ITmedia NEWS >
連載
» 2017年10月20日 16時28分 公開

「世界よ、これが日本のブランドだ!」――麻倉怜士のIFAリポート2017(後編) (4/4)

[天野透,ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

有機ELテレビの最新トレンド

――ところでここまで各メーカーの話が中心でしたが、例年であれば真っ先に話題に上がりそうなテレビ業界全体の話が今年はまだですね。有機ELテレビの今などは非常に興味をそそられるところですが、IFAにおけるテレビのトレンドはどうだったでしょうか?

麻倉氏:実際のところ有機ELテレビはパネル供給がLGディスプレイの独占状態ですから、“LGディスプレイが新世代を出せば情勢が動く”という実にシンプルな状況です。第2世代パネルを使った現行モデルは、各社とも55、65インチをメインに置いていて、77インチモデルは数百万円となかなかに高価です。なので「ラインアップは一応置くが……」という対応ですね。

 来年になればLGディスプレイが第3世代を出すという情報も聞いているので、商品作りが繰り広げられている開発現場では、おそらく新世代のサンプルが入っていているはずです。これがパネルの種類が増えるとセットメーカーの選択肢も増え、違う切り口が出てくるでしょう。というわけで私としては、LGだけに頼らず、パネルメーカーがどんどん有機ELパネルを出してくることを期待したいです。特に日本のJOLEDの印刷有機ELは大いに楽しみです。

 さて、有機ELでは液晶と違って曲げられる/透明といった特徴があり、昨年はこの点をアピールする提案がいくつか見られました。ですが今年はこの手の提案が少なかったように思います。モノとしてはパナソニックが昨年に引き続いて、キッチンでの有機ELの活用を提案をしていたくらいでしょうか。

 これに対して今年の提案は“デザインコンシャス”。テレビはここ数年、薄い、狭額を極めて、窓のようになるという流れがありました。モノとしての価値ではなく住宅部材のような機能性に特化した扱いです。デザインへの傾倒という今年の現象はこれに逆行した、テレビというモノそのものの価値を追求しようとした動きですね。

 有機ELテレビに熱心に取り組んでいるドイツメーカーのLoewe(ロェヴェ)を具体例に挙げましょう。パイプの額や大理石のスタンドを採用したデザインコンセプトを発表し、単に有機ELというだけでなく、ブランドなりのデザインの付加価値で他社との差別化を図ってきました。欧州の家庭に置く、インテリア・オブジェとしての切り口です。

 Loeweは元々デザインコンシャスなブランドで、デザイン的な価値、存在感が求められるヨーロッパ市場において、これまでもずっとデザインの重要性を訴えていました。私も長年注目をしてきたのですが、今年はブランドの方向性と市場のトレンドが合致し、良い存在感を発揮していたように思います。

天然オーク材を使った有機ELテレビ「Loewe 5」。インテリアとして、置いておくだけで絵になるデザインを強く意識している

――機能に留まらず、いかに生活を彩るか。かつての貴族文化が今も精神性に息づく、ヨーロッパという土地が生んだ企業文化ですね

角材の金属フレームに、スピーカー部はファブリックカバーという「Loewe 9」のデザイン。なお、フレームは画像のフロアスタイル以外にも、テーブルとウォールの計3種類から選べる
技術に魂を。買い物の最終目的は、モノではなく体験だ

麻倉氏:その他では4月のリスボン・グローバルプレスカンファレンス(GPC)で発表された、サムスンのフレームテレビを挙げましょう。液晶のフレームを付け替え、白木のような額縁や油絵に使われるような装飾のものなどで飾ったテレビです。そこに絵画や写真を映すことで、美術館にかけられているような雰囲気が出ます。さらに人感センサーを付けて、人を検知したら明るく、離れたら暗くといった機能性をプラス。まるで壁にかけた絵画のようなテレビです。

 この“テレビを動くキャンバスに”という考えはこれまでにもありましたが、今年のサムスンはより徹底させて、オプションもきっちり作ってきました。DIY的な切り口でテレビを作っており、これもデザインコンシャスな方向の表れです。

――サムスンブースでは美術館的な雰囲気のコーナーを作ってフレームテレビを飾り、結構ムードを出していましたね

麻倉氏:もっとも、サムスンにはこの方向に進まざるをえない特殊事情があります。3原色有機ELパネルの開発を諦めた現在のサムスンの液晶テレビブランドは、中核技術を量子ドット(QD)に託し、OLEDに対抗して「QLED」とミスリードを誘うようなブランド名を付けています。GPCでもテレビの使い方に新たな提案を呼びかけ、「画質論議は過去のもの」としていました

――GPC報告の回でも話題に上がりましたが、画質では有機ELに勝てないため「そもそもの土俵を変えてしまおう」という戦略でしたね

麻倉氏:今回の展示では、デザイン性を上げるためにワイヤリングに光ファイバーを使い、機器の全信号を通していました。ちなみに最近ワイヤリングは隠すのが業界のトレンド。ソニーやLoeweなどでも、信号線は脚の後ろなどに持ってきています。こうすることで“テレビテレビした悪い存在感”を抑えてられるのです。

サムスンのプレスカンファレンス会場で展示されていたアートテレビのコンセプト(蝶の画像を表示しているもの)
こちらはIFA会場のサムスンブースでの展示。4K HDRを始めとした高画質を手に入れたことで、テレビは絵画鑑賞にも耐えるようになった
ところで4月にリスボンで開かれたグローバルカンファレンスでは、テレビの画質論議を「時代遅れ」と切り捨てたサムスンだったが……
4カ月後のプレスカンファレンスでは、パナソニック、20世紀フォックスと一緒にHDR 10+を発表。どうやら論議はせずとも、画質向上は目指していくようだ

 その他にデザイン性の高いテレビを語るならば、フィリップスのアンビライトですね。テレビの背面にLEDを配して画面の浮遊効果を狙ったテレビ技術ですが、今年の展示ではスマホで操作できる電球「Hue」との連動で、部屋全体をアンビライト化していました。美しく絵を見せるだけではなく、テレビそのものが上質な生活のための部材になりつつあるのだなと感じた次第です。

――この観点は日本メーカーにもっと求めていきたい部分ですね。物質的・技術的に豊かになるだけでなく、デザインや佇まいなどの精神面でも生活を豊かにしてもらいたいものです

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.