ITmedia NEWS >

審査委員長直伝! 第9回「ブルーレイ大賞」レビュー(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/6 ページ)

» 2017年03月09日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

ベスト高画質賞 テレビドラマ部門「X-ファイル 2016」

「X-ファイル 2016」

麻倉氏:どんどんいきましょう、テレビドラマ部門の高画質賞は人気シリーズ13年ぶりの最新作「X-ファイル 2016」です。

――1993年から2002年までの間に9シーズンが放送されたX-ファイルがまさかのカムバックですね、当時からテレビ離れした制作環境などが話題となりました

麻倉氏:破格の制作環境は今作も健在で、ロケーション撮影も映画撮影並のかなり本格的なものです。情報量の多さと絵のみずみずしさがあり、太陽光を生かした明瞭(めいりょう)でメリハリのあるトーンの中に、中間色の発色が大変きれいな絵作りになっています。階調感もコントラスト強調ではないキチッとした暗部階調が出ており、柔和でバランスの良いフィルムルックな質感で情報量が非常に多いです。「テレビドラマでここまでやるか」という、驚きを禁じ得ないハイクオリティーでした。魅力的に歳を重ねた主人公2人の肌の質感が実にきめ細かく、シーンごとに乱れがちな肌の色調も安定しています。流石にアメリカ4大ネットワークのフォックスがキチッと作ったTVドラマは違います。

――日本ではCS局とOTTが主体の同シリーズですが、アメリカンドラマの本気が詰まった作品は一見の価値ありです。本国アメリカでも好評で、新シーズンもという話も盛んだそうですよ

麻倉氏:その他の私のイチオシはNHKが放送して話題となった「サンダーバード ARE GO」、これもすごく良い画質です。私設国際救助隊の活躍を描くサンダーバードというと、元々はマリオネットによるハイクオリティーな人形劇です。今回は実写と3DCGを融合させた独特の映像表現で、質感描写にすごく階調感があります

「X-ファイル」「サンダーバード ARE GO」そして「SUPER GIRL」と、テレビドラマ部門には米英の本気が詰まった洋画タイトルが勢ぞろい。特に制作の豪華さに定評のあるX-ファイルがアワードを受賞したが、こういった強いこだわりの映像はやはりパッケージとして手元にとっておきたい。ちなみに今年のフォックスは「24」「プリズンブレイク」「レギオン」という大型タイトルのBDリリースが控えている

ベスト高画質賞 企画映像部門「ディズニーネイチャー/クマの親子の物語」

「ディズニーネイチャー/クマの親子の物語」

麻倉氏:次はドラマと音楽以外の幅広いジャンルを取り扱う企画映像部門、受賞作は「ディズニーネイチャー/クマの親子の物語」です。アラスカのくまの親子に密着取材し、四季折々どのようにクマの親子が暮らしているかという映像を撮ったフランスのプロダクションの作品で、ディズニーネイチャーシリーズの最新作です。

――ディズニーというとアニメとドラマのイメージが強いですが、ドキュメンタリー部門もしっかりしたものを持っていたんですね

麻倉氏:これがもうため息が出るほどの圧倒的な驚きの高画質なんです。鮭に食らいつくヒグマの躍動感や毛並みのビビットさ、鮭のつややかなウロコや見開いた目、アラスカの水の質感など、一瞬の動きも逃さないハイスピード撮影による見どころ満載の映像美が堪能できます。この高速度撮影での見え方というものですが、従来の等速とは違う世界が広がっているんです。自然の風景というものはひとつの動きの情報量はとても多いのですが、通常撮影にしてしまうとサラッと流れてしまいます。それが1枚1枚を切り取る様な形で見せる高速度撮影ならば「ここまで情報があるのか」と思わせる説得力が出てきます。例えば水の透明感というと、通常ならば単に「澄んだ水がサラッと流れている」でおしまい。しかし高速度撮影をすると、ゆっくり水が流れてゆく様子、水の表情や表面の透明感が変わりゆく様、その中にヌメッとした質感が見えます。1コマ1コマの液体的な高い粘性感が見える、そういうところまで捉えているのが高速度撮影なんです。

――プールでトレーニングとして泳いだ時に、水の液体的な重い感覚というか抵抗感というか、そういうものを感じることがあります。あの独特な感覚を視覚化したというところでしょうか

麻倉氏:水はもちろん、鮭の表面の輝き感もあるのですが、鮭漁が上手いクマと下手なクマの差が面白いんです。上手いクマは口を開けているだけで鮭を簡単に獲るのが、下手なクマは正面に来てもなかなか獲れずに鮭が素通りしていきます。上手いクマにガブッと獲られたときの鮭の“諦めの目”まで、自然の姿というものを良く捉えています。

――“死んだ魚のような目”という言葉は時々聴きますが“諦めの目”というのは新しいです。今度どこかで使ってみよう(笑)

麻倉氏:ちなみにアワード以外のイチオシは「特急わかしお9号」。鉄道映像の雄であるビコムが東京から安房鴨川までの前面展望などを収録した作品です。パッケージとしては通常の2K BDですが、撮影は4K 60pで行っており、元々が高画質映像での収録なので下位フォーマットに変換しても高品質の良さが残っています。宮古島のような高画質プロジェクトはビコムの本業に対しても良い影響を与えていますね

――わかしお号は京葉線と外房線を経由する特急列車ですが、東京駅の地下ホームから始まって都会の高架線でディズニーリゾートをかすめ、平地と丘とを越えて九十九里浜南端の上総一ノ宮に抜けます(浜の景色はさすがに見えませんが)。さらに安房勝浦辺りからは海岸が磯になるなど、1本でかなり多彩な環境を走る列車で、車窓映像にはうってつけの題材です

麻倉氏:記録映像の場合は芸術性よりも記録性やドキュメンタリー性が重視されます。画調は細部まで明確に見えるハイフォーカスなもので、前面展望から見える架線や線路、敷き詰められた砂利、流れ行く看板の文字など、60pによる細かい再現がなされていました。コントラストは高いですが、周辺の建物や駅のホームなどのクロスぶれはとても少ないというのも特筆点ですね。白い雲の質感や線路の反射などディテール感も大変素晴らしいものでした。

 企画映像という点ではNHKスペシャル「新・映像の世紀」も挙げておきましょう。20世紀に映像がどのように時代を変え、歴史を動かしたかというNHKの意欲作で、これも大変面白いです。ただ素晴らしい企画には違いないのですが、古い映像がメインなために映像美を評価する画質賞となるとどうしても惜しいとなってしまいます。

――現状の枠組みではなかなかカバーし辛い領域ですね。パッケージとしては確かに価値があると思いますが、評価をするには“企画賞”を立ち上げるしかないというところでしょうか。

麻倉氏:昨年も言った通りブルーレイ大賞は「作品賞ではない」ので難しいところですが、それでも映像が持つ力を見せてくれるという意味で注目に値する1本でした。

ディズニーのドキュメンタリー部門から「クマの親子の物語」が企画映像部門のアワードを獲得。しかし「新・映像の世紀」で麻倉氏は企画そのものに価値を見出した。BDというパッケージをあらゆる面で評価するには、今の枠組みではまだ狭いのかもしれない

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.