お腹が減った、どうすれば? 福島原発に近いホテル(1泊7500円)に宿泊烏賀陽弘道の時事日想(5/5 ページ)

» 2015年02月05日 08時00分 公開
[烏賀陽弘道,Business Media 誠]
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「見えない敵」と闘うための軍事基地

 そういえば、腹が減った。フロントに行き「近くで食事のできる店はありますか」と聞くと、係の若い女性は首を横に振った。住民が戻らないので、営業している飲食店は近くにないという。では、どうすればいいのだ。

 「近くで営業しているのはスーパーが一軒とコンビニが二軒しかありません」

 しかも、スーパーは午後6時、コンビニは8時で閉店するという。時計を見ると5時半。いかん。作業から戻った人たちが一斉に夕食を買いに行っているはずだ。食料が売り切れてしまうかもしれない。私はダッシュしてレンタカーに戻り、国道6号線をまた飛ばした。

 10分ほど走ると、あった。やはりプレハブの建物で、スーパーの明かりが見えた。駆け込むと、ここも中はベージュやうぐいす色の作業服姿の男性で混雑していた。日本酒の紙パックや缶チューハイ、ビールを買い物カゴに詰めている。幸い、まだ弁当は売れ残っていた。やれやれよかった。鮭幕の内弁当とサラダ、カップみそ汁を買う。よく見るとレジの横には簡素なテーブルと椅子が何組か用意され、イートインコーナーになっていた。給湯ポットがあり電子レンジがあった。弁当をチンして、がつがつとかきこんだ。閉店まぎわで焦っていたので、味はよく分からなかった。

住民が避難したままなのだろう。宿舎近くに営業している飲食店がない。午後6時まで営業していたプレハブ建てのスーパーやコンビニで食事を買う人が多い

 帰り道、国道の両側は暗かった。住民が戻らないので、民家や商店に明かりがともらないのだ。そんな暗闇のなか、工業団地に並んだプレハブの建物だけが明るかった。ホテルだけではない。よく見ると、除染・復旧関係の企業の事務所がいくつも並んで、人やクルマが出入りしていた。

 そんな光景を眺めていたら、大学院時代に見学旅行で訪れた米国の海兵隊基地を思い出した。真っ暗な田舎で、基地にだけ明かりが灯っていた。地元のコンビニやスーパーは迷彩服の軍人だらけだった。

 何となく、腑に落ちた。ここも「基地」なのだ。放射性物質という「見えない敵」と闘うための軍事基地なのだ。

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