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「世界よ、これが日本のブランドだ!」――麻倉怜士のIFAリポート2017(後編)(2/4 ページ)

» 2017年10月20日 16時28分 公開
[天野透ITmedia]

――ソニーのその他のジャンルはどうでしたか?

麻倉氏:製品レベルではウォークマン「NW-ZX300」に感心しました。私とも浅からぬ縁のあるハイレゾウォークマンですが、2016年に出てきたハイエンドモデル「NW-WM1」がもう圧倒的に良いですね。特に無酸素銅シャーシの「NW-WM1Z」は物量投入で、テクノロジーも使いこなしもリファレンスです。余談ですが、毎年7月に開かれるカーサウンドコンテスト、昔はパイオニアの音源機器が幅を利かせていたのですが、最近はポータブル機がほとんどです。その中でもプレーヤーはNW-WM1Zが圧倒的に多いです。

高級ウォークマン“ZXシリーズ”の最新作「NW-ZX300」。クッキリ系だった従来機「NW-ZX100」からは音の傾向が変わり、麻倉氏は「音への考え方がワンステップ上がった」と評した

麻倉氏:そんなウォークマンのプレミアムラインですが、新機種はハイレゾウォークマンとしてかなり人気のあった「ZX100」の後継機です。が、会場で比較試聴をするとこれがもうぜんぜん違う音を鳴らしていました。ZX100はハイレゾの良さがあり、メリハリと押し出しの効いたハッキリクッキリの音像が出ていました。一方NW-ZX300は音像より音場という感じで像の間に響きのつながりがあり、とても本格的なサウンドです。

 個々の音が強調されるというよりも、音楽としての全体像があり、その中に各パートの響きがあります。クラシック音楽でも充分に“音を描ける”高い品位で、これもソニーのクオリティーアップの象徴ですね。

――確かにあの音はとても“雰囲気が良い”ものでした。細かい音が聞こえるとか低音が大きいとかいう次元とは明らかに違う、良い音で良い音楽を聞いた時に呼び起こされるワクワク感と言いましょうか、そんな“感性に触れるもの”をキチンと再現していたように思います。「僕が聞きたいものはコレだ!」という感じでした。

麻倉氏:近年のハイレゾで聞かれるようなハッキリクッキリとピントが合った音、というのは誰でも違いが分かるわけです。音楽としてはそこでとどまっていてはダメで、その先にある階調や細かな粒子感、立体性などがより深い世界を表現するのに重要なのです。輪郭だけで音を強調するのではなく、音の全体像を緻密に描き出すことで、より立体的になるのです。

 NW-ZX300はこういうことをとても上手くやっていて、音作りの傾向というか、音への考え方というか、そういうものがワンステップ上がりました。もちろんそのために技術的なことを様々やったわけですが、そのかいもあって、ハイレゾウォークマンとしての、音楽的な再生に向けての着実なステップアップを果たしました。これも最近のソニーの元気良さの証明です。

有機ELで評価を上げたパナソニック

麻倉氏:次はパナソニックに話題を移しましょう。IFAやCESでは、毎回その時のテレビ事業部長に話を聞き、最新状況はもちろん、定点観測による推移も見ています。パナソニックのヨーロッパビジネスで印象深かったのは“プラズマをやめた後遺症”です。液晶に変わった時に画質の継続が難しく、雑誌の評価がガタッと下がりました。

 その要因はプラズマと比較してコントラストが落ちたことです。しかも当時IPSしか無かったパナソニックに対し、サムスンがVAキャンペーンを展開してコントラストの優位性をアピールしていました。これによりパナソニックのテレビに対するブランドイメージが落ちていったのです。

 状況が一変したのは2015年のこと。LGディスプレイの第1世代パネルを使ったカーブド有機ELテレビを日本ブランドとして初めて市場に投入し、これで「パナソニック=プラズマ」と思っていたユーザーや評論家などへリカバリーをかけました。「パナソニックは自発光でいく」という強力なメッセージを市場に向けて発信したのです。

国内外で高画質有機ELテレビの地位を確固たるものとしたパナソニック。今年の一手は透明なアクリル塊を使ったオブジェだ
有機EL以外では、新規格「HDR 10+」が大きなトピック。厳格な規格を要求するULTRA HD PREMIUMよりも、より幅広いテレビの画質向上が狙い

――当時は「早く日本でも出してくれ」という声があちこちから聞かれましたね。ですがパナソニックはここで慌てることなく、日本市場に投入する製品は暗部階調ノイズが改善された第2世代パネルの登場まで、じっくりと画作りを熟成させていました。そのおかげもあって、パナソニックの有機ELテレビは高い評価を得ています

メタデータを活用したDレンジ制御技術が中核。画像は左がHDR 10+対応で、右が非対応

麻倉氏:これにより有機ELに関して、パナソニックの経験は他社より先んじることになりました。なおかつプラズマで自発光に取り組み続けてきた歴史もあり、画としての完成度が非常に高いです。

 以前取り上げましたが、日本で出ている各社の有機ELテレビを比較すると、パナソニックはバランス感覚が非常に優れています。ソニーはハッキリクッキリで押し出す「ソニーらしい強靭(きょうじん)な画」なのに対して、パナソニックは「大人な画」です。バランスが良く、リビングルームに適した明るさとコントラストに仕上げており、画作りの塩梅が優れています。77型が出ることで、自発光としてのパナソニックの画作りがさらに磨かれていると感じました。特に4K/HDRコンテンツを、有機ELで再生するときに出やすい、LGディスプレイパネルのクセ(ノイズ感、階調感)を減少させているのに感心しました。

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