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» 2017年04月15日 08時00分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:次世代放送まであと1年! 活発な動きを見せる8K最前線(後編) (2/5)

[天野透,ITmedia]

麻倉氏:まずは毎日放送(MBS)制作「萬福寺音舞台」です。宇治の万福寺で行われた中国舞踊のライブもので、トピックは音声。なんと22.2ch録音です

――22.2chというと、NHKのスーパーハイビジョン規格ですね。在阪の民放局では初の試みではないでしょうか

麻倉氏:今回そろったコンテンツはほとんどがステレオ音声で、いくつかが5.1chでした。ちなみにNHKが提唱する8Kスーパーハイビジョン規格の22.2chサラウンドをNHK以外がやったのは、在阪どころか日本の民放で初めてのことです。しかも収録はホール空間ではなく野外舞台。こうした開放空間でのハイトサラウンドはどのようなものになるのかという、音声分野に関する実験の意味合いもあります。

 なぜこのサラウンド企画に在阪局のMBSが出てきたかというと(もちろん場所が関西の宇治ということもありますが)、MBSには入交秀雄さんが居るからです。この連載でも何度か登場している入交さんですが、2Lのモートン・リンドベルグさんやUNAMASのミック沢口さんと並び、イマーシブサラウンドでは世界で3本の指に数えられるスペシャリストで、毎年恒例の「1万人の第九」や「センバツ高校野球」あるいは自身でもUNAMASの「フーガの技法」や八ヶ岳やまびこホールでのマリンバなど、垂直サラウンドのプロデュースでも極めて経験豊富です。

 そんな入交さんですが、これまでは11.2chくらいのサラウンドだったところ、今回はスーパーハイビジョン規格です。同時に屋外における音楽ライブというものが、果たしてイマーシブは可能なのかという実験にもなりました。

――いろいろなチャレンジを一気に詰め込んだという感じですね。出来の方はどうだったのでしょう?

麻倉氏:意外といってはおかしいかもしれないですが、イマーシブの特長である垂直方向の音圧も結構ありました。マイクをポールに立てるというセッティングで、これが予想外に立体的な音場です。実はこの番組、3月16日のお披露目の時は2chだったのですが、先んじて2月13日にMBS独自の発表会があった時は22.2chでした。この時の演目は中国舞踊「孔雀の舞」です。特長は上空への音の広がり。音楽は基本的に前方2chから直接音が来て、それが後ろと上に広がる感じです。

 特にイマーシブを感じるのは拍手の時で、単に音が上へ行くだけではなく、建物に反射して消え行く様が、移動感も含めて良く出ていました。ナレーションはPAスピーカーからですが、平面のレイヤーに浸透するだけではなく、上方へ昇って左右へたゆたいます。おそらく現場で聞くとそうなるであろうアンビエントの感覚が、リッチなイマーシブで聞けました。録音にあたって上向きに18本のハイト・アンビエントマイクを用意しています。これも実験の1つで、下や前、あるいは後ろと、どの方向に向けるのが良いのかというところも手探り状態なわけですが、上向きの今回の録音でもしっかりアンビエントが捉えられていると感じました。

 入交さんに、録音方針を聞きました。「まず、音舞台全体の音デザイン設計ですが、お寺の境内で聞いている、という現実感と、音楽作品へ没入するという主観的な満足感を両立させることを主眼としました。曲間では、秋の虫の音、拍手、といった音をベースに比較的乾いた音で構成し、音楽に入った時点で、虫の音以外の現実音は一切忘れて、リバーブなどで空間を創出しました。虫の音で我に返ると、確かに野外なのに残響があるのはなぜだろう? と思ってしまうかもしれませんが、今回の選曲の場合、広い場所で聞いているという印象表現が効果的であると考えています。もし、リバーブによる空間演出がなければ、お寺の境内で聞いているという現実感はより強調されると思いますが、楽曲の持つ、うっとりとするような美的表現は難しかったと思います」(入交さん)

宇治の萬福寺を特設舞台に仕立て上げて撮影された「萬福寺音舞台」。スーパーハイビジョン規格の22.2chサラウンドは、イマーシブサラウンドのスペシャリストでもあるMBSの入交秀雄氏の手によるもの。野外のイマーシブ収録はスーパーハイビジョンの将来を占う試みでもある

麻倉氏:続いて紹介するのはWOWOWが製作した「The WASHOKU 天麩羅」です。昨年のタイトルを見ても分かる通り、日本食をテーマにしたシリーズものになっています。今年の音声は5.1chで、サラウンド音声の8Kで料理を撮るというアイデアがなかなか凄いですね。

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