こうして、「コミュニケーション・シャットダウン」のアイデアは生まれた。どれだけ世界中でソーシャルメディアを通じたコミュニケーションが活発になっても、自閉症の子どもたちやその家族にとって「社会とのかかわり」は依然として困難なこと。そのことを、ソーシャルメディアが常習化すらしつつあるたくさんの人々の状態を逆手にとって、「1日だけソーシャルから遮断させてしまう」というのがその根幹となるアイデアだ。それは、アカウントユーザーにとっては「自閉症患者の疑似体験」といえるものかもしれないし、社会的には「ソーシャルメディア依存への警鐘」という解釈もできるかもしれない。
さらにこのアイデアが秀逸なのは、爆発的なクチコミのパワーが期待できる仕組みとしても設計されているという点だ。友人のFacebookページを訪問したときに、もし友人がそれを1日限定で「閉鎖」していたら、誰だってその理由を知りたくなるだろう。その理由を知ることが、すなわち自閉症について知ることであり、その連鎖が続いていくことになる。
2010年の11月1日の1日間だけ、ソーシャルメディアをシャットダウン(閉鎖)する。それが自閉症患者の疑似体験――こうしてコアアイデアはかたまり、実行にむけた設計と準備が開始された。
(つづく)
池田紀行
株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長。マイクロソフト、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、Z会などのソーシャルメディアマーケティングを手掛ける。近著『キズナのマーケティング』(アスキー新書)。
本田哲也
ブルーカレント・ジャパン株式会社代表取締役。米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。国内外の大手メーカーなどを中心に戦略PRの実績多数。近著『新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。』(アスキー新書)。
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