毎年、春に開催される「Global Press Conference」(GPC)は、電機事業に関わるプレスには重要なイベントとして定着してきた。このイベントは世界最大級のエレクトロニクス見本市として知られる「IFA」を主催するメッセ・ベルリンが開催しているテクノロジーと市場トレンドを追いかけるミーティングで、調査会社のgfkおよびgfu(ドイツ工業会)の協力を得て実現されている。
毎年多くの国からプレスが集まるが、今年も50カ国以上から300人が集まった。エレクトロニクス業界の集まりと異なるのは参加する国数が極めて多いことだろう。アフリカ、中南米、中東からアジア、それに欧州の小国や東欧諸国にかけて、普段はあまり話をすることがないような地域で活動するジャーナリストとも交流が生まれる。
そこには日本からは見えていないトレンドも隠れており、gfk、gfuが提供するデータとともに、グローバル市場の動きを感じることができるイベントだ。
加えて今年は9月1日からの開催が予定されている「IFA」主催者が、新たな会場構成や出展社の傾向なども紹介。それらの状況からも製品ジャンルごとの勢いが見えてくるから面白い。
メッセ・ベルリンCEO、Christian Goke氏は、今年のIFAはスタートアップ企業と先端技術の展示が目立つことになるだろうと話している。IFAはスタートアップ企業に対し、同じブースを6日間に渡る開催期間で分割して販売している。つまり、初日はA社、2日目はB社といった展示スタイルもあり、それによって価格を下げてスタートアップ企業が業界の中に入ってきやすい環境を作っている。
一方、先端技術に関しては1つのホール(26番ホール)をまるまる「IFA NEXT」と銘打つホールとして設計。この中に研究学術機関や特定要素技術にフォーカスしたテクノロジスタートアップなどを集め、ワンストップでIFAに集まる電機関連の先端技術を一望できるようになるそうだ。
こうした展示会の”チューニング”が行われる背景には、スマートフォンイノベーションの”一段落”がある。スマートフォン登場によってエレクトロニクス業界はその形を大きく変えたが、その先にあるのは新たな市場環境を基礎に新しいイノベーションを狙う企業の増加であり、90年代に潰れかけたアップルの逆襲を支えた新技術の発見や次世代のアップルを狙うスタートアップたちはどこかにいるのか? と興味をひき始めている。
もっとも、今回のGPCに関しては別の部分に着目した。
スマートフォンイノベーションが落ち着いたことで、次の波に乗ろうと先端技術やスタートアップにも注目は集まっているが、一方で”レガシー”な市場も健全性が高まってきているようだ。破壊的イノベーションで市場が荒廃したデジタル家電の世界だが、イノベーションが落ち着き、スマートフォンによる影響の範囲と大きさが見えてきたことで、レガシーなデジタル家電市場が下げ止まり、むしろ根強く収益性のある市場として再注目されているというgfuの報告だった。
スマートフォンやクラウドといった新しい市場を形成する企業からは「旧世代製品の代表」と見なされることも多いテレビだが、実は欧米における1世帯あたりのテレビは増加を続けており、平均単価の下落も下げ止まったことで、以前ほどではないものの回復基調なのだという。
これはテレビ買い替え需要の波が戻りつつある上、2020年にオリンピックを控える日本市場でも近い将来、起こり得るシナリオであろう。
テレビ市場が堅調であるという市場データがgfuから示されたとき、アメリカ人の記者が冗談交じりにこう質問した。
「テレビはまだ主役だって? いやいや、値段も落ちてるし、どんどん売れなくなってる。テレビを観る時間だって短くなってるじゃないか。もちろん、家庭の中には必ずあるよね。でも、どんなテレビを使っているかなんて誰も注意を払ってないし、どんどんネットでの視聴に切り替わっているから、PCやタブレット、スマートフォンに取って代わられるよ。そのあたり予想しているのに”レガシー”デバイスにカンファレンスの時間を割くのかい?」
gfuのチェアマン、Hans-Joachim Kamp氏は、「テレビは確かにレガシーだね。しかし、レガシー市場はいまだに大きい。スマートフォンを除けば、家庭で使われる電機製品の中でもっとも大きな金額が動く。そしてその傾向は今後も変わらないだろう。視聴時間が短くなっても、テレビが不要という議論にはならないからだ。その証拠に欧州の一部では1世帯あたりのテレビ保有台数は増えている」と話した。
このやり取りを聞いてどう思うだろうか?
実はこの噛み合わない議論は、スマートフォンによるイノベーションについて詳しい人ほど陥りやすい誤解を、アメリカ人記者がしているために起きたものだ。
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