながら、HDRのイコライジングもすごいですよ。先程のソニーはガンマ調整を許さなかったですが、Z1はなんと暗部・中間部・明部の3帯域に分割して非常に細かくイコライズすることが出来ます。HDRに対するトリートメントが可能です。

――それはすごいですね、ソニーとは正反対の姿勢だ

麻倉氏:一口にHDRといっても、「パシフィック・リム」は凄く明るいし、「るろうに剣心」は凄く暗い。こんなに違うのに一緒の値でいいのか? という疑問も当然湧いてくる訳です。先にも述べた通りHDRに関してはディレクターズインテンションが過度に主張されてきましたが、行き過ぎたディレクターズインテンション信奉に対して、今ユーザーズインテンションの揺り戻し効果が出てきており、その1つの流れがビクターです。そのビクターのHDRに対する考え方というのも、画質の哲学者が作った非常に使いやすいものなんです。元々ある映像からさらに魅力を引き出すことが可能なプロジェクター、それがZ1ですね。

――何というか、徹頭徹尾人間に寄り添ったモデルだと感じます。文学論に作者を神として物語を読み解く作家論か、読者が読み取った物語で世界を語る作品論かという論争があるのですが、まさにソニーとビクターがぴったり当てはまると感じました

麻倉氏:例えば「LUCY」、肌のリアルな凹凸感や油性分の妖しい輝きなど、非常に官能的でエモーショナルな表現です。e-Shiftの時は細部でMPCによって強引に強調するようなところがありましたが、ネイティブ4Kでは非常にナチュラルで、だからこそにじみ出るすごさがあります。特に今回は60mmから100mmにレンズサイズをアップしており、本質的に自然さを追求した凄い精細感が、全画面に渡って出ています。

 いうなればこれは理想の映像を自らの手で創ることができるプロジェクターです。私のシアターのリファレンスになる可能性大の、素晴らしい映像美が誕生しました。

「IFA」会場で「DLA-Z1」を取材する麻倉氏。「感性に訴える情緒的な絵が非常に魅力的」と麻倉氏は語っており、リファレンスモニターとして麻倉シアターに迎え入れられる可能性が非常に高いという
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