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» 2007年12月10日 11時29分 公開

「まだ勝者は生まれていない」――富裕層をめぐる金融ビジネス

富裕層が三大都市に集中している中、富裕層ビジネスで成功している金融機関はない。欧米型のプライベートバンキングではなく、新たなビジネスモデルが必要のようだ。

[土肥義則,Business Media 誠]

 現金や株などの金融資産1億円以上を保有する富裕層※(1)が、三大都市圏(首都圏、関西圏、名古屋圏)に集中しているようだ。野村総合研究所の調べによると、都市に住む世帯数48%に対し、地方は52%と上回っている。しかし年間納税額※(2)をみると、納税額が大きくなるほど都市への集中度は高まっている。年間1億円以上の税金を納めている人は都市で8割を超え、中でも首都圏が6割を占めているのだ。

※(1)野村総研では、世帯金融資産5億円以上保有する層を「超富裕層」、1億円以上5億円未満を「富裕層」、5000万円以上1億円未満を「準富裕層」としている。調査では超富裕層90人、富裕層191人、準富裕層84人が回答している。
※(2)2003年〜2005年に公示された高額納税者名簿より作成。
富裕層・超富裕層のマーケット規模

 富裕層の職業で最も多いのは非上場企業の経営者で36%、次いで医者(開業医含む)の14%、上場企業経営者の12%。超富裕層(金融資産5億円以上)では非上場企業の経営者が40%、上場企業の経営者が25%、医者が12%と続いた。企業規模でみると、大企業よりも中小企業の経営者に富裕層が多い。野村総研金融コンサルティング部の宮本弘之氏は「大企業のサラリーマン社長と違って、中小企業はオーナー社長が多く、在任期間が長いため富裕層が多い」と分析する。

 相続税の対象となる被相続人数は、東京、大阪、名古屋の国税局管内に集中している。中でも10億円以上の相続税を納めた人が急速に増えており、2002年と比べ2005年は6.1ポイント増の79.9%に達した。「都市の経済成長」「地価の上昇」「起業家やIPO(新規株式公開)」などを理由に、「今後も富裕層は都市に集まるだろう」と見ている。

富裕層が都市に集まる要因 三大都市圏 地方圏
地域の経済成長 活況を呈する名古屋経済、首都圏が経済成長を牽引 停滞する地域経済
地価の上昇 上場企業の経営者が多い。地価上昇 地価は引き続き低迷
起業家やIPOの増加 起業家が集中 オールドエコノミーが中心

超富裕層と富裕層の間にも開き

 それでは富裕層は、どうやって資産運用をしているのか。日本人平均の株式保有率は10〜15%だが、富裕層は78%、超富裕層になると84%に達する。中でも証券会社が個人投資家の資産管理や運用などを行う「ラップ口座」は、富裕層向けの金融商品だ。このラップ口座を持つ準富裕層と富裕層はそれぞれ1%にとどまったが、超富裕層になると12%。ラップ口座は富裕層にとっても、ハードルの高い金融商品のようだ。

 また株式や債券への運用ではなく、ファンドオブファンズ※や未公開株、不動産といった先に投資をする「オルタナティブ商品」も富裕層に人気がある。オルタナティブ商品を保有する富裕層は12%、超富裕層になると20%。ラップ口座やオルタナティブ商品といった金融商品の保有率をみると、超富裕層と富裕層の間で開きがあることが分かった。

※ファンドオブファンズ:複数の投資信託を組み合わせて、1つの投資信託にまとめたもの。

 外貨建て資産の保有比率を職業別でみると、「医者」が最も多く24%、次いで「非上場企業の経営者」で14%。医師不足などで忙しいイメージがある医者だが「資産運用にのめり込む傾向があるようだ」と指摘する。

 一方で“ヒルズ族”と称され、派手な生活を送っているイメージが強い新興企業の経営者だが、最も関心があることとして「事業の拡大」を挙げた。もちろん上場後に事業を売却したり、金融資産の運用に夢中になっている経営者もいるが、ほとんどの人は事業の拡大に取り組んでいるようだ。それは老舗の上場企業や非上場企業の経営者も同じ傾向があり、「企業の経営者は、事業を第一に考えている。経営者として真面目な考え方をしている人が多い」としている。

富裕層をめぐる争いは、勝者を生み出していない

 超富裕層の保有率が高いラップ口座やオルタナティブ商品は、一部の証券会社や銀行で取り扱っている。しかし「潜在的なマーケットを考えると、既存の金融機関は十分なサービスを提供していないため、顧客のニーズとうまくマッチしていない」と指摘する。例えばメガバンクは地方に弱く、専門性が不足する。地銀・第二地銀は地方でのシェアは高いが顧客の満足は低い、大手証券は金融資産の運用を中心にしているが、そのほかの金融商品が少ないことを挙げる。

 そして、バランスのとれた収入構造を実現した金融機関が勝者の条件だという。具体的には、事業承継や相続といった相談案件や運用の充実を挙げる。今後は規制緩和や世代交代などによって、超富裕層のマーケットが変化する可能性が高い。ただ現時点では「超富裕層をめぐる金融機関の争いは、まだ勝者を生み出していない」と話す。

 富裕層や超富裕層が増加している状況を踏まえると、金融機関は新たなビジネスモデルが必要だと指摘する。中でも銀行系の証券会社と外資系と日系の金融機関の提携に注目する。それぞれの強みと弱みを補完することで、富裕層サービスを充実させることができるという。「これまで欧米のプライベートバンキングは日本市場で失敗を繰り返してきた。日本の風土に合った、日本型プライベートバンキングを作ることが必要」との考えを示した。

金融機関 富裕層をめぐる課題
メガバンク 地方圏に弱く、専門性が不足
大手証券 金融資産の運用が中心
地銀・第二地銀 地方圏のシェアは高いが、顧客の満足度は低い
信託銀行 企業経営者よりも不動産オーナーや高齢女性の顧客が多い
外資系 一部のスーパーリッチに特化

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