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大手プロダクションが切り拓く“8Kドラマ”というフロンティア麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2017年01月17日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:8Kのボケは2Kや4Kとはちょっと質が違うように思います。2Kの低密度、4Kの中密度なボケ方とは違い、よりボケの情報量が多く、例えばグラデーションもボケの中に入るとより鮮明に色が出てきますね。

――高解像度における色の出方ですか、なるほど。となるとスチルカメラの85mmのように、8K時代に見合った「ボケのためのシネレンズ」「8Kのための望遠レンズ」といった機材の可能性も今後は考えられそうです

望遠レンズによる大きなボケ(写真=上)では柔らかく、広角レンズによる小さなボケ(写真=下)ではキラキラといったように、ボケに対しても映像表現の神経を通すことに成功している。いずれも暗いシーンだが、高解像度なため被写体の役者が埋没することなく描き出されている
使用したシネレンズは映画撮影の定盤であるツァイスのマスタープライム。今後8Kへの理解が深まれば、あるいは「8Kのための望遠レンズ」といったものなどが出てくるかもしれない

麻倉氏:もう1つのフィーチャーポイントはやはりHDR(ハイダイナミックレンジ)でしょう。今回はHDRのピカピカ感ではなく、月の中の模様や街頭や円形の街の表情が見えるという細部表現が主題です。暗所における光の表情、色感というところがきれいに見えるのが特長で、やはり8Kだけでは精細にはなっても暗さと明るさの間での深さといったDレンジ方向は出てきません。8KとHDRが一緒になることで表現力が掛け算になり、絵にドラマチックなリアリティーが与えられるのです。

 ですが、HDRの取り扱いはどうも結構苦労したらしいです。HDRは明部の階調が出るので、例えば夜に街頭のシーンを撮るとランプとフレアが分離します。従来のビデオ的リアリティならば、発光部と分散部がキッチリ分離されていて良しとなるところですが、「果たしてドラマでそれはどうなの?」と。そこはやはりファンタジーのための表現ということで、エッジの階調度を適度に潰しています。

 撮影に用いたF65カメラは8K撮影でもよく用いられるスタンダードなものですが、実のところネイティブのフル8K撮影には対応しておらず、CMOSは8Kですが出力解像度は7Kくらいなのです。4Kあるいは6Kくらいの出力であれば充分ですが、8Kに用いるにはいまひとつで、通常は内蔵のアプコンと超解像を使うのがセオリーです。ですがこれに沿ってLUNAでも試してみたところ、これはどうにもハッキリくっきりのビデオ的で、そのまま使うといかにも超解像なカリカリの画になってしまったそうです。ドラマでの画調としてはイマイチです。

――確かに、最先端の映像技術は映画かスポーツと共に進化してきた訳で、8KはNHKがけん引していることからも分かる通り「放送のための最先端映像」として今まで歩んできた訳ですから、その目的はやはりオリンピックかFIFAワールドカップかとなりますね。従来ドラマ側はハリウッドがけん引役となっていましたが、それに当たるものが8Kには今までなかったわけですから

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