ユニクロ×ジル・サンダー 最強コラボが手がける「+J」ブランドの狙いとはそれゆけ! カナモリさん(3/3 ページ)

» 2009年08月28日 07時00分 公開
[GLOBIS.JP]
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もはや無敵か……

 しかし、それには柳井正会長は既に答えを出している。990円ジーンズで一気に知名度が向上し、日経MJの2009年度上期ヒット商品番付入りもした「g.u.(ジーユー)」。3月10日の990円ジーンズ発表の記者会見で、柳井会長は次のように述べた。

 「ユニクロはナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」

 「バリューライン」で考えてみよう。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の2軸を取る。すると、「安くてそれなりの価値のもの(安かろう、悪かろう)」「そこそこの価格で、ほぼ妥当な価値のもの(市場相場的価値)」「高くて価値の高いもの」という一本の線がひける。これがバリューラインだ。

 当然、バリューラインを下回る、例えば「中間的な価格で価値が低い」ようなものは、市場から撤退を余儀なくされる。しかし、バリューラインを上回るものは、消費者の支持が得られることになる。「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」という存在になる。

 「まあまあの品質で低価格のもの」。つまり、「グッドバリュー戦略」のポジションをg.u.は目指している。ユニクロは元々高品質で低価格の「スーパーバリュー戦略」のポジションを目指していたが、g.u.とのすみ分けで、高品質で中価格の「高価値戦略」のポジションに切り替え、収益確保を図ったと筆者は考えていた。

 しかし、ユニクロの「価値」の軸を改めて考えてみると、実は依然「スーパーバリュー」のポジションにいるのではないかと考えざるを得ない。ユニクロが提供するものは、ただの高品質ではない。ヒートテックやドライ製品など高機能性も提供している。

 加えて今回の「+J」の展開でユニクロの価値は一気に高まった。単品で1万5000円以下という衝撃のプライスでジル・サンダーのデザインが手に入るのだ。ただの高品質ではない。最高品質だ。これを「スーパーバリュー」と言わずして何と呼べばいいのか。

 この方向性を後押しするようなデータもある。日経ビジネスアソシエ8月4日号に、マーケターの三浦展氏が「若い世代ほど『ユニクロ』に好意 『シンプル族』の増加で日本が変わる」とのコラムを寄せている。三浦氏は衣料品ブランドに対する世代別、階層意識別の好意度を提示し、団塊ジュニア以降の世代は、無印やユニクロを低所得層のための衣料とは見なしておらず、むしろ一般的なカジュアルウエアとして階層にかかわらず愛用していると言える、としている。

 これまでのファッション業界の常識を大きく塗り替えるチャレンジをユニクロとジル・サンダーは始めたのである。発売は10月2日。行列が出来ることは間違いないだろう。世界的にも人気を呼びそうだ。これまでブランド力で勝負をしてきたメーカーは、戦々恐々としているかもしれない。

 もはや、向かうところ敵なしの状態といっていい。ファーストリテイリングは目標とする「2010年売上高 1兆円」に向かって、真っ直ぐ突き進んでいる。少なくとも筆者には、そう見える。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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