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格安衛星電話ありマス(ただし日本以外)アジアから降ってくる衛星電話「ACeS」(2/2 ページ)

» 2004年03月16日 09時25分 公開
[河野寿,ITmedia]
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 タイの通話料金は比較的高いが、それでも日本へは1分32バーツ(1バーツ=2.91円として約93円)である。フィリピンのSIMカードを使えば、1分0.35ドル(1ドル=110円として約39円)で通話できる(いずれもプリペイドの場合)。

 これは、ACeSが離島などでの通信インフラとして使われることを目指しているせいもあって、価格が比較的低く抑えられているためではないか、と考えられる。日本のように離島であってもほぼ電話が行き渡っているような国と違い、東南アジアには無数の島があり、電話の普及率はまだまだ低い。こうした小さな島では、携帯電話のようなインフラは効率が悪い。その点、ACeSを使えばケーブルの敷設も中継アンテナの設置も要らないので、インフラにかかるコストも時間も大幅に節約できるというわけだ。

 また、イリジウムのようにLEO(Low Earth Orbit:低軌道衛星)を66個(打ち上げ当初は77個=原子番号77のイリジウムという名前の由来だった)も打ち上げるサービスと違い、1個の高軌道静止衛星で広範囲をカバーするため、大幅に低コストであることも、通話料金が低い原因の一つであろう。ちなみに、現在の衛星Garuda-1は全世界の人口の60%をカバーしているという。これは、世界でも有数の人口を持つ中国とインド、インドネシアなどが含まれているためだ。

カバーエリアにはなぜか日本が……

 現在、ACeSのスポットビームがカバーしている国は、Aはアフガニスタンからはじまって29カ国におよぶ(マニュアルのリストより)。このなかには先のアフガニスタンのほかに、東ティモール、ブータン、ミャンマー、ラオスなど、通信事情がいかにも悪そうな国がある。こうした国では通信インフラを整えるのはこれからであろうから、ACeSのように、電話回線の敷設も不要で、大掛かりなアンテナの設置も要らないシステムは重宝するであろう。

 ところで、先にも述べたように、このリストには日本も載っている。Garuda-1から出されている電波は、広範囲を一度にカバーするグローバルビーム方式ではなく、狭いスポットをそれぞれのエリアに向けるスポットビーム方式なので偶然当たった……というわけではないようだ。日本にはきちんと90番、91番、100番、102番のスポットが向けられている(もう一つ、日本海に101番が当たっている)ようである。ちなみに、Garuda-1が持っているスポットビームの数は140本であるという。

 スポットが当たっているということは、将来的に日本へ参入を見越しているのかもしれない。だが、現状ではサービス開始の話はまったくない。単に空からスポットビームが当てられているというだけである。

 もちろん、電波管理法があるので日本で使ってはいけないのだが、許認可の問題を別にすれば物理的に使える環境にあることは確かだ。

 仮に日本から通話する場合、先の通話形式を当てはめてみれば、日本からの通話は、「日本→衛星→インドネシア」や「フィリピンなどのNSP→日本あるいは他のどこかの国」という経路になる。はるばる衛星を経由して同じ国に戻ってくることになるわけで、ずいぶん無駄なことをするようだが、通話料金自体はほかの地域からかける場合と同様に数十円/分なので法外に高いというほどでもない。

 日本においてはACeSは許可されていないので使うことはできないのだが、ACeSを扱っているセルフォンドットピーエイチの佐藤秀樹氏によれば、「アジアの奥地などの出張に行かれる方や、公海での通信手段を確保したい漁船の方などに引き合いがあります」とのことである。

 固定電話が隅々まで引かれている日本の国内では、このようなシステムにメリットを見いだすのはなかなかむずかしいが、公海やアジアの電波状況のよくないところへ出かける可能性のある人には魅力的な通信手段である。また、GSMとの親和性や安価な通話料金、購入から設置までの容易さなど、他のキャリアに見習って欲しい点も多々あるシステムといえるだろう。

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