「MVNOの台頭」「ネットワークの進化」「差別化の進む端末」――2014年を振り返る:石野純也のMobile Eye(2014年総括編)(1/3 ページ)
2014年最後の連載では、この1年間で起きたモバイル業界のトピックの中から、筆者が特に注目したいものピックアップした。MVNO、ネットワーク、端末という3つの軸から、2014年のモバイル動向を総括したい。
年の瀬が迫り、本連載も、ようやく年内最後の更新となった。連載は、2012年1月に開始してから、丸3年が経とうとしている。改めて、読者の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたい。また、2015年も連載は同様のペースで続けていく。引き続きお読みいただければ幸いだ。例年通り、2014年最後の連載では、この1年間で起きたモバイル業界のトピックの中から、筆者が特に注目したいものピックアップしていきたい。
2014年を象徴するモバイル業界の出来事といえば、やはり「格安SIM」「格安スマホ」の台頭だろう。MVNOの契約が一気に伸び、SIMロックフリー端末のラインアップも広がった。一方で、大手3キャリアを見ると、ネットワークの大きな進化もあった。特に、音声通話については、ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社が「VoLTE」を導入した。これも、2014年に注目を集めたトピックといえるだろう。また、ネットワークの面では、2013年以上に「LTEの速度」が脚光を浴びた。
高速化の一環として、KDDIは「キャリアアグリゲーション」を導入。同時に、UQコミュニケーションの持つ「WiMAX 2+」にスマートフォンが対応したのも、2014年のことだ。WiMAX 2+対応スマートフォンには、iPhone 6とiPhone 6 Plusも含まれる。これに対してドコモは、1.7GHz帯(Band 3)で20MHz幅を用いて、下り最大150Mbpsの速度を実現している。
端末は、2013年iPhoneが大手3キャリアから出そろったこともあり、Androidでの差別化をする動きが進んだ。中でも印象に残ったのは、KDDIとソフトバンクだ。Sprintを傘下に持つソフトバンクは、共同調達モデルの第1弾として「AQUOS CRYSTAL」を発売。対するKDDIは、LGエレクトロニクスのisaiシリーズを共同開発モデルとして目玉に据えつつ、HTCやASUSといった台湾メーカーの端末でも色を出した。これらのメーカーは、日本市場で得られる知見を生かし、アジア市場にも同じ端末を展開している。
今回の連載では、「MVNOの台頭」「ネットワークの進化」「差別化の進む端末」の3つの軸で、1年を振り返っていきたい。
MVNOが大きく躍進した1年、SIMロックフリー端末のラインアップも広がる
ビッグローブが、1Gバイト、980円の「エントリープラン」を打ち出したのは2013年のこと。そこから価格競争が進み、多くのMVNOがここに追随した。1年で価格はさらに下がり、現在の相場は2Gバイトが900円台になっている。1Gバイトのデータ量であれば、600円台のプランも存在する。こうした低価格を受け、契約者数の伸びが顕著になったのが、2014年の大きなトピックだ。「格安SIM」「格安スマホ」というキーワードは、一般メディアでもたびたび取り上げられ、トレンドにもなりつつある。ニフティ、ケイ・オプティコム、楽天(フュージョン・コミュニケーションズ)、KDDIバリューイネイブラーなどなど、新規参入するMVNOも枚挙にいとまがない。
- →ニフティ、新MVNOサービス「NifMo」を発表 「ZenFone 5」セットで月額2497円から
- →月2960円で7Gバイトまで――楽天が格安通話サービス「楽天モバイル」開始
- →KDDIグループが格安スマホ「UQ Mobile」を発表 月2Gバイトで月額980円から
もちろん、価格の低下だけでは、ここまでMVNOがブームになることは説明できない。低価格化に加えて、音声通話に対応した料金プランが一般的になったことも、すそ野を広げた一因だ。また、MVNOの販路も大きく広がった。例えば、IIJやビックカメラとタッグを組み、同店内にカウンターを設置。NTTコミュニケーションズもゲオの店舗で、SIMカードの即日発行を行っている。IIJやBIGLOBEのSIMカードと、独自端末をセットにしたイオンも、MVNOの認知度を向上させた立役者といっていいだろう。フリービットやU-NEXTのように、独自のショップを持つケースも出てきた。
各社はなぜ、実店舗の開拓に力を入れているのか。1つは、ユーザーとの接点になること。そして、それ以上に大きな理由が、SIMカードの即時開通にある。データ通信のみのSIMカードの場合はオンラインでアクティベーションできるが、音声通話までサービスに含まれると本人確認が厳しくなる。郵送でも対応はできるが、特にMNPの場合は配達中に空白期間ができてしまうこともあり、店舗での契約が欠かせない。
さらに、MVNO市場の拡大を受け、メーカーがSIMロックフリー端末の販売に踏み切った。象徴的だったのがHuawei。同社は、6月に登場した「Ascend G6」を皮切りに、ハイエンドからミッドレンジまで、多彩なバリエーションのスマートフォン、タブレットを発売した。これに対して、ミッドレンジでほどよい性能やデザイン性の高さを打ち出したのが、ASUSの「ZenFone 5」だ。同端末は、楽天モバイルやNifMoのローンチ時に目玉として採用されるなど、ユーザーはもちろんMVNOからも人気が高い。大手メーカーでは、LGエレクトロニクスもSIMロックフリー端末を発売した。
こうした端末の多くはミッドレンジモデルだが、その分、MNOのキャリアモデルと比べれば、本体価格に値ごろ感がある。MNOのスマートフォンは毎月の割引で“実質価格”は安くなるが、その分通信料金が高い。逆に、ミッドレンジモデルとMVNOの組み合わせは相性がよく、トータルコストでMNOを下回ることが可能になる。スマートフォンが成熟期を迎え、ミッドレンジモデル程度のパフォーマンスがあれば、必要十分なことができるようになったのは、以前との大きな環境の違いだ。
MVNOが大きく伸びた1年だったが、それに伴い課題も顕在化している。1つが品質の問題だ。MVNOはMNOから帯域を買ってサービスを行っているため、この部分が細いことがボトルネックになる。実際、MVNOによっては容量無制限の使い放題プランを用意しているが、期待していた速度がまったく出ないといった声も聞こえてくる。今はまだ“分かっている人”がユーザー層の中心なため、大きなトラブルには発展していないが、その状況に甘えたままだと痛いしっぺ返しをくらうことになりそうだ。2015年は、こうした品質面にもフォーカスが当たる1年になるかもしれない。
また、年末にKDDIバリューイネイブラーが参入したが、MVNOの回線を見ると、まだ大半がドコモのものだ。KDDIやソフトバンクの回線を使うMVNOが少ないのは、貸し出す際の接続料が高いため。ほかにも、KDDIに関しては通信方式の問題もあるが、どちらかといえば、接続料がかさんで採算が取りにくい方が大きな要因だろう。接続料は大ざっぱにいうと、設備にかかった費用をトラフィックで割ることで算出されている。算定式が決まっているため、簡単には値下げできないと思うが、やはりドコモの2倍、3倍の差がついている状態ははたから見てもやや不思議だ。2015年はこの接続料が下がり、MVNOの回線が多様化することにも期待している。
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