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麻倉怜士がナビゲート 2017年、注目のオーディオはコレだ!(後編)(2/4 ページ)

» 2017年12月19日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

――「あのDIATONEが何やらスゴいスピーカーを出したぞ」と、この秋は各所で話題沸騰でしたね

麻倉氏:このところ国産スピーカーは海外勢に押され、元気がない状態が続いていました。そんな閉塞情況を打ち破るスターがこのDS-4NB70です。私はこの秋、あちこちでこのスピーカーのイベントをやってきたのですが、聞く度に「なんて透明度が高く、斬れ味が鋭いスピーカーなのだろう。音楽のすみずみのディテールまで生命感を照射しているな」と感心しきりでした。

DIATONEブランド70周年を記念して発表されたブックシェルフスピーカー「DS-4NB70」。ツイーターとウーファーどちらのダイヤフラムにも、カーボン・ナノチューブ素材の一種「NCV-R」を採用することで音色がそろい、俊敏にして鮮やかなサウンドを鳴らす。その実力たるや、麻倉氏をして「今、世界に並ぶものはいない」と言わしめるほどだ

麻倉氏:三菱電機は1990年代後半になると、スピーカー開発を停止してしまっていたのですが、蓄積したノウハウを活かそうと、2006年に「DS-MA1」(105万円/本)で一度復活しました。DS-4NB70はそれ以来となるスピーカー製品です。製品名にも深い意味があり、“D”は「DIATONE」、“S”は「スピーカー」、“4”は「第4世代」、“N”は「NCV-R振動板」、“B”は「ブックシェルフ」、“70”は「DIATONE70周年」を表します。この型番だけでも力の入れ具合が伺えるというものです。

 開発のきっかけはカーオーディオ用のカーボンナノチューブ振動板です。素材を伝播する音速が速い(6300m/s)こと、内部損失が高いこと、剛性が高いことなどなど。ダイヤフラムに理想的な条件を備えています。しかも低音用のケブラーや高音用のダイヤモンドと違い、ウーファーからツィーターまで全域で使えると、良いことずくめな素材です。DS-4NB70では数種類の樹脂を配合した「NCV-R」を採用しました。

 そんな素晴らしい素材を最大限に活かすべく、ユニットの設計チームも最善を尽くしました。ネオジウムマグネットによる磁気回路、ネットワークのコイルの巻き方、内部配線、キャビネットのサイズと塗装などなど、何回となくトライ&エラーを繰り返したそうです。私は開発途中の試作機を一度試聴しましたが、それよりも実際の製品は一回りも二回りもサイズが大きくなっていました。低音増強のためのサイズアップなのですが、これには大変ビックリしました。

――内部配線はThe CHORD Companyの線材を使用しているそうですね。実は僕もスピーカーケーブルにこのブランドを使っているのですが、音速やトーンの落ち着き、あるいは低ノイズがもたらす透明感を統合的に束ねて音楽に迫る、というブランドの姿勢が聞いてとれます。単なるノイズ低減やスペック向上とは全く違う次元です。良いケーブルは世界中に多数ありますが、The CHORD Companyの配線を採用するという事自体がスピーカーの在り方を表すように僕は感じます

ビックカメラのイベントでDS-4NB70を取り上げた時の様子。圧倒的な音の良さを伝えるため、麻倉節にも自然と熱がこもる

麻倉氏:今挙がった“音速”や“低ノイズ”、それに“音楽性”というキーワードは、まさにDS-4NB70を表現する要素です。本スピーカーの刮目すべき点は、まず前述したユニット性能そのものの物理音であること。ハイスピードで、立ち上がり/立ち下がりが速く、しっかりとした剛性感があるという音調は、まさにユニットのパフォーマンスそのものです。それだけではモニターライクな音になりがちですが、このスピーカーは音楽性の表出が高い次元でバランスしています。

 ホリー・コールでいうと、ピアノの低音のしっかりとした輪郭感と音調の偉容さがベースにあり、細部まで研ぎ澄まされた高い剛性のボーカルが伸びています。細部から太部に至る情報量的レンジの広大さをひしひしと感じます。それと同時に聞かれる豊潤な情感も、逃すことは出来ません。全体的な響きから感じるアナログ的な歌唱の味わい、というよりは、非常に微細な信号のグラテーションを、切れ込み鋭く、実にこまやかに再現するがゆえの、ミクロなニュアンス再現が実に上手い。語尾の消え方、子音に乗せる巧みな感情など。これらはまさに、音楽家が演奏で目指す音的な表現そのものです。メッセージを細やかに明確に伝える、ホリー・コールの語り口の巧さが、本スピーカーではグッと引き立っています。

 アルゲリッチのラヴェルは、パラメーター的には44.1kHz/24bitと“中レゾ”程度の数値ですが、華麗で美しく、実にカラフルです。音場内でのピアノの存在感、ピアノを中心にした楽器の配置の広がり感、ラヴェルらしい色彩の燦めき感などなど。最近のアルゲリッチのソロピアノという貴重な音源の有り難みを、このスピーカーは実に解像度高く、彩度感高く描き出しました。解像感の高さは新素材のメリットとして当然ですが、対して独特な着色感は特筆に値します。音全体を濃い色で覆うのではなく、色の向こうに音のグラテーションが濃く透けて見えるような、非常に透明度の高い色再現。それはどこまでも高彩度で、どこまでも透明です。アルゲリッチのラヴェルにこそ相応しい、そんな音演出ではないでしょうか。

 クラシック、ポップスのほか、ジャズや歌謡曲まで。ジャンルを問わず、その音源が元来持っている音楽的なコンセプト・方向性を実に巧みに表現してくれる、DS-4NB70はそんなスピーカーです。ボーカルや楽器にまつわる音の情報はたいそう多いですが、それが単に情報が多いというだけでなく、耳と心に嬉しいのです。この音楽をクリアかつ濃密に奏でるというという視点において、おそらく今、世界に並ぶものはいないのではないでしょうか。「国産の〜」という形容はあまりに陳腐であり、世界のトップレベルのブックシェルフといってもまったく過言ではありません。

あのパナソニックが本気で作ったUSBパワーコンディショナー「SH-UPX01」

麻倉氏:ここからはアクセサリー類を取り上げましょう。是非紹介しておきたいものがパナソニックのUSBパワーコンディショナー「SH-UPX01」です。モノとしては今回で3代目にあたるのですが、そもそもこれまでは型番が無く「1号機」「2号機」などと呼ばれていました。と言うのも、これまでのパナソニックのパワコンは正式な製品ではなく、1号機は「DMR-BZT9600」、2号機は「DMR-UBZ1」の同梱品でした。つまりはハイエンドBlu-ray Discレコーダーの“オマケ”だったんです。

 ところがBDレコーダーやパソコンなどに挿したユーザーが高音質化ぶりに驚愕。口コミやSNSなどを介して評判が高まり、ついに第3世代にして、正式にSH-UPX01とのモデルナンバーが与えられ、市販化されました。

――来ましたねぇ。音を聞かない人達はネット上で「ソニーのmicro SDに続いて、パナソニックもオカルトに手を出した」なんて言って話のネタにしていましたっけ。マトモな環境で実際に音の違いを聞いたら、あまりの変わりっぷりにきっとひっくり返ると思います

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