英語を社内公用語にする意味を取り違えてはいけない:ビジネス英語の歩き方(2/2 ページ)
ビジネスのグローバル化が進むと、母国語として英語を話している人と外国語として英語を学んでいる人が同じ土俵で英会話することになります。このとき、“同じ”英語を使いましょうという考え方が「BELF」です。
ネイティブスピーカーが不当な利益を得てはいけない
こうした企業内共通言語化された英語を「Officially mandated English」と言います。「公式に使用を義務づけられた英語」ということで、今後このような英語を使う企業は増えるでしょう。ただし、そこで使われる英語は「米国の英語」あるいは「英国の英語」ではなく、よりシンプルにした「共通語としての英語」であるべきです。
BELFが注目を集める以前から日本でも同志社大学の亀田尚己教授が1990年代半ばからこの視点を発表し、いくつかの国際的業績も上げています。亀田教授や前回紹介した東ミシガン大学のビクター教授などは、日本の「国際ビジネスコミュニケーション学会」の紀要に寄せた論文で、次のように主張しています。
BELFを使うようにすることがこれからの流れであるべきで、米英をはじめとする英語のネイティブスピーカーたちは、英語のミーティング(あるいは他のコミュニケーション)において、意識的に自分たちのローカルな話題、ロジック、慣用句などの濫用を避けるべきだ、と。
さらに、これからの国際会議などで、英語のネイティブスピーカーがその会議での使用言語が英語であることによって享受できる「不当な利益」があってはならないという思想にまで進んでいます。これは英語が下手な人に合わせるということではなく、そのコミュニケーションの目的を参加者全員でいかに素早く達成していくかという視点で見た場合、英語のネイティブスピーカーが議論と関係ない修辞的表現(例えばシェークスピアを引用して皮肉を言うなど)をすることを、厳に戒めるべきだということです。また、回りくどい表現で相手を煙に巻くようなことがあってはならないという主張も含まれています。
発音もシンプルに、そして寛容であるべきだ
BELFには、発音に対してももっと寛容になるべきだという考えがあります。昔から日本人はRとLの区別ができないとか、thが発音できないといわれ、この問題にコンプレックスを抱いてきました。BELFでは、こういうことで悩む必要はありません。
例えば、
We are not going to do it.(ぼくらはそれはしない)
という文章は、ごく普通のプレーンな英語だと言えるでしょう。でも、米国人はこれを、
We are not gonna do it.
と言います。日本語でも「それをしてしまった」が「それをしちゃった」となるように、米口語でも盛んに短縮表現が使われます。しかし、米国人にこれを頻発されたらたまりません。ちなみに、「We are not gonna do it.」は、「ウィア ナッ ゴナ ドゥイッ」に近い音になります。
BELFの運動は、まだこれからという段階にあるのですが、これまでのように米国の生活、ビジネス習慣、文化の細部を知り、そこに生まれ育った人、つまりネイティブスピーカーと同じようにならなければ英語に強くなったことにならないという思い込みは、どうやら時代遅れになりつつあるようです。
今日、世界中で15億人ほどの人々が英語を日常生活の中で使っていると言われます。日本人とドイツ人がオランダで働く、中国人とカナダ人がシンガポールで働く。こういうシーンはますます増えていくでしょう。こうしたグローバル化の時代に、米国や英国の言葉を外国人が使うというより、世界中で通用するシンプルなリンガフランカとしての英語を育てていく。これは、ある意味では壮大な革命になるかもしれません。
著者プロフィール:河口鴻三(かわぐち・こうぞう)
1947年、山梨県生まれ。一橋大学社会学部卒業、スタンフォード大学コミュニケーション学部修士課程修了。日本と米国で、出版に従事。カリフォルニアとニューヨークに合計12年滞在。講談社アメリカ副社長として『Having Our Say』など240冊の英文書を刊行。2000年に帰国。現在は、外資系経営コンサルティング会社でマーケティング担当プリンシパル。異文化経営学会、日本エッセイストクラブ会員。
主な著書に『和製英語が役に立つ』(文春新書)、『外資で働くためのキャリアアップ英語術』(日本経済新聞社)がある。
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