MVNOの正体は「ちょっと特殊な携帯電話会社」:MVNOの深イイ話
「格安SIM」「格安スマホ」という言葉がお茶の間にも浸透しつつありますが、ドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの携帯キャリアとは何が違うのでしょうか? 今回は格安SIMを提供するMVNOについて解説します。
最近、このITmediaを始めとするネットメディアだけでなく、新聞、テレビでも少しずつ見かけるようになってきた「格安スマホ」「格安SIM」という言葉、皆さんはどこまでご存じでしょうか?今回は、この「格安スマホ」「格安SIM」を提供する通信事業者である「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator)について、皆さんにご紹介したいと思います。
MVNOとMNOの違いは「基地局を持っているかどうか」
いきなり本題に入りますが、MVNOとは、これまで皆さんが利用されてきたNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった既存の携帯電話会社とは異なるタイプの「ちょっと特殊な携帯電話会社」です。どこが特殊かというと、一番に挙げられるのは「基地局」を持っていないこと。
基地局とは、全国津々浦々に設置された携帯電話のためのアンテナです。携帯電話は、その内部にあるアンテナを使って、近隣に設置された基地局との間で無線で信号をやり取りし、それにより利用者が音声通話やデータ通信のサービスを利用可能となる仕組みですから、携帯電話にとり基地局は必要不可欠なものなのです。
その基地局を持っていないのに、どうやってMVNOが携帯電話サービスを提供してるのか、というと、基地局を既存の携帯電話会社から借りているのです。これにより、MVNOは基地局を自ら持つことなく携帯電話事業を行うことができます。もう少し詳しく書くと、基地局だけでなく基地局をつなぐコアネットワークやSIMカードなども借りています。
一方、MVNOは、コアネットワークとインターネットをつなげている部分を自社で運用しています(※)。この部分にはPGW(Packet Data Network Gateway)と呼ばれる交換機や、OCS(Online Charging System)と呼ばれる装置などが置かれています。
PGWやOCSをMVNOが携帯電話会社から借りずに、自ら運用していることは、実は大きな意味を持っています。これらの装置はデータ通信の料金プランをつかさどる役割を果たしています。つまり、これらの装置を使うことで、MVNOはネットワークを貸している携帯電話会社とは全く異なる料金プランを(少なくともデータ通信については)提供できるわけです。現在、多くのMVNOは低価格の独自データプランを掲げて携帯電話事業に参入し、競争を繰り広げています。これが「格安スマホ」「格安SIM」の正体、というわけですね。
MVNOの歴史と現状
MVNOというビジネスモデルは、2000年前後に世界各国で登場したと言われています。特に欧州では1990年代に既に第2世代携帯電話としてGSM方式が採用されて携帯端末と回線契約(SIMカード)の分離が進展していただけでなく、伝統的に規制当局の力が強く、携帯電話業界に競争をもたらすMVNOが育つ土壌が既にありました。
世界で見ても、欧州は最もMVNOの導入に関し先行し、かつ成功した地域といえるでしょう。現在ではMVNOに関する規制はかなり緩和されたようですが、欧州ではその後も民間主導で様々なスタイルのMVNOが花開きつつあります。
日本では、2001年にPHSのMVNOから始まり、2008年頃からMVNOの本格的な展開が見られるようになりました。さらに進んだスタイルの、PGWやOCSを自前で運用し、独自の料金プランを提供するMVNOの登場は2012年であり、この頃から、既存携帯電話会社の設備を利用しつつ、既存携帯電話会社と競争する現在のMVNOのビジネスモデルが確立したといえます。
日本の通信業界の監督官庁である総務省も、2002年の「MVNO事業化ガイドライン」策定を皮切りに、2007年の同ガイドライン改正(MVNOの事業範囲や事業展開方法を明確化)、電気通信事業法改正と「二種指定ガイドライン」策定による接続料の算定方法の明確化(2010年)など、MVNOの振興と発展のために取り組んでいます。
地域別に見ると、2014年末時点で、世界のMVNOの59%は先行した欧州のマーケットで事業を行っており、次いでアジア・太平洋地域の13%、北米の11%と続くそうです(※)。日本を含むアジア・太平洋地域でも、MVNOはまだ普及の余地が多いといえそうです。
MVNOの良いところ、注意すべきところ
MVNOには、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった既存の携帯電話会社にはない特色があります。例えばデータ通信の料金はこれらの既存携帯電話会社に比べ大幅に安く、また多くのMVNOには2年縛りがないため、違約金を気にせず、気軽に契約することが可能です。
MVNOによっては、面倒な契約手続きなく利用可能なプリペイドプランを提供しているところもあります。端末(SIMロックフリースマホ)も、既存携帯電話会社のようにさまざまな最新スマホがよりどりみどり、ではないにしろ、最近ではかなり充実したラインアップとなってきました。SIMロックフリー版iPhoneをAppleストアで買うことで、iPhoneで利用することも可能です(※)。
反面、MVNOは既存携帯電話会社と異なり、携帯ショップ(店舗)の展開がほとんどありません。身近に詳しい方がいらっしゃる場合はともかく、「格安スマホ」について知りたいと思っても、「どこで詳しく話を聞けるのか」「どこで契約できるのか」「よく分からなくて困った」という方もいらっしゃるかもしれませんね。
今お使いのスマホでMVNOが利用できるのか、料金プランの選び方や、契約後の設定方法など、多くのMVNOは電話によるサポートを提供していますので、不明の点があれば聞いてみてください。MVNOによっては家電量販店などで専用の窓口が用意されていたり、Twitterで質問に答えてくれるところもあります(※)。
また、MVNOによっては混雑時に通信速度が出ないなど、既存携帯電話会社に比べ通信品質に劣る場合がある、電話のかけ放題のプランがない、MNP転入をしてもキャッシュバックがないなど、既存携帯電話会社で当たり前のことに対応していないことが多いのも注意が必要です。
MVNOは、既存携帯電話会社とは異なるビジネスモデルの、「ちょっと特殊な携帯電話会社」だということを念頭に、疑問や不安に思われることを質問したり、下調べをされてから、契約を検討されると良いのではないかと思います。この連載も、MVNOに関する情報を毎回発信し、皆さんの情報収集の一助になれればと思います。それでは次回もお楽しみに。
著者プロフィール
佐々木 太志
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長
2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。
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