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Linuxに賭けるシカゴマーカンタイル取引所(1/3 ページ)

» 2004年11月11日 12時24分 公開
[IDG Japan]
IDG

 トレーダーの声が活発に飛び交うフロア――その上にあるシカゴマーカンタイル取引所(CME)の静かなオフィスの片隅で、分散コンピューティング・ディレクターを務めるジョセフ・パンフィル氏は、ほんのわずかな時間を短縮することにフォーカスしている。

 “Merc”の通称で知られるCMEでは、システムの性能と取引高との間に直接の関係がある。取引プロセス完了に要する時間を短縮すれば、取引高も増える。取引が増えれば、CMEに入ってくる手数料も増える。

 パンフィル氏の頭の中で、最も重要な測定基準は時間だ。「取引の世界では、あらゆるものが1秒未満の“瞬間”に左右される」と同氏は言う。

 同氏は取引所要時間を短縮するシステム変更実装チームの一員で、これまで取引の往復所要時間を1998年の1.8秒から、今日0.35秒まで縮めている。かつて1件の取引に要していた時間で、現在は5件の取引を実行できる。

 時間をさらに短縮し、ITコストを削減するため、CMEは主要ITシステムの総点検を行い、Sun MicrosystemsのSolarisとSPARCの組み合わせを減らし、Intelベースのサーバで動くLinuxの採用を徐々に増やしている。この移行は約1年前にスタートし、現在30%まで完了している。

複雑なアーキテクチャ

 CMEのアーキテクチャは、主として3種類の技術で構成されている。発注のインプットと建値のアウトプットを処理するUNIXとLinuxのシステム、発注確認と建値を送信するHewlett-Packard(HP)のNonStopサーバ、全取引の“清算”つまり処理を担当するIBMメインフレームだ。

 トレーダーはいまでもCMEの取引所で肩を並べて競りを行っているが、6月以来、多くの取引はCMEの電子取引システム「Globex」上で行われるようになった。CMEは1990年代初期に電子取引を開始し、サードパーティのシステムを利用して時間外取引をサポートしていた。そして1998年、CMEは独自システムを導入した。

 顧客が電子取引環境に求めるものは信頼性とスピードだ、とCMEの最高情報責任者(CIO)ジェームス・クラウス氏は言う。この2件の優先項目の間でバランスを取るために、パフォーマンスを向上させる新技術に興味を持ちつつも、CMEは新しいシステムにすぐに飛びついたりはしない。「どんな変更を施すときでも、われわれはシステムを正常に、高速に動かさなければならない」とクラウス氏。

 アプリケーションのレスポンスを高め、サーバのCPUをアップグレードし、アーキテクチャを変更して取引プロセス中のホップ数を減らすことで、取引時間はかなり短縮された。例えば、以前はプロセスにディスク書き込みも含まれていたが、現在この処理は取引のダイレクトなプロセスから省略されている。

 Linuxを使い、高速なIntelチップに移行するという決断は、取引時間の削減にもつながった。CMEは、Linuxの導入により、取引処理にかかる時間を約0.1秒短縮して現在の0.35秒にすることができたとしている。目標は0.1秒まで短縮することだ。CMEは、さらに高速なIntelチップを採用することで、この目標の中間点まで到達でき、残りはNonStopサーバ上でのアプリケーション最適化が埋めてくれると信じている。

 だが、CMEがLinuxに関心を持った背景には、コスト削減のニーズもあった。Intelベースのコモディティハードウェアを提供するベンダー間の競争を利用することは、CMEの戦略で重要な要素となっている。「Linuxでわれわれが実現したかったのは、完全にオープンで、ベンダーに縛られない環境だ」とパンフィル氏は明かす。

 CMEはLinuxを導入する前から、コスト削減に着手している。「Sunに提示額を下げさせ、もっと競争力のある価格を提示してもらうために、われわれはコスト目標を示した」とパンフィル氏。ある場合では、Sunは1万8000ドルする2ウェイのUltraSPRACサーバの価格を1万ドル以下に下げたこともある。この値引きは「競争の脅威があったからだ」とパンフィル氏は言う。だが、それと同等のIntelベースの2ウェイサーバはわずか3000ドルで手に入る。

Linux採用に向け、準備を開始

 CMEは、Linuxを導入する前に、幾つかの課題に対処しなければならなかった。サードパーティのソフトのLinux上での動作確認や、速度、安定性の検証が必要だった。また、CMEの技術スタッフのトレーニングも必要だった。

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