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次世代放送まであと1年! 活発な動きを見せる8K最前線(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/5 ページ)

» 2017年04月15日 08時00分 公開
[天野透ITmedia]

「8K最前線」としながら最新8Kコンテンツの話が全く出てこなかった前回。後編では、その反省をもとに最新の8Kコンテンツの数々について、AV評論家・麻倉怜士氏の語りでお届けしよう。その内容は中国舞踊、和食、和菓子、そして江ノ電と、いずれも視覚と聴覚を存分に刺激するもの。音と映像が織りなす体験への誘いが、最新技術でもたらされる。

――さて、前回は壮大な前フリというオチがつきましたが、このお話の主役である8Kコンテンツの最新情報はどうなっているのでしょうか

麻倉氏:話の冒頭に少し触れたA-PAB(一般社団法人 放送サービス高度化推進協会)がこの話題の中心です。おさらいをしておきますとA-PABは次世代高精細放送を推進してきたDpaとNexTV-Fという2団体が昨年2月に合併して発足した団体で、4Kあるいは8Kの放送やコンテンツに関して、さまざまな活動や情報発信を行っています。

 また、8Kの世界を強力に推進してきたNHKですが、こちらは8Kならではのハイエンドコンテンツを作るというのが次世代放送へ人々を誘う重要なきっかけとなるとしています。では一般民間放送(民放)はどうでしょう? 答えは「4Kはやるが8Kはやらない」です。

――8Kはいろいろな意味でお金がかかりますから、商業ベースの民放としてはなかなか手を出しにくいんでしょうねぇ……。従来のテレビ放送の固定概念を覆せば、やり方は充分にありそうな気はしますが。

麻倉氏:そういう状況ではありますが、2018年12月には“もう1つの次世代放送”である4K実用放送が開始するので、高精細映像を2Kと違う(あるいは同じ)考え方でどう作るかを、これからしっかり詰める必要があります。そこでA-PABがNex-TV F時代からやっていた検証用コンテンツ番組というものがとても参考になるのです。過去数年間、総務省の予算を使って1社あたり数百万円程の補助金を出し、機材も提供してコンテンツ制作をしてもらい、次世代映像の作り方に関する考え方を養ってもらう、あるいはノウハウを積んでもらうという実験をしていました。検証用コンテンツ番組はその研究発表成果です。

――大学教授が科研費と呼ばれる国家予算で本を書いたりするのと同じ要領ですね。日本の放送技術は世界を席巻するほどの影響力があるので、こういった研究開発は国家戦の面で見ても極めて重要です

麻倉氏:その研究成果ですが、例えば2015年度には多様なジャンルの面々が制作されました。日テレの「笑点 8Kスペシャル」、WOWOWの「The WASHOKU “すき焼き”」、東北新社「自衛隊観艦式 〜相模湾の航跡〜」、読売テレビ「今、若冲を観よ 〜細かき処に神が宿る〜」、電通の超精密アニメ「LOOP JAPAN」、イマジカ「8K 4×4Kテニス」、J:COM「Dance!華麗なる世界 〜統一全日本ダンス選手権〜」、NHKエンタープライズ「神が宿る島〜宗像沖ノ島」、博報堂DYメディアパートナーズ「日本美〜壇蜜、増上寺で舞う〜」です。 

 一昨年までは8K体験ということだったのですが、放送が近付いた2016年度は考え方が少し変わっており、より実用的なワークフローや新しい撮影あるいは編集などの提案を選考条件の主体としています。この枠組で2015年度に8K制作を行ったのは、日テレ、WOWOW、J-COM、電通で、あとは4K制作でした。今年の大きなトピックは前回と違って地方局が入ってきたこと。名古屋テレビ放送(メーテレ)「8Kダンス」、福岡放送「有田焼」、石川テレビ放送「金沢箔」という番組がラインアップされています。

名古屋テレビ放送(メーテレ)の「8Kダンス」、福岡放送「有田焼」、石川テレビ放送「金沢箔」と、今年は地域色豊かな8K映像がそろった

――大掛かりになりがちな8K制作が地方局でも行われたというのは大きなトピックです。今までよりも地域色豊かな番組内容が期待できますね。

麻倉氏:フォーマットの内訳ですが、8Kは12コンテンツ、4Kは11コンテンツとなっています。ここでもう1つ注目のトピックとして挙げたいのが東北新社の「へべれけレシピ」。これはなんとiPhoneなどの超小型カメラでの4K撮影に挑戦したというもので、意外や意外、これがなかなかにきれいなんです。

――iPhoneで4K番組とは、またチャレンジしましたね。家庭用ハンディカムで世界中を駆けずり回る「水曜どうでしょう」なんていう人気番組もありますが、それよりもさらにカジュアルです

麻倉氏:内容としてはスタジオでレシピを披露しながら酒の肴を作るというもので、キッチン台のステンレスの輝きやビール瓶の光り方といった光の表現が意外と目を見張るものがありました。ただしiPhoneの限界として、フレームレートは30pで動きの滑らかさにはいま1つ。ですが解像感や色あるいは光はなかなかのもので、SDR制作にも関わらず光のトビも案外に少なかったです。

麻倉氏:さて、いよいよここからは特徴的な8Kタイトルの紹介をしていきましょう。

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