「ブラック企業かどうかは、人それぞれ」――この発言が怖い理由を考える:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(3/3 ページ)
過労死などのニュースが流れたとき、残業時間を聞いて「俺なんて普段からもっとサビ残しているぞ」「この程度でブラックなら、うちの会社は真っ黒だ」などと言ったことはないでしょうか。こういった発言で問題をあいまいにすることが、実は自分たちの首を絞めているのです。
50年前の「ブラック企業」
いま私の手元には1960年に出された『現代日本の底辺』という叢書があります。その「第3巻不安定就労者」には、劣悪な環境(それこそブラック企業だらけ)で働く人たちの辛い胸の内が綴られています。
住み込みで働く店員は、その店の経営者と家族とともに食事を取るのですが、自分がその場に顔を出すと経営者は卵や肉を隠してしまって食べさせてくれない、自分だって食べたいし、食べないと仕事のやる気など出ないと嘆く。ある店員は用意された下宿が狭過ぎて、夜中にトイレに行くために起きた別の人に下腹部を踏まれて膀胱が破裂したという事件が起きたとこぼしています。価格競争が激しい業界に勤めている人は、ノルマがキツ過ぎて、入社しても三日と経たずに辞めていく人が後を絶たないと、今の離職率問題どころではない惨状をぼやきます。
もちろん、この書籍がある種の「問題をクローズアップ」しているにすぎないモノだということは承知していますが、それを踏まえても、たった50年ほど前の日本の労働環境の底辺は、こういうこともあったのだろうと容易に推測できます。なぜそれが改善されたのか、改めてそれを考えてみてほしいのです。モラルだけではとても無理でしょう。それらの条件を改善してくれたのは、公のルールができたからに他ならない。昔はもっとキツかった、甘いことを言うなと、武勇伝を語っていては「いつか来た道」を、またたどってしまうことも十分に考えられるのです。
関連記事
- サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:人事担当者と「社史」のキケンな関係
最近「会社の歴史を従業員に伝えたい」という相談を、複数の人事担当者から受けたというサカタさん。人事が急に「創業者の思いを……」などと言いだしたら注意だ、というその理由は? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「いつかは転職したい」では転職できない理由
「いつかは転職したい」――長く働いているビジネスパーソンなら、1回くらいは考えたことがあると思います。しかし仕事柄転職相談を頻繁に受けるサカタさんは「それでは転職できない」といいます。転職市場において、もっとも大事な価値とは? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:安倍首相の「3年間抱っこし放題」は、本当に女性のキャリア支援になるのか
「3歳まで育児休暇を延長」「待機児童ゼロ」アベノミクスの3本目の矢、成長戦略の柱として打ち出された、女性のキャリア支援策。どんなデータを元に議論がなされたのか、このゴールデンウィークに改めて考えてみませんか。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:ハローワークで“やりたいこと”を探してみたけどなかった、という話
居酒屋で隣り合わせた男性の「やりたいことは、ハローワークでは見つからないな、マジで」という言葉に、思わず聞き入ってしまったサカタさん。就活に至るまでの、キャリア教育の難しさとは? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:企業は若手社員に「我慢すること」「実行力」を求めはじめている
前回、若手社員が「成長したい」と言って会社を辞める現象についての記事の中で、「彼らが仕事で重視しているのはお金ではない」と書きました。彼らが求めるものと、企業側が若手に求めるものとは深刻にズレているようです。それは……。 - 「キャリアアップ」のために会社を辞める若手社員の本音とは
「このままこの会社にいても成長できると思えないから、辞めます」……こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。若手社会人は「お金のために働かない」のはどうやら本当らしい。それでは何のために働くのでしょうか? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」バックナンバー
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.