ユニクロの目覚ましアプリが世界を相手に狙うもの
公開1週間で26万ダウンロードを記録したiPhoneアプリ「UNIQLO WAKE UP」。ユニクロが出店していないアフリカの国でも利用されているという。
ユニクロといえば、日本国内のみならずニューヨークやロンドンなどにも旗艦店を展開し、ファストファッションにおける日本代表というポジションから、世界のユニクロになりつつある。
そんな同社が新しく手がけたのが、ソーシャル目覚ましアプリ「UNIQLO WAKE UP」(参照記事)。目覚ましを設定した時刻、曜日、天気によって、アラーム音楽が自動的に生成されるだけでなく、起床時の天気や気温、時刻はFacebookやTwitterなどでシェアできるのが特徴だ。
2012年5月8日の配信開始以来、あっという間に50万ダウンロードを超えた。それもユニクロが出店していないエリア、例えばアフリカのガンビア共和国でも利用されているという。はたして、UNIQLO WAKE UPの狙いは何なのか。仕掛け人の松沼礼さんに聞いた。
――あらためてUNIQLO WAKE UPの概要と特徴を教えてください。
UNIQLO WAKE UPをプロデュースした松沼礼さん。ユニクロファッションコミュニティ「UNIQLOOKS」の立ち上げや、銀座グローバル旗艦店のオープン企画「UNIQLO CHECK IN CHANCE」などを手掛ける。
松沼: UNIQLO WAKE UPは、グローバルプロモーションとブランド認知を目的としたモバイルアプリケーションで、世界中の人にユニクロを知ってもらう機会を生み出そうという意図で開発しました。
具体的には、目覚ましというすべての人が使うツールに着目して、UNIQLOCK【※1】の開発を手がけたチームが企画し、作成したアプリです。天気、時刻、曜日に関する情報を届けるのはもちろん、コーネリアスや菅野よう子さんといった世界的有名アーティストがミュージックを担当しています。
UNIQLO WAKE UPは、「毎日の目覚めを快適にしていく」というコンセプトのもとに、個人の目覚めの記録をソーシャルネットワークと連携し、ワンプッシュで世界に共有できます。「世界中の人々と自分の目覚めを共有できる」という新しい体験を実現させたことが、このアプリの大きな特徴です。
※1 UNIQLOCK
2007年6月15日に公開されたUNIQLOCKは、時計機能を備えた「ブログパーツ」。時刻に合わせて画面が変わりユニクロの商品を着た女性たちがオリジナルのダンスを披露する。「MUSIC×DANCE×CLOCK(音楽×ダンス×時計)」という“言語の壁を越えた”コミュニケーションをコンテンツとして、ユニクロの世界観をグローバルに発信していくことが目的だった。2008年春公開の「UNIQLOCK3」では、“カンヌ国際広告祭”を始めとする、世界三大広告賞においてグランプリの受賞を果たした。
――マーケティングの中でこのアプリの位置付けと役目は何でしょうか?
松沼: ユニクロを知らない人にも使ってもらうことによって、ユニクロへの興味喚起のきっかけとなればうれしいと考えています。世界中の人に愛されるブランドになることが目的ですので、その一翼を担えれば良いと思っています。
――どのような点が評価されてこれだけのDL数となったのでしょうか?
松沼: 携帯電話をクロックアラームとして使用している人は多いようです。UNIQLO WAKE UPは、天気、音楽、ソーシャルを取り入れて、ユニークなアプリに仕上がったことが、たくさんのお客さまからご支持いただいている大きな理由だと思います。
目覚めの記録をワンプッシュでソーシャルネットワークサービス(SNS)に投稿でき、自身の目覚めを世界中の人々と共有できるといった新しい体験もポイントの1つです。
コーネリアスと菅野よう子さんが担当したオリジナルミュージックに対しても、たくさんのポジティブなご意見が寄られました。
――ユニクロが展開していない国・地域も含めグローバル対応とした理由は?
松沼: ユニクロの店舗がない国でも、グローバルなプラットホームを持つアプリの力を使い、ユニクロを多くの人に知ってもらいたいという思いがあります。
海外展開を進めている中で、ブランチ(支社)も設定していない国でも利用されていることは、大きな成果だと考えています。例えば、アフリカのガンビア共和国などからもダウンロードされています。2012年6月26日現在、総ダウンロード数は約57万7000回となっています。
――これまで手がけられてきたプロダクトのノウハウはどのように生かされていますか?
松沼: ブログやSNSにより、個々人が情報発信できるメディアの一部になった現在、ユニクロとしても、コンタクトポイント(顧客との接点)や提供する情報の内容、手法などを変えていかなければと考えるようになりました。
誰もが必要とする日常に欠かせないものをヒントに企画したUNIQLOCKやUNIQLO CALENDER【※2】を通し、デジタルを利用することによって、より速いスピードで、広範囲に深く情報を伝達できるということを学びました。これらの経験が、今回のUNIQLO WAKE UPアプリの成功につながったと考えております。
※2 UNIQLO CALENDAR
日本の四季の映像、音楽、ユニクロの商品画像が融合した新感覚のエンターテイメント型カレンダー。画面上で日本各地の四季の映像が次々と表示され、カレンダーと登録地域の天気情報を把握できるツールとしてのサイト、ブログパーツ、スクリーンセーバー、グリーティングカードとして楽しめる。2009年6月にスタート。
――PCベースからスマートフォンベースへの移行はどのように捉えられていますか?
松沼: お客さまの生活環境の変化に伴い、企業のお客さまとのコミュニケーションは変わっていきます。お客さまがいつでもどこでも持っている媒体は、携帯電話やスマートフォンです。
そのためスマートフォンメディアに対するコミュニケーションも強化していくべきと考えており、ユニクロでは、よりきめ細かいOne to Oneコミュニケーションへの取り組みとして、2012年4月よりモバイル会員サービスを開始しました。
これは、主にスマートフォンアプリ「UNIQLOアプリ」によってご利用いただけるサービスです。UNIQLOアプリをインストールしておけば、会員限定プライスの商品や「ラッキーアワー」という予告なしタイムセールが利用できます。
今後もお客さまの環境に合わせて最適なツールを用い、より良いサービスを提供していければと考えています。
――従来のTVコマーシャル投下のようなマーケティング手法との相違点は?
松沼: お客さまと双方向であるということです。TVや新聞は、伝えたいメッセージを伝える媒体として欠かせないものですが、受け手に対して一方通行です。デジタルコミュニケーションは、お客さまへの直接的なコミュニケーションが取れることに加え、双方向でのコミュニケーションも可能です。一人ひとりのお客さまと、深く、長い関係を作っていくべく双方のマーケティング手法は必要と考えています。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)、『できるポケット+ Gmail 改訂版』(インプレスジャパン)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。2011年9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
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