井村屋の「あずきバー」は、自然なおいしさで年間2億5000万本以上を販売する、まさに国民的なアイスだ。一方で、その固さは有名。一部では“世界一固いアイス”といわれている。そのあずきバーを、あえて“削る”ことに挑戦した無謀な玩具メーカーがあった。
あずきバーは、ぜんざいと同じ材料だけを使い、アイスを柔らかくする添加剤を一切使用していない。しかも食物繊維たっぷりの小豆をぎっしりと詰め込んでおり、空気の泡が少ないためにさらに固くなる。「わざと固くしたわけではなく、おいしさを追求した結果、固くなった」(井村屋)
“固い”よりむしろ“硬い”と書いたほうが適切に思えるほど固いあずきバー。そのあずきバーをあえて削り、ふわふわのかき氷にすることに挑戦したのがタカラトミーアーツだった。同社は市販のお菓子に手を加えて楽しむクッキングトイ「おかしなシリーズ」を展開しており、「おかしなカキ氷 ガリガリ君」などアイスをかき氷にする玩具でも実績がある。しかし、あずきバーの固さは格が違った。
プロジェクトがスタートしたのは2016年9月。
安全面やコストなどを考慮しながら、数カ月間の構想の後に試作1号機が完成した。
あずきバーを2本の強力なバネで固定し、プラスチックの刃を動かして削る構造。2人掛かりでないとあずきバーをセットできないという課題もあったが、それ以前の問題もあった。始めはあずきバーを削れるのだが、途中でバネの力が不足し、半分ほどまでしか到達できない。結局、社内検証でもうまく削ることができず、構造から見直しを迫られることになった。
タカラトミーアーツの開発陣は悩む。刃を固定してあずきバーを回すか、あずきバーを固定して刃を回すか。
悩んだ末、後者を選択した。2号機は、上部のハンドルを回すと連動したギアがあずきバーを下へ押し込みながら刃を回すことで削る仕組み。しかしハンドルが重く、回すと支柱になっているラックギアが“しなる”ほど力がかかってしまう。
一度は試作機を井村屋に持ち込むところまでこぎつけた。しかし、なんと井村屋の担当者の目の前で、ハンドルが破損する事態に。その後、修理するもあずきバーを削る前に再び壊れた。
プレゼンの場で味わった屈辱。しかし、ハンドルは折れても心は折れていなかった。
3号機は「サイドハンドルタイプ」と呼ばれるものだ。その名の通り、昔のかき氷器のように側面にハンドルを設け、あずきバーの回転に対する負荷を軽減するはずだったが、2号機以上にハンドルが重くなってしまい、回すことができずに断念。
4号機では刃を増やした。3枚の刃により、一度の回転であずきバーをたくさん削ろうと欲ばった結果、逆に抵抗が増えてしまい失敗。ハンドルが重く、回すことすらできなかった。
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