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果敢なチャレンジ精神に天晴!――「麻倉怜士のデジタルトップテン」(中編)(4/4 ページ)

» 2017年12月30日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]
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4位:マリアンヌ

麻倉氏:まさにその8K撮影の映画作品「マリアンヌ」が第4位にランクインです。ただしカメラはシャープではなくREDですが。評論家的「4K HDR画質評価ディスク戦争」なるものがあるならば、ビコムの「宮古島」は4K 60pのスタンダードとして揺るぎない地位を確立しています。「4K夜景」は30pなので、今は宮古島が多いです。では映画作品はどうかと言うと、初期は「ハドソン川の軌跡」でした。今も使われていますが、見る場所は専らチャプター5だけ。夜のマンハッタンをジョギングするシーンは、HDRのショーケースとしてとても見やすいです。あるいは「レヴェナント」がよく使われていました。見どころは壮絶なる空気感、透明感、荒涼感で、チャプター2の水のシーン、チャプター19の雪のシーン、チャプター15の炎と暗部、などが該当します。

これ1本で4K HDRのリファレンスがほぼまかなえるという映画作品「マリアンヌ」。映像の精細さやHDRの効果など、最先端の映像美の魅力が詰まっているが、逆に言うと「それだけキチンと映すのは難しい」ということでもある

麻倉氏:今はどうなのかと言うと「ラ・ラ・ランド」と「マリアンヌ」が戦っている状態です。作品の特徴として、ラ・ラ・ランドはフィルム撮影です。原色が強くベッタリとしていて、グレインノイズが非常に多い。そのためハードな絵作りをしているメーカーの機材で見ると、このグレインが本物以上に凄く目立つことがあります。そこをどう上手く隠すか、これが今ビジュアル業界でしのぎを削っている絵作りの最前線です。

 もう1つはマリアンヌ、これはおそらく、現状で最もリファレンスに使われているソフトでしょう。その理由として、1つは8K撮影という事が挙げられます。と言っても、ビデオ的なカリカリの絵ではなく、テクスチャーが凄くフィルムらしい。ラ・ラ・ランドはフィルム感と同時にノイズも多いですが、こちらはノイズが全く無いのにテクスチャーがフィルム的な質感を持っています。非常に細かいところまで描き上げながら、滑らかで精細感がすごくあるという絵です。

 例えばチャプター2、カサブランカの道路の土の色や、そこに乗るクルマのテカリ感、ドイツ軍将校の暗い軍服のテクスチャー、ブラットピットの顔のテクスチャーなど。評論の現場ではこういったポイントが視られています。チャプター7は、ビコムの世界にも通じるような「如何にも8K」な微細さ、なめらかな階調感、ファブリックのテクスチャー。これも非常に重要な評価ポイントです。チャプター19、ロンドン空襲時の暗部の階調の出し方。これなどはビクターがバツグンに良いですね。

このように、トータルで、必要な画質評価要素がまんべんなく不足なくチェックできるのがこの作品の大きな特長です。そういった意味で、マリアンヌが空前のハイクオリティーチェックソフトとしてしばらく君臨し続けるでしょう。私自身メーカーに行く時の画質指導も、今はこれが主体です。

――正直言ってあの作品を満遍なくキチンと映すのは相当難しいですよね

麻倉氏:HDRはもちろん、色再現性に暗部階調など、目配せが必要な要素が多いですからね。それに加えて、人肌の段差感やバンディングがガンガン出てきます。

――夜や屋内などの暗いシーンも多く、キュー・テックの4Kリファレンス映像「QT4000」に出てくるような難しいカットがオンパレード、というわけですから……

麻倉氏:あちらはビデオ撮影用のチェックソフトですね。フィルムとはまた少し違う要素を視ないといけない部分もあります。そこにくるとマリアンヌはビデオ撮影なのにフィルムっぽいんです。単にビデオ的にピカピカやっても困るというところもあるので、そこの機微も踏まえないと、良い映像世界は描けません。

――えげつないなぁ…… これをバネに、各社とも是非頑張ってもらいたいです

BDA(Blu-ray Disc Assosiation)主催のイベントでマリアンヌを使ったリファレンスデモを披露する麻倉氏。ゲストは大のAVラバーを自認する映画監督の樋口真嗣氏(左)と、樋口監督の奥に隠れている女優の堀田茜さん。画像は夜のカサブランカの街を行くチャプター2の一幕

――次回はいよいよ2017年の最後を締めくくる後編、トップ3を発表します。お楽しみに!

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