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審査委員長直伝! 第9回「ブルーレイ大賞」レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/6 ページ)

» 2017年03月09日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

ベスト高画質賞 ライブエンターテイメント部門「ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール」

「ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール」

麻倉氏:次は主に音楽のコンサートやライブなどの映像を評価するライブエンターテイメント部門、受賞作は「ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール」です。この作品は元ピンク・フロイドのメンバーのロジャー・ウォーターズが、アリーナの舞台に壁を立ててアルバム「ザ・ウォール」を再現したライブツアーを収録したもので、ステージ上の壁にプロジェクションマッピングで演出したものを4K撮影しています。

 4K撮影らしい鮮明でクリアな素晴らしい映像で、照明が落とされた薄暗いライブシーンの始まりに黒い革ジャンで出てくるロジャー・ウォーターズの“黒い中に光が当たって革の質感が浮き立つ”という様が、4Kでは大変うまく捉えられています。そこにCGや爆破などの演出も入り、世界中でヒットしたザ・ウォールプロダクションの全貌が実にクリアに描き出されていました。

 導入部は墓場でロジャー・ウォーターがトランペットを吹く中、爆撃機が超低空で飛行してライブシーンに入るというもの。もの凄く明るい場所の下から見上げると黒に覆われてゆき、そこから黒の世界に入っていくという、この映像演出も素晴らしいです。

――音に関する部門ではないですが、これもマイケル・シェンカーと同じでロック、ライブ、Atmosという組み合わせですね。なんとなくこれからの方向性を表しているような気がします

麻倉氏:ところでこのライブエンターテイメント部門に新機軸のタイトルが入賞しましたよ。ディズニーの「東京ディズニーシー ザ・ベスト」です。

――ディズニーシー? パーク内の風景映像か何かでしょうか?

麻倉氏:内容は15年分のパレードを集めたオムニバス映像で、単なるパーク風景とは似て非なるものですね。評価クリップはクリスマスイベント期間中の映像でした。ディズニーシーの映像といわれるとなんとなく想像がつきそうなものですが、ディズニーリゾートが誇る光と音楽によるショーの煌めき感やワクワク感を感じるだけでなく、驚きの高画質で独特の空気感を再現していました。特に暗い背景をハックに光が浮き立つ様な場面での、光の中の階調感、収斂感、フォーカス感が素晴らしいです。HDRではないですが、水の反射感など、闇の中での光のページェントをよく捉えています。

――スターツアーズやシンデレラ城のプロジェクションマッピングなど、アトラクションでも積極的に最先端技術を投入するディズニーリゾートですが、シーズン毎に変わるパレードを支えるキャストも極めてハイレベルなことで有名ですね。確かにこういった映像が高画質の“ライブエンターテイメント”として評価されるというのは新しいです

高画質賞 ライブエンターテイメント部門の入選作品。オペラ「椿姫」、ロジャー・ウォーターズ「ザ・ウォール」という音楽タイトルに囲まれて「東京ディズニーシー ザ・ベスト」というイベントものが食い込んだ。大掛かりなセットやハイパフォーマンスなダンサーキャストなど、純粋なエンターテイメントとしても上質なディズニーパレードの数々を収録した、新しい試みだ

審査員特別賞「宮古島 癒やしのビーチ」「パシフィック・リム」

「宮古島 癒やしのビーチ」と「パシフィック・リム」

麻倉氏:審査員特別賞に移りましょう。入選タイトルの中から惜しくも部門賞を逃したものに対して、審査員が「これは落とすに惜しい」とした作品に与えられるアワードで、今回はビコムの「宮古島 癒やしのビーチ」とワーナーの「パシフィック・リム」の2タイトルが見事受賞しました。

――ビコムに関しては昨年末のデジタルトップテンで「UHD BDの最初は俺がとる!」と山下社長が張り切っていたと聞きましたが、惜しくもレヴェナントに競り負けてしまいましたね

麻倉氏:まず宮古島についてお話しましょう。ビコムは鉄道映像で有名なグランプリの常連で、企画映像部門でも触れた通り年に1回南の島での高画質映像を撮るプロジェクトを立ち上げています。波の海や抜ける空という南の島の景色における透明な空気感を、BDのスペックを生かして高画質で切り撮るというこのプロジェクト、今回はその6回目で宮古島は2回目です。初期のブルーレイ大賞では「ドキュメンタリー部門はビコム一択」のような感じで、毎年のようにトロフィーを持っていっていました。今回はソニーPCLとの協業で使用カメラは4Kでお馴染みの「F65」ですが、以前はパナソニックの「VARICAM」シリーズをよく使っていました。売り文句は「細部設定が違う」。現地で実景を見て、細部まで徹底的に設定を追い込みます。効率を優先した同一設定にはしないという、まるで趣味の世界の様なコダワリの極地です。

――すごく良い意味で“商売的なプロの発想ではない”ですね。これが許される環境というのはクリエイターにとってある種の理想だと思います

麻倉氏:ビコムは新フォーマットのUHD BDにも果敢にチャレンジしており、世界初のUHD BD市販パッケージはVARICAM 4Kを使った「4K夜景」です。これに関しても、そもそも夜景を4Kで撮るという発想がすごいですね。

 今回の宮古島は明るい南国をHDRで収録するという、映像美の王道を往くものです。生々しく鮮やか、空気感も実にクリアで、余計な説明や演出を省いたまさに“映像のための世界”が展開されます。ですがもうひとつ見逃せないのが、音声が192kHz/24bitのハイレゾ収録ということ。これによりハイレゾならではの空気感がよく出ます。4Kのリファレンスとなった「4K夜景」に続いて方々からの評価も高く、先進映像協会の「リュミエールアワード」4K部門グランプリやステレオサウンドの「HiViグランプリ」特別賞などを受賞しました。今ビクターの4Kプロジェクターイベントで私と一緒に全国巡業上映中です。お近くのイベント会場で最先端の極上4K HDRが体験できます。ちなみにリュミエールアワードに関しては、日本はInterBEEでの発表なのですが、本部アメリカではブルーレイ大賞の数日前にFOXシアターで授賞式があったそうで、山下社長はハリウッドへ飛んだ帰りにそのまま日本のブルーレイ大賞授賞式へ出席したそうです。

――宮古島は音響効果部門の高音質賞でも入選していましたね。192kHz/24bitという分かりやすいアイコンはともかく、具体的にどんな音が評価されたのでしょうか?

麻倉氏:実は今回のプロジェクトは“サラウンドのハイレゾ”がメインコンセプトで、企画を進めていくうちに後から4K HDRがついてきました。本作のような環境映像はこれまで音に関しての気配りがあまりなされていませんでした。ですが「“その場に居るような感覚”を求めるならば、音が与える影響は大きいのではないか」とビコムは考えたわけです。自然音、特に波の音の場合、低品質だとまるでホワイトノイズの様にうるさくなりますが、本作での波の音は極端にHi-Fi的にはならず、音の文のような微細部分まで出てきて、しかもサラウンドで響き渡ります。映像のハイレゾに留まらず、音の現場感というもののクオリティーがものすごく高いので、映像と音が織りなす臨場感と感動が圧倒的なのです。作中に流れる民謡ももちろん192kHzで録られていますが、三味線バックに声というシンプルな構成の音楽が驚くほどクリアで、現場感覚というか、現地の音が生成りのままストレートに出てきます。実に素晴らしいですね。

――環境映像の高音質化、また1つオーディオビジュアルの世界が拡がりましたね

麻倉氏:続いて「パシフィック・リム」です。以前から述べている通り、UHD BDの大きなポイントはHDRの使い方にあります。HDRの特長は高輝度部分の色が抜け落ちずに階調がきっちり出ることと、輝度ピークが高いことの2つ。映画作品はどちらかというとピークの高さを利点のメインにしています。特に「パシフィック・リム」のすごさはハイピークのHDR的特徴を最大限に生かして、キラキラ感というか質感というかダイナミックさというか、そういうものを「ここまで出せるのか!」という極限に挑戦したことにあります。この高輝度/高彩度というHDRの利点を極限まで引き出した点が、審査員の間で高い評価を集めました。

 巨大生物“KAIJU”との決戦用ロボット“イェーガー”が放つキラキラとした反射感やピーク感を保ちつつも、先鋭な光の中にきっちりと色が乗っていて、高輝度・高彩度が全面的に横溢している“フルダイナミック”感を目一杯感じさせる作品です。ある意味でHDRのショーケースといってもいいくらいのハイテンションな映像なので、HDRの利点を体感してみたいならばオススメのタイトルといえるでしょう。

 特別賞はどちらもUHD BDですが、日本では既に60タイトルくらい出ており、アワード作品以外も含めて「全て素晴らしい」というところで、今回は入選作品3タイトルが全て受賞しました。審査員としては審査が難しくなりますが、長年オーディオビジュアルに携わってきた身としてはとても喜ばしいです。

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