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大手プロダクションが切り拓く“8Kドラマ”というフロンティア麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2017年01月17日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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麻倉氏:そこで試しに編集機Rioに内蔵されているアプコンプラグインの絵を見たところ、パキパキになりすぎず、意図的なファンタジー性を持った柔らかさが得られました。そのため、どちらかを選ぶ際でこちら(編集アプコン)を採用したというそうです。これも8Kドラマ作品としての新しい可能性ですね。アウトフォーカスにも通じるところですが、全体的にキリキリ締め上げるのではなく、適度な潤い感を狙っています。

 あとはCGとの合成にもひと苦労があったそうです。主人公の男子高校生が横須賀の丘の上に立って月を見上げるというシーンがあり、ここでは実景の街の風景と、CGでの藍色の夜空を背景に広く漂う雲と大きく輝ける月、といったオブジェクトを一画面に収めたところ、月がどうにも明る過ぎたとか。その他、実写の夜空の輝度感に合わせて階調感を合わせたり、ノイズが目立つのでノイズリダクションを数パターンに分けて試してみたりもしたようです。

8KドラマでのHDRも大きなテーマの1つ。明暗差が大きなシーンを引き締めるのはもちろん、幻想的な光の柔らかさを表現するためにあえてエッジ処理を抑え気味にした部分もあるという。最新鋭技術を用いるからといって、常にフォーマット限界いっぱいまで使用することは、表現のためには必ずしも必要とは限らない。これも大きな発見だ
作品を象徴する満月の夜。実は役者と街は実写で、空と月はCGだという。画面に収める際に明度差やノイズの処理などを自然な感じに整えるのに苦労したそうだ

 このように、さまざまな試行錯誤の末に完成したLUNAですが、初の8Kフィクション作品ということで、やはり一筋縄ではいきませんでした。ですがそれも8Kでドラマを作るという目的意識があってのことです。今回のまとめとして、現状の8KはNHKがやってきたような現実以上の現実感を突き詰めるという方向で進んできました。これは4Kとの大きな差別化で、プラスHDRでリアリティーがより現実味を付帯させてきています。LUNAはそれとは違う地平、別の分野において、従来の8Kの文脈に沿いつつも、それを解釈して8Kの中での新しい可能性を拓いた、非常に画期的な作品と評価できるでしょう。

――僕は新技術を常に「新しい表現の可能性」と見ていますが、この文脈に当てはめて言うと「表現の道具としての8K」という言葉で言い表せると思います。フェルメールがラピスラズリを、ジャズがモード旋法やエレキギターをそれぞれ用いて新たな表現を獲得したように、デジタル映像は8Kによって新たな表現を手に入れたのです

麻倉氏:「表現の道具としての8K」それは良い言葉ですね。これまで8Kは現実を伝えるための道具として用いられてきました。ですがここにきて、現実はさておいての表現、つまりディレクターズインテンションを伝えるための、より緻密、より正確、よりドラマチックな8Kというものがここにあるのです。そこへHDRを加えることで、より表現の幅は拡がります。そういう意味でこの時期にLUNAができたというのは大変画期的ではないでしょうか。

 私も2度ほど渋谷へ足を運びましたが、どうやら注目度は非常に高いらしく毎日のように見学者が来ているとのことです。なんでも放送局やプロダクションはもちろんのこと、1時間ワンクールの見学時間にメーカーなどの業界人が絶えないみたいです。あまりに見学者が多いため、現場や担当者からは本来の編集業務がなかなか進まないという悲鳴が上がっているとかなんとか。いずれにしても、NHK以外の大手プロダクションが大々的に8Kに取り組み始めたことは、今後の8K、ひいては映像制作の発展において非常に喜ばしい“事件”ですね。

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