“JALカードが欲しい”――航空系クレジットカードに人気が集まる2つの理由神尾寿の時事日想:

» 2007年11月16日 09時45分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 11月15日、複数の新聞が、経営再建中の日本航空が売却を予定しているジャル(JAL)カードに対し5〜10社の入札があると報じた。各紙の記事で名前が挙がっているのは、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、クレディセゾン、三菱商事、米投資会社のブラックストーンなど。16日に一次入札が実施される。

 JALカードは1983年に日本航空のハウスカード発行部門として誕生し、翌1984年にクレジットカード会社として分社・独立した。日本航空の子会社ジャル(JAL)カードとなっている。会員数は約190万人で、2006年度の取扱高は約1兆6500億円、取扱高ランキングでは業界7位の中堅カード会社という位置付けだ。発行カードとしては、VISA、MASTER、JCB、ダイナースという主要ブランドを擁しており、JR東日本の「VIEWカード」や東急カードの「TOP&」、小田急カードの「OPカード」など、鉄道系クレジットカードとの提携が多いことも特徴である。

“稼働率が高い”航空系カードの魅力

 このJALカードの売却は、日本航空の経営再建における「売り出し案件の目玉」(関係者)と言われており、実際に銀行や他のクレジットカード会社、投資会社など多くの会社が手を挙げた。JALカードは規模で見れば中堅。その上、クレジットカード事業は、改正貸金業法の影響で“逆風”のさなかにある。なぜ、これほど注目され、人気が高いのだろうか。

 その理由は、JALカードが純粋な“航空系カード”を発行しているところにある。

 航空系カードとは、その名のとおり航空会社の会員サービスと一体化したクレジットカードのことで、その多くがマイレージプログラムと融合している。例えば、JALカードの場合、発行カードのすべてがJALのマイレージプログラムである「JALマイレージバンク(JMB)」の機能を有しており、飛行機搭乗時のマイル加算はもちろんのこと、クレジットカードの利用額に応じたマイルの加算も行われる(10月24日の記事参照)

 このようなマイル機能と融合した航空系カードは、一般的にカードの稼働率が高い。理由は大きく2つある。

 1つは、ユーザーのそのクレジットカードを使い「マイルを獲得・蓄積する意志が明確」であることだ。航空系カードはマイル獲得条件が優遇されているが、年会費無料のカードがない。しかもその価格は一般的なクレジットカードより高めに設定されている。例えば、JALとANAのゴールドカードは年会費1万6000円〜1万7000円前後だが、三井住友カードやJCBのプロパーゴールドカードの価格帯は1万円前後だ。一般カードでもマイルや航空特典の大きいグレードでは、航空系カードの年会費は通常カードの価格帯より5000円ほど高い。

 各航空会社は年会費無料でクレジットカード機能のない“マイレージカード”を発行しており、漫然とマイルを貯めたいだけなら「そちらをどうぞ」というスタンスである。つまり、年会費無料のマイレージカードではなく、有料で年会費が高めの航空系カードに入会していること自体が、ユーザーのカード利用意欲が高いことの表れになっている。

 2つ目の理由は、T&E(トラベル&エンタテイメント)分野との“相性のよさ”だ。航空系カードは航空券の購入はもちろん、ホテルやレンタカー、観光・ショッピングの決済で使われることが多い。これは出自が「飛行機に乗るためのカード」なので当然ではあるが、ユーザーの利用形態や導線が把握・予測しやすいのだ。そのため航空系カードでは、そういった“飛行機から降りた後の利用場所”にマイル加算や割引特典を付けることで上手に利用促進を図っている。また、航空系カードは、手数料収入の大きい海外でのショッピング利用やキャッシング利用が多いというのも、他のカードにはない特徴になっている。

 現在のクレジットカード業界は改正貸金業法におけるキャッシングやローン金利の抑制で、「年会費無料カードをばらまき、一部のキャッシング・ローン利用者の金利で儲ける」というビジネスモデルが立ちゆかなくなっている(別記事参照)。その一方で重要視されているのが、クレジットカードの「稼働率」と「年間決済額」だ。航空系カードは、このどちらもが高いのである。

航空系上級カードの“顧客属性の高さ”も魅力

 さらに、JALカードのもう1つの魅力となっているのが、属性の高い※顧客を多く囲い込んでいる点だ。

※属性が高い……クレジットカードの本人審査などで用いられる用語。年収が多い、勤務年数が長い、借り入れがない人は“属性が高”く、信用がある。逆に年収が少ない、勤務年数が短い、借り入れが多く、複数から借りているような人を“属性が低い”という。

 航空系カードは、ビジネスで飛行機に多く乗る“出張族”や、海外旅行によく行く“富裕層”の保有も多い。これらの人々は、航空会社にとって上客(エリート会員)でもあり、航空系カードでは通常の航空系ゴールドカードより上位となる専用カードを発行して囲い込みを行っている。例えば、JALカードには「JALグローバルクラブカード(JGCカード)」、ANA系では「ANA Super Flyers Card(SFCカード)」がある。これら航空系上級カードは一般申し込みでの入会を受け付けておらず、航空会社の年間搭乗実績の多い会員や航空会社の上得意先企業の社員のみに招待(インビテーション)をする仕組みになっている。上級会員の実数は各社非公表だが、全体の1割程度といわれている。

 これら航空系上級カードを持つ人々の多くは富裕層や大手企業社員であり、可処分所得が大きく、クレジットカードの利用機会も多い。航空会社にとって上客であるだけでなく、クレジットカード事業にとっても垂涎の利用者層だ。この層をしっかりと囲い込み、個別にマーケティング可能な状況にしていることも、航空系カードの大きな魅力なのだ。

 今回のJALカード売却は、日本航空の経営再建の一環として注目されている。しかし、“航空系カード”の特性や会員属性を鑑みると、「どこが買うか、どのように活かすか」の方がさらに興味深いと言えそうだ。

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