ホンダはなぜF1から撤退するのか?――社長会見を(ほぼ)完全収録(5/5 ページ)
本田技研工業は12月5日、突然F1レース活動からの撤退を表明した。その決断の背景にあったものとは何なのか。福井威夫社長とモータースポーツ担当の大島裕志常務が登場した記者会見の詳細をお伝えする。
ルール違反で出場停止になったのが記憶に残っている
――鈴鹿サーキットの開催が2009年は予定通り、とありましたが、その後の開催についてはどうお考えでしょうか。また、来年からハイブリッドがF1でも解禁されるということで、環境技術で先行しているホンダとしては大変チャンスがあるんじゃないかと思っていたのですが。
福井 来年のマシンには相当力を入れていまして、それなりの成果は当然期待していたわけです。(しかし)1年遅れた判断が3年4年のギャップになる、それほどシビアな時期だと(思い)、一刻も早い決断、一刻も早い対応、新しい時代に対する対応が必要だと認識しております。
大島 (鈴鹿)サーキットの件ですが、これはモビリティランドが会社として意思決定していて、ホンダとして申し上げることはできないのです。今聞いている範囲では当然来年も開催しますし、来年以降も変更するという話は聞いておりません。
――F1は撤退ということですが、下のカテゴリーでのヤングドライバーの育成や、鈴鹿のレーシングスクールなどの支援活動は続けていくのですか?
大島 F1は撤退しますが、若手ドライバーの育成プログラムについては、そのまま続けてまいります。
――2000年からのホンダF1第3期では、1シーズンとしてチャンピオンシップを争える力はなかったと理解しております。その最大の原因は何にあるのでしょうか。
福井 最大(の理由)といってもお答えしにくいのですが、これはさまざまな理由があったと思います。中断をしていた段階で技術が遅れてしまい、それに追いつく時間がなかったということ(が1つの理由)。
タイトル争いをやっていれば、こういう要件が必要だなと申し上げられますが、それがつかめていない段階での撤退ですから、理由はよく分からないです。「こうすれば勝てるんじゃないか」ということで、毎年手を打っている。来年に向けてもそういう手を打ったわけですが、それはまだ結果が出ていませんから何とも申し上げられません。非常に残念だと思います。
――2000年からの第3期を振り返って一番印象に残ったこと、あるいはうれしかったこと、やり残したことなどがあれば教えてください。
福井 もちろん勝った時が一番うれしかったわけですが、やっぱり強い印象があるのはポールポジションをとった年、確か2005年か2004年※だったと思いますが、ポールポジションをとってレースに勝てなかったという状況。十分勝てそうな雰囲気になった時に、ルール違反※※ということで出場停止になったこと、非常に悔しかったですね。我々は「ああいうルール違反はない」といまだに信じています。あの時に勢いをそがれたことが残念だと思っています。
――F1以外のモータースポーツについては続けられるのでしょうか?
福井 今現在、私としてはMotoGPのワークスは続けるし、インディー(カー)・シリーズは米国ホンダで続けるつもりです。それ以外はこれから詰めます。
――近年環境意識が高まってきて、F1が環境にやさしくないとの見方が出てきましたが、それが今回の決定に影響していますか。また福井社長は、2000年にF1復帰を決めた時にモータースポーツの担当役員だったと記憶しています。その前の二輪の開発者だった時代からスポーツに関わってこられて、今回のF1撤退を決断せざるを得なかったご自身の境遇をどう思われているか率直に教えてください。
福井 ホンダのコーポレートブランドを高めるというのを非常に大きな目標として、やってまいりました。これに関しては結果が出なかったということで、目標を達成できずに撤退ということで非常に残念です。しかし、決してF1のブランドの価値がなくなったからといって撤退するのでは絶対ありません。
今でもやりたいという気持ちが非常に強い。ただし状況が許さなかったということです。私自身の気持ちとしてもやはり、何らかの形でのモータースポーツへのチャレンジがホンダにとっては必要だし、これがF1ではなくてMotoGPだったり新しい技術への挑戦だったり、違う形でのチャレンジでこれをつなげていくことは可能だと思っています。
終始ポーカーフェイス
途中熱くなる場面もあったものの、終始ポーカーフェイスで通した福井社長。1時間の会見を終えると、足早に会見場を引き上げた。
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