英語と資本主義の共通点、日本語との根本的違いに思い悩むビジネス英語の歩き方(3/3 ページ)

» 2013年06月28日 08時00分 公開
[河口鴻三,Business Media 誠]
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英語と資本主義の共通点に悩む

 日本人のものの考え方には、他人との上下関係などに意識を配る習性があり、単数複数とか、論理的整合性といったことをあまり気にしません。これはおそらく、今日の資本主義の本質と関係しているのでしょう。

 「誰が」や「いくつ」といった物事の帰属関係を非常に意識することが資本主義の基本であり、個人主義もその流れの中にあります。また、今日の世界の規範になっている民主主義も、個人と集団を峻別(しゅんべつ)することと無縁ではありません。

 資本主義とは、「資本を提供する人が、まずその報酬を受ける権利がある」とか「利益をあげることを認め、推奨する仕組み」といった整理をすることが可能です。もっと簡単にいえば「世界中のものが誰か人間に所有されることを前提とした仕組み」ということです。ずいぶん傲慢(ごうまん)な考え方ですが、宇宙にまで所有権を主張する人がいる時代ですから、資本主義を認める限り、「誰が」という主語は極めて重要ということになります。

 英語は、まさにそうした考え方と軌を一にしています。物理的に分かれた存在は、それぞれ別の存在とはっきり規定し、それらがどういう関係になっているのかを記述するのが英語です。

I agree with you.

は、言うまでもなく、「あなたに賛成です」ということ。ここにはIとYouという別々な存在を明示し、「私」は「あなた」にと主体と対象をはっきり目の前に置き、そのうえで「私はあなたに賛成です」と言っているわけです。

 しかし、日本語では、

おっしゃる通りです

といったほうが自然です。「おっしゃる」という「敬語表現」の中に、自分(I)も相手(You)も入れ込んでしまいます。日本語の極意ですね。しかし、英語をしゃべるときには、「おっしゃる」の中に入れ込んだ、IとYouを引っ張りだしてあげないといけません。

 英語は、常に責任の所在、所有者の存在を明確にしたがる言葉です。これは、日本語をかなり上手く話せる米国人から聞いた話ですが、彼は日本語を勉強し始めたとき、「あなたはどこに行きますか?」のように、「あなた」を連発していたそうです。しかしある日、日本人はほとんど「あなた」という言葉を使わないことに気がついたそうです。その日から、彼の日本語はまったく別物になりました。「私はあなたに賛成です」から主語もあなたも消えたのです。

 最後に英語と資本主義の関係についてのごく大雑把な推論を書いておきます。日本でいえば横浜や神戸、中国でいえば上海や香港、インドでいえばゴア。これらはそれぞれの国で早くから英語が流通した港湾都市です。もちろん水深が深く、大形船が接岸できたといった貿易上の利点もあったわけですが、何といっても大きいのは英語がそれらの都市では早くから使われたという点です。

 それ以前は長崎のポルトガル語、オランダ語、南米におけるスペイン語など、欧州の国々が進出した港町には、それなりの港湾都市が築かれました。しかしそのいずれも、その後英語によってビジネスや文化に関わる活動が行われた都市ほどには発展しませんでした。

 その典型例はカリフォルニアでしょう。スペインが支配していたころは大して発展しませんでしたが、米西戦争で米国が勝ち英語圏になると、まったく違ったスピードで発展していきます。

 日本でも横浜や神戸が持つ先進性と、英語のもつ他の言語とは違うロジカル性、スピード感、合理性、簡潔性などが大いに関係しているのです。

著者プロフィール:河口鴻三(かわぐち・こうぞう)

河口鴻三

1947年、山梨県生まれ。一橋大学社会学部卒業、スタンフォード大学コミュニケーション学部修士課程修了。日本と米国で、出版に従事。カリフォルニアとニューヨークに合計12年滞在。講談社アメリカ副社長として『Having Our Say』など240冊の英文書を刊行。2000年に帰国。現在は、外資系経営コンサルティング会社でマーケティング担当プリンシパル。異文化経営学会、日本エッセイストクラブ会員。

主な著書に『和製英語が役に立つ』(文春新書)、『外資で働くためのキャリアアップ英語術』(日本経済新聞社)がある。


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