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シャープ復活の「IFA 2017」 強いリーダーシップが市場を牽引する(1/4 ページ)

» 2017年10月10日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

 今年も業界の将来を占う「IFA 2017」がメッセベルリンで9月に開催された。毎年、取材を重ねている麻倉怜士氏は今年のトレンドをどう見たのか。メッセベルリンのハイテッカー代表との会談に挑んだ麻倉氏は、これまでの家電ショーというイメージとは違う“新たなIFA”を発見したという。さらに今年は日本のメーカーが不調を脱し、意欲的な提案を次々と発表した。2回に渡るIFA特集、前編はIFAの変容と「特筆に値する」というシャープの8K戦略から、現地の熱を交えつつお伝えする。

毎年恒例の南口IFAモニュメント前で、今年もパチリ

――今年も9月初めにベルリンでIFAが開かれましたが、実に活気がありましたね。何度行っても新しい提案にあふれていると感じます

麻倉氏:いろいろなテーマがありましたが、今年は特に日本のメーカーが活気を取り戻していて、これまでにない新しい提案や価値を見せていました。日本人ジャーナリストとしてとてもうれしかったです。それと同時にIFAの変容と現在の位置付けといったものもよく分かりました。今年はまず、IFAのこれまでとこれからについてお話をしましょう。

 このコーナーでも毎年お伝えをしている通り、ベルリンで開かれるIFAはラスベガスで年初に開かれる「CES」と並ぶ世界の2大エレキショーです。あちらは技術志向を強めており、近年はエレキにとどまらず、自動車を含めた新技術やイノベーションを提案する場という色が鮮明になってきています。その方向性を体現するかのように、言い方もかつての「コンシューマー・エレクトリック・ショー」ではなく、単に「CES」と言ってほしいとしています。エレキに限らない、幅広いジャンルでのイノベーションを紹介する場です。

――これ実は、CESが公式で強く訴えていることなんですよね。IFAをやっている頃に次回CESの予告メールが届きますが、そこには「“International CES”や“コンシューマー・エレクトリック・ショー”といったかつての呼称は使わないでくれ」と注意書きがあります

麻倉氏:昔からCESではまず技術を提示し、その9カ月後のIFAでは技術の証明として製品になる(あるいはならない)という流れがあります。つまりCESは技術ショーで、IFAは商品ショー。これが従来的なCESとIFAの違いです。IFAはタイミング的にも、クリスマス商戦に向けての商談会であり、バイヤーにとっては売れる商品を見つける場で、メーカーにとってはバイヤーを説得する場なのです。

 ところが、昨年あたりから様相が変わってきました。というのも、IFAでも“イノベーション”という技術志向の言葉が急速に頻繁に使われはじめたのです。現在を起点に10年先くらいまでのスパンを考え、どのようなイノベーションが登場し、どのようなターゲットを見据え、どのような商品を入れていくか。というところを真剣に考える空気が醸成され、新市場や新商品を提案する場に、だんだんなってきています。モノを売り買いする市場として、見本市としてはもちろん、これからどのような製品をデザインするか。そのような方向を打ち出してきました。

 こうした流れは2016年からスタートしたOEM、ODMの見本市「Global market」でも見られました。昨年、別会場でやっていたエリアですが、これが今年はエリアを広げ、さらに部品の出展者が集まってきました。これは今までのエンドユーザーだけにとどまらない、ものづくりに対するコミットを示しています。

 加えて、新技術とイノベーションを提案する場の「IFA NEXT」というエリアも新設しました。これまで中国系などのアジア企業が中心だった26号館が、スタートアップやR&D、大学やテック系企業、さらには大手も集めた展示になりました。中央のスペースは日替わりで毎日新しい展示に、周囲はスタートアップやアマゾン、IBMなどの大手が配置されていました。

例年は「アジア館」だった26号館に、今年は新技術やイノベーションを提案する「IFA NEXT」を新設。アプローチにはヒストリカルな写真

――巷で話題のAmazon Alexaを訴求するブースはここにありましたね。今までならばブース自体がもっと違うところにありそうでしたし、何より製品としての「Amazon Echo」だけでなく、AlexaのSDK(開発キット)についての訴求が大々的に見られたのはとても印象的でした。

スタートアップを中心としたIFA NEXTだが、Amazonなどの大企業ブースも。最先端の技術とトレンドを提案する、非常にホットなエリアだ

麻倉氏:そうですね。メッセベルリン代表のハイテッカーさんによると「イノベーションのエネルギーをIFAに注入する」とのこと。これから出てくる技術に対して知見を来場者に与える、そのようなブースがまとまったエリアでした。もちろん従来もスタートアップのブースはありましたが、小さな企業やスタートアップの人たちが各ホールに散らばっていて、なかなか目立てませんでした。

 これを集めることで“スタートアップモール”といったように一覧することができる、ここへ来れば「新しい技術の匂いがかげる」、そのようなIFAの新しいブランディングが表れていました。新たな方向を作るのにとても面白い切り口です。さらに、IFA NEXTに小さなメーカーや技術系の出展を集めることで、逆にメイン会場のビッグブランド化を進めました。メイン会場にはブランドが確立した大企業、これからブランドを作る企業はIFA NEXTと、コンセプトがより分かりやすくなりました。商業的な方向だけでなく、新しい市場や新しい製品を作るという方向にも伸びてきましたね。

――このような構成にすることで、ブランド志向の人も含めて、世界の有名ブランドの製品を見せることも、イノベーションを先見することも可能なんですね

麻倉氏:そう、さまざまなアスペクト、四方八方に広がる市場をクリアに見せ、今の階層化を分かりやすいカタチで展示していました。これはCESにはない新たな切り口でしたね。ハイテッカーさんとの会談で話をした時も「IFAはクリスマス商戦の商談の場から、イノベーションをクリエイトする場に変容しているようにみえます」と感想を述べました。ところがハイデッカーさんは私の意見に対して「いやいや、それだけではない」と待ったをかけたのです。

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