「ニーズは全然なかった」 ゲームAI“第一人者”が歩んだ苦悩の20年間(2/2 ページ)
「初音ミク」登場の4年前、“時代を先取り”した「くまうた」
そうした声にもめげず、森川さんは別の視点からゲームAIに挑んだ。「キャラを自由にしゃべらせたい」という思いから作った「くまうた」(プレイステーション2向け、2003年発売)だ。
音声合成技術を活用したが、当時の技術では言葉のイントネーションをうまく付けることができなかったため、「歌にしてしまえ」と開発した作品だった。「抑揚のない話し方だと世界観を壊す。歌は普段の会話言葉とはイントネーションが全く違うので、ごまかせる。すごい発見だと思った」
「失敗したのは、演歌とくまを題材に選んでしまったこと」と森川さんは苦笑いする。くまうたの発売から4年後、VOCALOIDソフト「初音ミク」が登場すると「こっちだったか」と反省したという。「くまと演歌の組み合わせでは、(世間の評価は)それはダメだろうと。なぜプロデューサーは止めなかったのか」
「風向きが変わった」
「ゲーム開発にAIが必須という空気になりつつある」――そう話すのは、森川さんと同じくゲームAI開発者で、「FINAL FANTASY XV」(16年発売)などに携わった三宅陽一郎さん。09年ごろまでは「踏んだり蹴ったり」だったが、10年から風向きが変わったという。
「今もグラフィックスは進化しているが、急激な変化は起きなくなった。一方、プレイヤーが(AIとの対話など)インタラクティブなことに慣れるようになり、11年~12年ごろからゲームAIの開発が本格化してきている」(三宅さん)
三宅さんは、ゲームAIを「これまで固定化していたものを動的にするもの」と話す。例えば、プレイヤーの行動に応じて、敵の配置や難易度をAIが“神様のような視点”で調整し、最終的にはストーリー自体もAIが決めるようになる――そんなダイナミックなゲームの開発を目指しているという。
「日本のゲームデザイナーが優秀すぎて、AIが賢くなくてもいいゲームを作れてしまうが、その結果ゲームデザインを束縛するようになった。海外は不器用なので『AIがないと制御ができない』と研究が進み、日本はオープンワールド化の波に乗り遅れた(※)」
(※)オープンワールド……広大な世界を自由に探索でき、ストーリーが一本道ではないゲームジャンル
三宅さんは、日本のゲーム業界はまず、遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークなど“一世代前のモデル”から探求すべきと提案する。森川さんの作品以外に、そうした技術を取り入れたものは少ないが、「日本のゲーム会社はいきなり、計算量が膨大なディープラーニング(深層学習)などに飛びつく傾向がある」という。
「AIは玩具だ」とも森川さん。若い人たちには「ゲームにAIを使うとどうなるか」ではなく「まずはAIをいろいろと試してほしい」という。「いきなりゲームデザインとAIを結び付けるのではなく、AIで遊ぶうちにアイデアが出てくるのではないか。試せることが多い中で、ブレークスルーが起きるのを期待している」(森川さん)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
3
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
4
はてな、11億円流出の調査報告書を公開 偽警察、口外禁止、残業・休出200時間超、孤立……ほころびが連鎖
-
5
Z世代に聞く次の流行、「AIイラスト」が1位に 「Claude Code」も上位
-
6
東野圭吾さん死去、Xなどで追悼相次ぐ 「ガリレオ」など数々の人気作、エンジニアから転身
-
7
NVIDIAやMicrosoftなど30社超、オープンAIの防御ツール共同開発の「Open Secure AI Alliance」設立
-
8
「あ、その情報メモしたい!」を叶えるワイヤレスイヤフォン、Nothing「Ear (3a)」
-
9
有識者はGoogleやX、Meta、ドワンゴを名指しで批判……総務省、偽広告や誹謗中傷に発信・拡散前の対策求める
-
10
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR