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シャープ復活の「IFA 2017」 強いリーダーシップが市場を牽引する(4/4 ページ)

» 2017年10月10日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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麻倉氏:理由は非常にシンプルで、ホンハイのテリー・ゴウ社長が「8Kでいけ!」という鶴の一声を発したからなのです。実はこれ、アストロデザインとシャープの協業が深く関わっているんです。

 NHKと共同で技術開発をしているアストロデザインはカメラ、レコーダー、編集機とラインアップをそろえており、8K開発において世界のトップを走る会社の1つです。ある日ホンハイが8Kに興味を持って、アストロデザインにコンタクトを取ったのですが、テリー社長はアストロデザインの鈴木社長隣席のもと、ホンハイ幹部を集めた会議で4Kと8Kを比較しました。

 最初は5mくらい離れた距離からの視聴で、これではそんなに大きな違いは出ませんでした。が、ここでアストロデザイン鈴木社長が「いやいや、これは見方がよろしくない。8Kは近づいて見るものですよ」とアドバイス。「2Kが3H、4Kが1.5H、8Kは0.75H」と言われている通り、高さの0.75倍まで視聴距離を近づけました。すると5mの時とはぜんぜん違う、超絶キレイな8Kの世界が広がったわけです。そこでテリー社長はすかさず「ほら、8Kが良いだろう? だからウチは8Kで行くんだ」と宣言したのだとか。

 といったように、ホンハイ・シャープ連合の8K戦略の裏には、非常にシンプルな決断があったわけです。

――さすが、勢いのある会社のトップはやることが違うなぁ……

麻倉氏:一人のリーダーが強力に引っ張る会社というのは、得てして元気なものです。これはさきほどのIFAとCEATECとの差にも通じますね。

シャープの近年のIFA動向。参加できなかった2013年、2014年と、UMCだった2015年、2016年を経て、5年ぶりにベルリンへカムバックを果たした
石田氏との会談の様子。「300万円以上の決済を全て覚えている」という戴社長や、大胆かつ強力な決断力を見せるホンハイグループのテリー・ゴウ社長に驚いたという。ちなみに昔ソニーに在籍していたという石田氏は、麻倉氏とも旧知の仲

 さて、8Kでいくと決めたはいいですが、問題はコンテンツです。来年から日本で始まる“UHD”放送も、ほとんど全てが4Kと言って過言ではありません。なにせ8Kを採用するのはNHKだけですから、多勢に無勢な状況です。日本メーカーだって商売を考えると、8Kが1chだけではなかなか踏み出し辛いわけです。それでもシャープは8Kでいく、エンドトゥーエンドという大方針を打ち出しています。OLEDの8Kはまだ出来ていないので、まずは液晶からの立ち上げです。

 8Kの大容量をどうやって伝送をするか。非圧縮時のビットレートは24Gbpsにもなりますので、パイプも大きな懸案事項です。が、これから5G通信が出てくれば無線伝送で数100Mbpsが現実的になります。放送波を中心とした今のパイプではなく次世代のパイプを考えると、リアルタイム圧縮をかけることで充分に8Kデータをネットで送ることができます。

 こうなればもうネットを媒介にしたコンテンツを作ってしまえばいいのです。4KだってNETFLIXやアマゾンなどが頑張っている一方で、放送はスカパーの繰り返しが多いものしかありませんから、何も放送に囚われる必要はありませんね。それどころかOTTが隆盛している中で放送に限ってしまうと、どうしても日本中心の、悪い意味でドメスティック志向に陥ってしまいます。

 コンテンツはアストロデザインの機器をホンハイが買い上げて、世界中のクリエイターに配ればいい。そんな話が出ているとか出ていないとか。コンテンツとパイプをしっかりと押さえれば、後は自動的に8Kテレビが売れていくでしょう。

――クリエイターだって表現の可能性にひかれて、8Kをやりたい人は山ほど居るわけですからね。むしろ世間一般にその可能性が認知されていない現状では“8Kを見たいユーザー”よりも“8Kを創りたいクリエイター”の方が多いかもしれません。しっかし、というか流石ホンハイ、カネの使い方が違うなぁ……

液晶テレビのコモディティ化による苦い経験を乗り越えたシャープ。「Be Original」を新たな旗印に、独創的であることに対して徹底的にこだわる姿勢を見せる

麻倉氏:このように、今のシャープはグラウンドデザインを描ける会社になりました。ホンハイとしても、従来のEMS(受託製造)を中心とした体制を脱してブランドメーカーになりたいし、世界にイノベーションを広めるメーカーになりたいという野望があります。そういう意味でシャープの持っている技術をうまく使い、グループとして全世界に展開してブランド力を強める方向に踏み出しました。まずテレビは中国向けの民生品から。製造はホンハイの工場を使えばいいわけで、従来から強かった生産力にコンセプト力が加わります。

 こういった新しい提案がシャープから出てきたこと自体に、私は日本ブランドの復活を見ました。従来の延長に新しいものを持ってくるだけではなく、従来にないもので、世界を相手に戦う。そんなものがシャープの発表会で見られました。これは非常に印象深い出来事です。

8KやRoBoHoNはシャープの独自性を最も端的に表す例。特にRoBoHoNは、現地の人々から熱い視線を浴びていた

――後編はソニー、パナソニック、その他テレビ業界の動向やトレンドをお伝えします。お楽しみに!

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