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MQAの音が良い理由 ニューロサイエンスが解き明かした聴覚の“真実”(1/5 ページ)

» 2017年10月31日 14時53分 公開
[天野透ITmedia]

 ワーナーの大型楽曲配信やソニー“ウォークマン”の再生対応などで注目度が急上昇中のハイレゾオーディオフォーマット「MQA」。音が良いのに容量が小さいということで熱い視線を注がれているが、MQAに最初期から注目してきた麻倉怜士氏は「人間の感覚に寄り添う理論にこそ本質がある」と指摘する。MQAの開発者であり、麻倉氏の親友でもあるボブ・スチュアート氏にイギリスで取材し、音の特徴や開発の経緯などを詳しく聞いた。そこには最新の科学によって解明された、人間の驚くべき真実が隠されていた。

MQAの開発者、ボブ・スチュアート氏と麻倉怜士氏。取材をした9月上旬はロンドンの名物音楽祭「BBC Proms」の最終週。麻倉氏は念願だった「Last night of Proms」に“参加”し、スチュアート氏と一緒に「Rule, Britannia!」「Land of Hope and Glory」などを熱唱した。麻倉氏にとって今回の訪英は、ひときわ思い入れ深いものになったという

麻倉氏:今年になってからMQAが快進撃中です。音源は従来インディーズ系コンテンツがメインだったのが、8月末に大手のワーナーが3000タイトルの配信を表明、ユニバーサルやソニーもこれに続く動きを見せており、ソフトサイドが一挙にMQA化するという方向に流れています。

 IFAではLGエレクトロニクスがハイレゾ対応スマホ「V30」にMQA再生機能を導入。ソニーもハイレゾ対応ウォークマンの「NW-ZX300」「NW-A40」にMQA導入を発表し、「WM1シリーズ」もファームウェアアップデートで対応予定です。世界のハイエンドオーディオメーカー、マイテックやマークレビンソン、エソテリックなどでも導入が進んでいます。一昨年くらいから徐々に採用事例が出てきて、今年のIFA前後というタイミングでついに花開きました。

――音は良いけれど少々マイナーな感じのあったMQAですが、ここにきて一気に勢いが出てきた感じがしますね。これからはオーディオにおける台風の目になるのではと予感させます

麻倉氏:この連載でもMQAは何度か取り上げてきましたが、この度ついにイギリスのMQA本社を訪問しました。ロンドンから列車で北へ1時間、ケンブリッジ郊外のハンティントンという街にある、メリディアンオーディオと同じ社屋にオフィスを構えています。そこで開発者のボブ・スチュアートさんに話を聞きました。

 ボブさんとはこれまでにも何度も話をしていますが、MQAの最初の発想から今日に至るまでをきっちりと全容を聞いたのは初めてです。ということで今回はMQAの試聴も含め、どんな内容の技術なのかを、ボブさんへのインタビューに基づいてお話しようと思います。

MQAのオフィスが入る、メリディアンオーディオ本社ファクトリーにて。ロンドンから西海岸本線でおよそ1時間、ケンブリッジ郊外のハンティントンという町が、最新鋭オーディオフォーマットの開発現場だ
同じ社屋に入居しているが、メリディアンオーディオとMQAは別法人。そのためメリディアンオーディオの従業員は、MQAのオフィスにアクセスすることはできないようになっている

麻倉氏:まずMQAはいつ聞いても自然で生々しい、音楽的な環境にあふれた音で、本当に驚かされます。今回の本社取材では、MQAのエンコーダー/デコーダーを追い込む特別な試聴室で聞きました。システムはメリディアン「ULTRA DAC」と、ウーファー用パワーアンプ、プリアンプで鳴らす、アクティブウーファーとパッシブスピーカーの組み合わせというもので、1991年のものをパワーアップさせた周波数帯域までしっかりと聞き分けられるものです。

 最初に聴いたのはピアノでした。曲名は分からないですが、192kHz/24bitのPCMと比較してMQA(おそらく44kHz対応のデータ量)はハンマーが叩いた弦の振動が響板を通じて部屋に満ちていくという、響きの生成・解放の過程が目で見えるように感じられました。ペダルワークの有無でもぜんぜん違い、ペダルを踏んだときの倍音が非常に重層的で、波打つような倍音が出てきました。低音の力強さ、ガチッとした安定感・ピッチ感がすごかったです。それに比べてPCMは少々浅くドライでした。MQAで感じた、時間に沿って動くような細かい響きの数・文(あや)が少なく、響きの量自体も少ないように感じました。目の前でピアノが奏でられているのを体感するような現場感と、低音の持続といった特徴的なサウンドがMQAでは聞かれました。

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