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有機ELテレビにまつわる4つの“なぜ”

» 2017年05月11日 17時12分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 家電メーカーから有機ELテレビの発表が相次いでいます。3月に東芝映像ソリューションが発売した「X910」シリーズを皮切りに、6月にはソニー「A1」シリーズとパナソニック「EZ1000」および「EZ950」シリーズが店頭に並ぶことになりました。LGエレクトロニクスだけは以前から有機ELテレビを販売していましたが、国内メーカーが相次いで参入したことで今年は“有機ELテレビ普及元年”となるかもしれません。

ソニーの「65A1」

なぜ各社から一斉に有機ELテレビが登場したのか

 なぜ、今年の春に有機ELテレビの発表が集中したのでしょうか。それは現時点でテレビ用の大型有機ELパネルを供給している会社が韓国のLGディスプレイ1社であることに起因しています。

 以前は生産効率が悪く、グループ会社のLGエレクトロニクスにしか供給できていませんでした。それを改善して外販を開始したのが1〜2年前で、パナソニックは2016年から欧州などでLGディスプレイ製パネルを搭載した有機ELテレビを販売しています。さらに今年はほかの地域に展開できるほど供給量が増える見通しが立ったため、1月に米国ラスベガスで開催された世界最大の家電ショー「CES 2017」ではソニーやパナソニックが日本市場も視野に入れた有機ELテレビを披露。その製品が最近、日本国内でも発表されているのです。

パナソニックがCES 2017の会場に展示した「EZ1000」

なぜ有機ELが注目されているのか

 では、日本のテレビメーカーはなぜ有機ELパネルを採用したのでしょうか。理由は主に“画質”です。有機ELはプラズマテレビなどと同様、画素そのものが光を出す“自発光”タイプなので、例えばある画素をオフにすれば完全な黒を再現できます。LG製の有機ELパネルは白色の有機ELとカラーフィルターを組み合わせたもので、完全な“自発光”とは言い切れないかもしれません。それでも画素の明るさを個々に調節できるのは大きなメリット。バックライトの光を透過している液晶テレビには真似できません。

東芝の「X910」

 有機ELテレビにも弱点はあります。それは明るさ。今のところ高効率のLEDバックライトを持つ液晶テレビにかないません。Ultra HD Blu-rayなど最近のHDR(ハイダイナミックレンジ)コンテンツでは今までより明るいシーンも多くなっており、そうした部分の迫力では液晶テレビに軍配が上がります(ただしHDR対応の上位機に限る)。また、日が差し込む明るいリビングルームなどで有機ELテレビを見ると、画面を暗く感じてしまう可能性もあるでしょう。

 それでも、明かりを落とした室内で映画など作り込まれた映像を鑑賞するのであれば、階調性に優れた有機ELテレビは最適です。映画好きの人たち、画質にこだわる人たちは自発光パネルだったプラズマテレビを使っているケースも多く、同じ自発光タイプの有機ELテレビに注目しています。

LGエレクトロニクス「W7P」シリーズ。壁掛け設置が前提の有機ELテレビで、本体だけを真横から見ると“ほぼ線”。壁に掛けるというより、貼(は)るといったほうが適切に思える

 もう1つの大きな理由はデザイン性の向上です。バックライトが不要でテレビ自体を薄くできるため、今までにない未来的なデザインのテレビが登場しています。例えばLGエレクトロニクスはスタンドが付属しない“壁掛け前提”の「W7P」シリーズを発売しました。今後は大画面でも場所はとらない、スタイリッシュなテレビが増えてくるかもしれません。

液晶テレビと比べて省エネなのか?

 各製品のスペック表をチェックすると、消費電力は現在の液晶テレビに比べると全体的に高めでした。機能モリモリの最上位モデルばかりであることを差し引いても液晶テレビより電力消費は大きいようです(表参照)。

メーカー LGエレ 東芝 ソニー パナソニック パナソニック(参考)
型番 OLED65W7P 65X910 55X910 KJ-65A1 KJ-55A1 TH-65EZ1000 TH-65EZ950 TH-55EZ950 TH-55DX850(液晶)
画面サイズ 65V型 65V型 55V型 65V型 55V型 65V型 65V型 55V型 55V型
消費電力 520W 533W 406W 490W 370W 518W 518W 386W 241W
年間消費電力量(※) 335kWh/年 260kWh/年 225kWh/年 234kWh/年 226kWh/年 258kWh/年 258kWh/年 210kWh/年 169kWh/年

※参考値

 ただ、買い替え期にさしかかった10年前のテレビと比較すると状況は異なります。例えば、2007年に発売されたパイオニアのプラズマテレビ“KURO”「PDP-6010HD」(60V型)は消費電力が538W、年間消費電力量(標準モード時)は535kWh/年でした。仮にこの機種を使っている人が65V型の有機ELテレビに買い替えたとすると、どの機種を選んでも“画面が大きくなって、省エネにもなる”ようです。

 なお、年間消費電力量についてはユーザー個々の使い方によって大きく変わりますし、有機ELテレビについては省エネ法に基づく年間消費電力量が定義されていないため、表はすべて液晶テレビの基準で算出した参考値となっていました。

価格が高い?

 各社の実売想定価格を見ると、かなり高価。量販店の目玉商品になっている大型テレビと比べると1桁違います。冒頭で触れたようにパネルの供給元がまだ1社のため、液晶パネルのように潤沢でもなければ競争もないので仕方のないところでしょう。現在の有機ELテレビは、“映像にこだわる層”に向けた製品であることは間違いありません。

 新製品の中で最も手頃なのはソニーとパナソニックの55V型で、実売想定価格は50万円前後。懐かしい「インチ1万円を切った」というフレーズが頭に浮かんだ方もいると思いますが、2社が横並びになったこと、そして65V型との価格差を考えると、戦略的に価格を抑えた印象も受けます。後発の2社がそうした価格を提示したので、先に発売した東芝製品の値動きにも注目したほうが良いでしょう。

メーカー LGエレ 東芝 ソニー パナソニック
型番 OLED65W7P 65X910 55X910 KJ-65A1 KJ-55A1 TH-65EZ1000 TH-65EZ950 TH-55EZ950
画面サイズ 65V型 65V型 55V型 65V型 55V型 65V型 65V型 55V型
実売想定価格 100万円前後 90万円前後 70万円前後 80万円前後 50万円前後 90万円前後 80万円前後 50万円前後

 1つ気になるのは有機ELパネルの供給元が限られているため、「値下がりのペースは遅いのではないか」と予想しているメーカー関係者や販売店が多いことです。ほかのテレビほど値引きも期待できないのかもしれませんが、いずれにしても6月までには4社の有機ELテレビが店頭にそろうことになります。興味のある方はぜひチェックしてください。

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