インドと中国の「領土問題」に巻き込まれる日本伊吹太歩の時事日想(4/4 ページ)

» 2014年02月06日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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交渉ごとに抜け目のないインド人、日本政府はどう出る?

 インド側の本音はきっとこうだ。中国と領土問題を抱える日本を巻き込んで、中国との領土問題に後ろ盾を得たい。その上に同地域のインフラ整備もできるとなれば、願ったり叶ったりである。同地域で道路などの整備が実現すれば、東南アジアなどへの陸路が広がり、インドにとっては重要な東南アジアとの「ブリッジ(架け橋)」ができる、と。

 インド人を見くびってはいけない。自らの利益なくして動く人たちではないし、交渉ごとなどで非常にしたたかなことは、一度でもインドでカネの絡むやり取りをしたことがある人なら感じたことがあるだろう。だが一方で、インドが日本との協力を強化することで、アジア地域の力関係を根底から変えられると考えていることは間違いなさそうだ。

 困ったのは日本である。安倍がこの動きにふたつ返事で公然と合意すれば、誰からも中国に対する挑発行為とみられるのは間違いない。インドの国境問題と同じように、中国と尖閣諸島で領土問題を抱える日本が実際にアルナチャル・プラデッシュ州の開発に関わることになれば、インドと中国の領土問題に首を突っ込むことになる。これをどう考えるのか。

 著者の知る限り、現時点で、日本政府がその要請にどう答えたのかは伝わってきていない。

 米CNNが「中国は、日本とインドの関係強化を、米国が主導する『中国封じ込め』の一環ととらえている」と報じるように、今回のインド訪問ではさまざまな憶測が飛び交っている。「Pivot(ピボット、アジアへの軸足移動)」といってアジア重視政策を主張した米オバマ政権は、アジアのみならず世界でも存在感が薄れており、世界の情勢は揺れている。

 さまざまな地域のプレイヤーがそれぞれの思惑で動く現在、日本の外交はこれまで以上に地域の情勢と立ち位置をきちんと分析し、戦略的に言動する必要がある。今回のインド訪問もしかり。靖国参拝やダボスで世界からその動向がこれまでになく注目されている安倍首相率いる日本。注目が高まるにつれ、これまで以上にいつ足下をすくわれてもおかしくない状況になるだろう。

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