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「もうテレビは売れない」という勘違い(2/2 ページ)

» 2017年05月14日 18時02分 公開
[本田雅一ITmedia]
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なぜテレビ市場は健全といえるのか?

 もっとも、こうした見方は特別なものではない。

 gfkによるとコンシューマー向けエレクトロニクス製品の市場は頭打ちで、スマートフォンによるイノベーションが起きてから8年目、電機市場も落ち着き始めた2015年に9480億ドルに成長してからは、2016年が9490億ドルに微増しているが、今年は9450億ドルと予想されている。

コンシューマー向けエレクトロニクスの市場規模(出典はgfk)

 スマートフォンは頭打ちとはいえ、まだ新興市場で伸びる余力がある。さらにはスマートフォンの周辺にある新ジャンル(スマホを使ったVRや、スマホ連携する多種多様のIoTデバイス、ウエアラブルデバイスなど)も増加する。すなわち、ほとんど市場サイズが変化していない中ではレガシージャンルの製品は市場が小さくなっていく。

 ちなみにgfkの予測では2018年の家電市場は9540億ドル。新興国は伸びるものの、欧州や米国需要が減り、成長はインドと東欧諸国が主役になるとの見立てである。中国も成長はするが、今後は主役から外れるとの予想だ。

 もっとも市場サイズの増分は新ジャンルの製品ばかりで、レガシー製品全体ではやはりマイナスが予想されているが、テレビだけは例外なのだそうだ。

 なぜなら、確かに”テレビ”を見る人たちは減少を続けているものの、映像コンテンツの消費時間はさほど減っていないからだ。電波による放送は見ていなくとも、「NETFLIX」や「Amazon Video」などネットによる映像視聴時間は増え続けている。

 日本では馴染みがないが、実はアジアでは「iFLIX」という映像配信サービスが急伸している。これは簡単にいえばNETFLIXの”アジア版パクリサービス”なのだが、NETFLIXとは異なるハリウッド映画スタジオもコンテンツ供給面で支援している。もともとDVDやBlu-rayが売れていなかった地域なので、ネット配信でハリウッド映画に親しんでもらい、劇場公開映画や米国製ドラマのファン層を広げようという意図があるためだ。

 iFLIXはNETFLIXのように米国市場を持たないだけでなく、日本や欧州といった米国外の主要市場でも展開していないため、本国の市場を荒らされる心配もないから組みやすいのだろう。ということで多くのハリウッドコンテンツ+アジア各国のローカルコンテンツというラインアップでアジアを制圧しつつある(本社はマレーシア)。

 アジア諸国で人気のあるジャンルならば自主制作番組にも投資しており、国ごとに異なる好みに応じた番組選びをすることで、米大手映像配信サービスよりも有利にビジネスを進めているのだ。彼らは今年、中東やインドといった地域にもサービス地域を広げる予定である。

 このように各地域に根差す形でネットを用いた映像配信サービスが展開し、スマートフォン、PC、タブレットなどで観ている映像を、ゆったりとした場で大画面で楽しむ手段としてテレビが再び買われ、あるいは置かれる部屋が増えているのだという。

放送コンテンツが乏しかった地域ほど伸びる

 とはいうものの、テレビの販売台数が急増するわけではない。北米、西ヨーロッパの伸びは期待されていない。主に伸びるのはアジア、南アメリカ、そして東欧である。こうした国はローカル放送局のコンテンツ制作力が低く、海外の番組を購入して放送することが多かったが、ネット配信で自由に好きな番組を選べるようになり、選べるコンテンツの幅がグッと拡がったことで、それらをPCやタブレットではなく、テレビで観たいというニーズが生まれてきたのだ。

 ネット配信の場合、自分の好きなデバイスで映像を楽しめることが大きな利点の1つになっているが、スマートフォンで見始めたドラマであっても、自宅にいる時はより大きな画面で観たいと考えるものだ。視聴時間という意味では、確かにスマートフォンやタブレットに奪われているかもしれないが、そこで出会ったコンテンツを大画面でリラックスして観たいと思ったときはテレビの方が都合がいい。

 将来、”大画面のテレビで映像を楽しみたい”という発想をまったく持たない世代が、世帯主の主流になっていくことももちろんあるだろう。しかし、少なくともここ数年の間ではなく、世帯単位で考えてテレビで映像を楽しみたいという人がいる限り、少なくとも1台以上……さらに各個人が別々の映像をビデオオンデマンドで観られる時代と考えれば複数台、テレビが導入されるチャンスが出てくる。

 視聴時間が3割減ったからといって、テレビはケーキのように70%の大きさにカットして購入できるわけではない。必ず1台単位で購入するわけで、映像作品に触れる機会が増えた消費者が、テレビを再び買い始めるというシナリオには、それなりの説得感がある。

 もちろん、日本市場となると話は変わってくるが、少なくともネット配信でテレビ以外の機器に視聴時間が奪われることで、受像機がどんどん売れなくなるという予想が的外れであることは間違いなさそうだ。

意外と足元に宝があるのでは?

 さて、gfuのテレビ市場が健全であるという主張に着目したからというわけではないが、個人的にも、ここ数年はレガシーデバイスの健闘が続くのではないか? という印象を持っている。

 ソニーのエレクトロニクス事業が持ち直している一方、スマートフォンの伸び悩みやタブレット端末の存在感低下などが示しているように、スマートフォンによるイノベーション、市場ルールの変化はいったん落ち着き、市場の形は定まった。

 そうした中でメーカー数は減り、また価格下落もある程度、落ち着き始めている。一方でレガシーの家電製品も、ネットワークにつながることで新たな価値が見いだされることが多くなっている。

 足元、手元にある商品が技術を、今の安定したエレクトロニクス市場に最適化できれば、爆発的ではなくとも持続的な収益事業になるだろう。レガシーはレガシーでも、最新の市場環境に合わせ込むことができれば、世帯普及率が高いだけに、そこには”足元にこそ宝”といえるものが埋蔵されているかもしれない。

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